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吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編  作者: とみなが けい
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あの子供殺しの腐れ外道が…ワイバーンの苦労は続く…凛が居なければ俺もジンコも死んでいたかも。

吸血鬼ですが、何か? 第9部 深淵編 



俺達は2階の張り出しにある傍聴席の床に伏せてあの外道が、醜悪な化け物に変化した化け物がごつい脚を振り回して暴れるのをなすすべもなく見ていた。


「くそ!どうする?」


俺が言うとじっと化け物を見つめているジンコが言った。


「奴はまだ自分の体を上手に制御できていないようだわ!

 彩斗、凛、奴の脚の動きを見て!」


ジンコに言われて俺と凛が奴のごつい脚を見た。

凶悪な破壊力を持つ脚は時々狙いを外して場内にうずくまる人間の体めがけて伸びて行くごつい脚が人間の体を外して横の壁に穴を開けたり、複数の脚が同じ人間めがけて伸びて行き空中衝突をしたりしていた。


「なるほど。

 しかし、俺達の動きよりは早いな。

 このままここに伏せていてもいつかやられるぞ。」


俺が言うと凛が傍聴席の手すりから顔を覗かせて場内を見回した。


「彩斗、ジンコ、あそこの出入り口から廊下に出れるよ!

 外の光が差し込んでいるから窓がある筈!

 今、ここにいる人たちは残念だけど今はどうしようもないわ!

 私達が外に出て景行や四郎達に何とかしてもらうしか無いわね。」


凛の言葉を聞いて俺とジンコは傍聴席から下を見た。

飛び降りる事が出来ないわけではない。


「そうするしか無いわね!

 でも、鈍いとはいえ奴の脚が10本もあるよ!」


ジンコが叫ぶと凛が立ち上がった。


「私が一番すばしこいから囮になるわ!

 私が奴の注意をひきつけてる間に彩斗達は飛び降りてあの出入口へ!」


凛が俺達の言葉を待たずに傍聴席から飛び降りた。


「この化け物!

 やれるならやって見なさいよ!」


凛が法廷の床に降り立って外道の化け物に叫んだ。

化け物の醜悪な笑顔が凛に向いた。


「ひょほほほほ!

 生きがいい獲物じゃんかよ!

 串刺しにしてやるぜ~!」


化け物の4本の脚が凛めがけて伸びて来た。

その内の3本が途中で空中衝突し、残った1本を凛が余裕で躱して法廷内を走り回った。


「へたくそね!

 串刺しにするんでしょ!

 やって見なさいよ!

 のろまでうすのろの化け物!」

「きぃいいい!

 殺してやる殺してやる殺してやる!」


化け物の脚が次々と凛に延びて行くが凛はそれを躱しながら法廷内を走り回った。

化け物の胴体が向きを変えて俺とジンコに背を向けた。


「ジンコ、行くぞ!」


俺とジンコが傍聴席の手すりを乗り越えて法廷の床にダイブした。

俺は上手く着地したがジンコは着地した場所の人間の下半身に躓いて足首を押さえて苦悶の表情を浮かべた。


「ジンコ大丈夫か!」

「くそ!彩斗!足首を捻ったわ!」

「立て!逃げるぞ!」


俺はジンコの身体を引っ張り、肩を貸しながら出入口めがけて走った。

奴が俺達に気が付いた。


「ひゃはははは!

 こそこそしやがって!

 逃がすかよ!」


化け物の2本の脚が伸びて来た、凛がすかさずその一本に飛び蹴りを食らわせた。

その脚の軌道がずれてもう1本の脚に当たって俺達の体に当たらずに済んだ。

俺は足を引きずるジンコを抱えて出入り口から廊下に飛び出した。

無人の廊下が伸びていて横を大きな窓が並び、廊下の先を何人もの人間達が混乱して走り回っていた。

法廷の壁を突き破って廊下に化け物の脚が飛び出してきた。


「逃がさねえって言ったじゃんか~!

 きゃはははは!」


法廷からあの外道の声が聞こえて来た。

しかしはっきりと俺達の場所を掴んでいる訳でなく突き出た脚は周りの空間をやたらにひっかいていた。

俺とジンコは退路を塞がれて廊下の反対側を見たがその先の壁を新たな脚が壁を突き破って先についている鋭い爪が辺りをひっかき始めた。

凛が廊下に飛び出してきて、そして廊下の窓を見た。

人間が手を伸ばせば届くような高い作りになっていたので、足を挫いたジンコを連れて窓を突き破って外に飛び出すのは無理があった。


凛がいきなり破くようにジャケットを脱ぎ捨てた。


「彩斗、ジンコ!

 こっちに!」


凛がズボンを降ろし下着を剥ぎ取る様に脱ぎ捨てるとあの白馬に変化した。

少し声が野太くなった凛の声が聞こえた。


「2人とも私に乗って!

 痛いけどけど我慢するからたてがみを掴んで捕まるのよ!」


嫌も応もなく俺はまずジンコを白馬の凛の背中に乗せて俺もよじ登った。

もう1本の脚が俺達のすぐ横の壁を突き破って来た。


「いくよ!

 捕まって!」


白馬の凛は俺とジンコを乗せて近い場所の化け物の脚を飛び越え、少し向きを変えて大きな窓に向かって跳躍した。


物凄い音と共に窓を突き破った凛の白馬と俺達。

裁判所の生け垣を越えた場所に着地した俺達を化け物の脚が追って飛び出して来た。

裁判所の敷地のフェンス越しに騒ぎの音を聞いて集まってきた人たちの悲鳴が聞こえた。

俺達と凛の白馬に向かってごつい脚が伸びて来た。

凛の白馬が走りだそうとするすぐ後ろに足が伸びて来た。

その時、微かなくぐもった銃声と共に脚の先端に銃弾が当たり、脚の勢いが弱くなった。

尚もくぐもった銃声が聞こえて更に脚に着弾した。

敷地のすぐ近くの場所に黒いハイエースが停まっていてその小窓から微かに煙が上がっている。

俺達を乗せた凛の白馬が走りだした。

一直線にハイエースに向かいたかったが見物人が邪魔なので柵沿いに走り出した。

もう1本の脚が別の窓を突き破って凛の白馬に延びて来た。

くぐもった銃声と別に今度は離れていてもビクッ!と身を震わせるような銃声が鳴り響き、化け物の脚の先が千切れそうなほどに吹き飛んだ。


あれは間違いない。

最初のくぐもった銃声は圭子さんのサプレッサー付きのSR25、そして今のでかい銃声は加奈の『加奈・アゼネトレシュ』だった。


化け物の脚の追撃を振り切り、必死にしがみつく俺達を乗せた凛の白馬は柵沿いに走り、見物人たちの隙間を見つけると見事に跳躍して道路に飛び出た。


後ろを振り返ると裁判所の周りに見物人が集まり遠巻きに裁判所を見つめていた。

報道陣もいてカメラを裁判所に向けている。


「凛!どこか人目につかない所に!」


俺達を乗せて通りを走る見事な白馬に通行人たちが仰天して道を開けた。

凛の白馬は暫く走ってビルとビルの間の路地に走り込んだ。

俺達は凛の白馬から降りた。

足を引きずったジンコが俺にジャケットとズボンを脱ぐように言って自分のジャケットを脱ぐと俺に腰に巻くように言った。


「彩斗!入り口を見張ってて!

 良いと言うまで振り向いちゃ駄目よ!」


ジンコに言われて俺は路地の入り口を見張った。


「もう良いよ。」


ジンコに言われて俺が振り向くと、人間の姿に戻った凛が俺のズボンをはいて俺のジャケットを着て裸の身体を隠していた。


「ハイエース迄戻ろう。

 凛、命の恩人だよ。

 ありがとう!」

「凛が居なかったら私たちどうなっていたか判らないわ!

 本当にありがとう!」


まだ荒い息をついている凛が顔を赤くして大丈夫よと小声で答えていた。

俺はパンツ一丁の下半身にジンコのジャケットを腰に巻いてヤバい姿ながらも外を歩ける姿だと納得してハイエースに向かった。


街はパトカーのサイレンが響き渡り、すでに裁判所の周りは規制線が引かれていて見物人たちの人垣が出来ていた。


ハイエースは規制線の中だったがジンコが警察庁警視の身分証を出して俺達は規制線の中に入った。


ハイエースの扉を開けると、四郎達が既に戦闘服に着替えていた。


「彩斗達大丈夫だった?」


真鈴が心配そうな声を上げた。


「ああ、凛と圭子さんと加奈のおかげで助かったよ。

 サンキュー。でもジンコが足を挫いた。」


ジンコは直ぐに喜朗おじに脚を見せて手当をしてもらった。

喜朗おじがジンコの脚を包帯で固定しながら言った。


「はなちゃんが法廷で奴の殺気を感じ取ってなハイエースで近づけるまで近づいたんだ。

 重装備を載せて来ていて助かった。」


運転席の四郎が言った。


「ともかくここからいったん離れよう。

 あいつを討伐するにはいくらなんでも目立ち過ぎだ。

 クラと景行が駐車場で待っているしな。」


四郎が言ったが全くその通りだ。

幾らなんでも目立ち過ぎる、この場で裁判所に乗り込んで行って奴を討伐できても俺達の存在は白日の下に暴き出されてしまう。


四郎がハイエースを運転して警官に身分証を見せて規制線から出ると駐車場に向かってクラと明石に合流した。

その間に凛と俺は戦闘服に着替えた。


「さて、あの野郎はいつ誰の仕業で悪鬼になったのか、そしてあんな目立つところで何故暴れ始めたのか疑問は尽きないな。」


明石がそう言いながらハイエースの中のテレビモニターをつけた。

もうニュース速報で裁判所の騒ぎが大事になっている。

そしてテレビカメラには逃げる俺達の白馬を追って窓から突き出された外道の化け物の脚がはっきりと映っていた。

俺達の存在も、隠しても隠し切れないあの化け物の脚が世間に発覚してしまった。

一体これからどうなるのか…。


「あの外道が…創始者万歳と叫んでいたよ…そして、樹海地下の蜘蛛の化け物そっくりだった…樹海の蜘蛛の化け物の数段大きかったけどね。

 くそ、奴は樹海地下のくそ野郎の置き土産だったんだ。」


俺は言うと一同が沈黙した。

その時俺のスマホに着信があった。

リリーからだった。






続く




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