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戦闘で見えた光明

 

『クウウウウウウウ!』



 高速で周囲を這いずるように走り回り、仁王立ちするマザー。対して私はなるべく動かず、マザーだけを捉える立ち回りで体力を温存する。

 単純に体格差のある相手、まともに競り合いに付き合えば先にバテるのは私の方だ。


 小柄ゆえに燃費は悪いし体力も防御力も低い。故に向こうの攻撃のすべてが私にとって致命傷となる。

 一瞬たりとも気は抜けない。安全なところまで逃げ切るか、マザーを手に掛け殺さなければ。



『ヂャッ!!』


 先手を打って飛び掛かってきたマザーの下を潜り抜け、一定の距離を保つ。

 攻撃のリーチが短いのは相手も同じだ。


 焦らず最低限の動きだけで避け続け、一瞬の隙を突いて急所を噛み切ることだけが私に与えられた唯一の勝算である。それに最悪、敗走という形になるが逃げることだってできる。



 いや、敗走という言葉は不適切か。言い換えれば逃げるが勝ちってやつだ。だって私負けてねえもん。




 ちょっと言葉と意味合いを変えるだけでマイナスがプラスになるなんて、やっぱり日本語って便利だな。アイムジャパニィズ。イッツオーケー?シェシェ。





 ドゴォン!!!



 オッケーじゃなああああい!!!マザーがすぐに私に向かって突進してくるううう!あーお客様困ります、困ります!お客様の中に翻訳家もしくはハンター的な方はいらっしゃいませんかあぁぁぁぁ!!助けて誰かヘルプミィィィィィ!!!



(くっ....!!!)



 絶叫しながらマザーの攻撃を避ける。私のすぐ後ろで柱にマザーが激突する爆音が響きわたった。人家の屋根裏部屋で、手のひらサイズの小さな命がぶつかり合っている。自然界、大きな世界の中ではわりとどこにでもある光景だったが、まさかここまで心臓をバクバクと揺さぶる世界だったなんて。



(ネズミ生、なめてたぜ。)


『キィィィィィィィ──────ギャリギャリギャリギャリ』



 マザーが四つん這いになり、長い歯を床に突き立てて不快な音を発する。



 そして、再びこちらに向かってぶつかってきた。



 ブゥン、ドゴォン!!!



 こっちはマザーの巨体を回避するので精一杯。本当に勘弁してほしいわ。

 私は柱に激突してなおピンピンしているマザーを睨んだ。



『ヂュウウウウ...』



 ステータス差がどんなもんかはわからない。

 いや、ぶっちゃけサシでやったところで敵わないだろ。こちとらステータス全部一桁だぞ。おおん。

 噛みつくしかなかったホワイトアントとは違うんだぞ。あいつの噛みつきも相当痛かったけどな。



 てかあれでレベルアップしなかったんだな。流石に初戦闘があんな呆気なきゃ上がるもんも上がらないか。



『キュウウウウウ!』



 更にマザーの突進が私の真横を掠めていった。スキルでいうと飛びかかりを連打している感じか。外しては柱にぶつかって自傷してる。


 たまに木製の屋根にぶつかって、その衝撃で脆い壁に弾痕のような小さな穴を開けているようでもある。マザーの開けた穴から木漏れ日ならぬ穴漏れ日が射してきた。うは、眩し。




 自傷してる間にちょっと技整理をしとこう、おーぼーえーてーるわーざーはー...噛みつきだけですね。はい。後はハイジャンプ。



 圧倒的サイズ差。




 スキルのレパートリー。




 そして恐らくかなり差があるであろうステータス。





 ......。





 勝てるわけがないよおおおお!むりだよこんなのおおおお!




 ──────ひゅっどがぁぁぁん!!!



 っひゃああああ!!!かすった!掠ったって!ひゅんって鳴ったってひゅんって!!耳元で風切り音鳴ったってほんとに!これ誇張じゃなくて!!!

...思ったより速えんだな、このマザーってやつは。こいつもただただベビーの多頭飼いしてるだけじゃなかったって訳だ。ホワイトアントとは全く持って格の違う、私からすれば初めてのボス戦といっても差し支えない存在だった。



『ギチ...』



 再びマザーがこちらに振り向き、鋭い眼光が私を捉える。考えろ、どうすれば勝てる。私の数倍はあらん巨体に、飛び掛かりによる攻撃は決して緩慢とは言い難くその全てが私にとって致命傷であることは火を見るより明らかだろう。攻撃をまともに喰らえば、文字通り一発ゲームオーバーである。そんな絶望的な状況で危険な賭けを何度もし、それに読み勝ったうえでチマチマと有効打になる攻撃を当てていかないといけない。





────面白ぇ。丁度ネズミとしての生を実感し始めたところで、ようやく自分がネズミであることを認められるようになってきた頃合いだ。やっとこさ認められたというのに、ここでみすみす終わっちゃ勿体ないだろ.......なあ、マザーよ。



『ギチッ....ギャアァァァァ!!』



 マザーが吠える。私の目付きが変わったのを、彼女も肌で感じたのだろう。動物なのだから殺気の感じ方も人のそれより遥かに敏感であることは理解している。



『ヂュッ!』


 再びマザーが私に向かって飛び掛かる。その反抗的な目を潰してやるとでも言いたげに、一直線に私を捉え覆い被さるように短くジャンプしてくる。


 先程までは怯えて回避に専念してきた私だったが、冷静にマザーの動きを見れば懐はがら空きで、酷くのろまに見えた。


 体感1秒のラグが、無限に突ける弱点のようにも感じられた。




─────ハイジャンプ!!




『ギヂッ!?!?』


 私は無防備なマザーの腹に向かって跳躍し、全身をヤワな腹に全力を懸けてぶつかった。マザーは大きくよろめき、体勢を崩し地面に吹っ飛ばされる。





 これが、この一撃が初めてのれっきとした有効打であることを理解し、一つの確信に至った。マザーも別に、大した相手じゃない。

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