はなちゃんにディスられながらもはっきり言われてしまった…俺はプレッシャーを感じてなかなか寝付けなかった。
「え?はなちゃん、俺が心配している事判るの?」
「彩斗、わらわを見くびっていないかじゃの。
もう1000年以上、このうつつ世にいるのじゃの。」
「…。」
「彩斗、お前はもともと精神の発信力と言うかそういう物が強かったじゃの。」
「…。」
「お前が時々その粗末な脳みそから変な妄想が駄々洩れになって四郎にそれをやられると調子が狂うから控えろと言われていたじゃの。」
なるほど、俺はかなりてんぱっている時に頭の中の妄想が脳内にはっきりと情景が見え、それを四郎に調子が狂うから控えるように何度か言われていた事を思い出した。
「なんじゃろうかの。
お前はもともと発信力が高くてな。
そもそもワイバーンの人間メンバーの中で死霊が見えるようになったのはまだお前だけじゃの。
見えるだけでなく言葉で意思を疎通できるほどにお前はなっているじゃの。
これはな、正直言って普通の人間では中々出来ぬ事じゃの。
よほど修業を積むとかしないとなかなか身に付かぬ能力じゃの。」
「…。」
「わらわは正直に言って舌を巻くほどにお前の才能と言うか…そう言う方面の力に驚いていたじゃの。」
「それじゃはなちゃん、もっと早くそういう事を…。」
「戯けがぁ!」
俺ははなちゃんに一喝された。
「わらわがそういう事を言うとろくに人格が育っていない2回と4分の1野郎のお前が調子に乗ってしまうと思い黙っていたじゃの!」
「はなちゃん、俺は今12回と4分の1…。」
「そう言う所じゃの!
男女の秘め事の回数がなんの所じゃの!
そう言う下らん事を気にするお前がの!
やたら精神の、心の事に魂の事に能力があること自体がおかしいじゃの!」
…なんかどさくさに紛れてディスられているような気がする。
「わらわも心配しているんじゃの。
ろくに修行も積まないお前が、人格がろくに育っていないお前がそう言う能力に目覚めるとな。
はなはだバランスを欠いている状態で思わぬ落とし穴に落ちてしまうかも知れぬじゃの!」
「…。」
「彩斗、例えばクラにあの回数を聞いたとするじゃの。
クラはその回数を言えると思うかの?」
「え…もう118回とか…。」
「この戯けがぁ!
クラはとっくのあの回数がどうとか覚えていないじゃの!
あの回数などで人の格が決まるなどと思う訳無いのじゃの!
お前は32にもなって未だにそんなつまらん事に囚われているじゃの!
まぁ、四郎や真鈴と出会って質の悪い悪鬼の討伐などいろいろしてきて多少は経験しておるじゃろうが、死霊とコミニュケーションをとったり、他人の精神を読んだり、己の思念を伝えたりなどなそういう事をするにはあまりにもお前の精神が未熟ではないかとわらわは心配しておるじゃの。」
「…。」
「…正直に言うと彩斗、お前の精神力は実は物凄いかも知れぬ。
きちんと育てば大きな力を得るかも知れぬのじゃ。
それこそ、1000年生きてきたわらわさえ凌駕する力を持つかも知れぬのじゃの。」
「…。」
「だがの、彩斗。
大きな力を持つと言う事はその力を制御できねば自爆してしまうかも知れぬのじゃ。
まだお前の力はバランスがとれておらんじゃの。
考えてみよ。
お前が他人の思念を呼んだ時の事を、リアルに映像となってお前の頭に思念が流れ込んで来た時の事を。」
「…え~と…良く判らないな…。」
「お前はスケベな事の時に感受性がとても敏感になっていたじゃの。」
「え~、そうかな?」
何かはなちゃんに言われている内容がとても恥ずかしかった。
俺はスケベ小僧のテレパスと言う所なのか…。
「もちろん他の分野での感受性も高いは高いじゃの。
じゃがしかし、お前の心のコントロールがまだ良く出来ていないから常に思った時に他人に思念を読めると言う訳でも無いし、自分が興味がある事は勝手にどんどん他人の思念が流れ込んでおるじゃの。
それとな、彩斗、あの子供殺しの外道の時、あの小屋の地下で醜悪なオブジェを見た時、お前は鮮明に外道達のビジョンをキャッチしたじゃの。」
「う、うん、それは覚えているよ。」
「彩斗、ろくに精神の鍛練をしていない状態でああいう高い感受性を持つとな、お前自身が闇に取り込まれてしまう恐れがあるじゃの。
お前自身が他人が持つ闇と同化してしまう危険があるじゃの。
げんにあの時、お前は非常に危なかったじゃの。」
「え…。」
はなちゃんが俺をじっと見つめていた。
「彩斗、どんな人間でも悪鬼でも、心の底に深い深い深淵が存在するじゃの。
その深淵を覗き込んだ時、よほど精神の鍛錬を積んでいないとお前自身が深淵に引き込まれてしまうじゃの。
気を付けねば危ないのじゃの。
わらわは他人の心の深淵を覗き込んでな、その深淵に飲み込まれて戻れなくなった人間を何人も見ておるのじゃの。
…わらわ自身も一度危うい時があったじゃの。」
はなちゃんでさえ…。
「え?はなちゃん、それじゃどういう時に気を付けるとか教えてよ!」
はなちゃんは首を傾げた。
「もう細かい事は覚えておらんじゃの。
なにせ700年以上昔の事じゃからの。」
「…ええええ!
じゃあ俺はどうすれば!」
「彩斗、そちらの方面の事はのさととまりあがいるじゃの。
みち達と知り合えてお前はとても運が良いと思うじゃの。
これは何かとてつもなく大きな存在の導きかも知れぬの。」
なるほど、俺の何かが開きかけていると教えてくれたのはさととまりあだった。
「ともかくタイミングが良かったとわらわは思うじゃの。
今、わらわ達は何かと大忙しじゃが、彩斗、なんとか時間を作ってさととまりあに会うべきだと思うの。」
「…。」
「でないと思わぬ落とし穴がお前のすぐそばに大きな口を開けているかも知れぬじゃの。
さととまりあはその辺りのスペシャリストじゃの思うの。
悪い事は言わんから急いで時間を作るべきじゃの。
景行や四郎にはわらわからも言って置くじゃの。」
「…。」
「彩斗、お前はまだまだ情けなくてひよっこじゃが、忘れてはいけんじゃの。
お前は成り行きと言えどワイバーンのリーダーじゃの。
お前が実はわらわ達の要となる存在じゃの。」
「…。」
「その事に自覚を持ち、目先の忙しさにかまけていないで何とか時間を作るじゃの。」
「…わかったよはなちゃん。」
「判れば良いが…彩斗、もう一度言うが、なんだかんだ言ってお前がワイバーンの要じゃの、景行でも四郎でも真鈴でもジンコでも圭子でも喜朗おじでも加奈でもクラでも凛でも無くて、他の誰でもないのじゃの。
お前がワイバーンの要なんじゃの。
これはわらわの勘じゃけどな。
そういう事じゃの。
わらわを真鈴の部屋に連れて行け。」
「うん。」
俺ははなちゃんを抱いて真鈴に部屋に行き、ノックして部屋から顔を出した真鈴にはなちゃんを渡した。
何か…どさくさに紛れて…いや、はっきりと言われてしまった。
俺は部屋に戻りベッドに寝ころびながら今更ながら責任の重さに胸が押しつぶされそうなプレッシャーを感じた。
戦闘の事は四郎と明石、論理的な事や法律的な事は真鈴とジンコに、日常の事や経理の事は圭子さんにと色々と頼ってきた気がする。
その度に、じゃあ俺は?
俺は何が出来るのだろうか?と不安を感じていた時もあった。
だが、さっきはっきりとはなちゃんからワイバーンの要は俺だと言われた。
なんだかんだで成り行き上のリーダーと心のどこかで思っていた俺だった。
例えばワイバーンが野球部だとしたら、俺は監督でもキャプテンでもなく、マネージャーの様な立ち位置じゃないかと思っていたのだ。
そして、俺の思念が開きつつあり、その能力は俺の人格の成長が追いついていなくて、とても不安定で危険な事だとも言われた。
俺はベッドで何度も寝返りを打ってなかなか寝付けなかった
…俺はいったいどうなるんだろうか?
…俺はこれからどう振舞えば良いのだろう?
続く