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VSマザー

 


『ギィィィ────ッ!!』



 マザーが歯をガチガチと鳴らしながら、突進をかわした私を一心に睨み付けている。明らか親が子に対してする表情ではなく、どちらかというと藁にもすがる勢いで獲物を見る目だ。



 どうして、どうして今私は実の親に殺されかけているのだろうか。あれか、勝手に外に出たから勘当されたのか。


 雛がうっかり親元を離れると子供と認識してくれなくなる、みたいな話は何処かで耳にした記憶はある。

 だとしても、いくらなんでも子供の臭いを忘れるのが早すぎる気がするが、それよりも問題なのは地面に散らばった同胞の死骸の方だ。



 目を凝らせばまだ何匹かは生き残っているが、親元を離れた不安とストレスから全身をバタバタさせている。まだ足がおぼつかない辺り、姉弟の中でも後々生まれた子らしく、私がこうして迫害されるのも私はもう大人として十分育ったという意味なのだろうか。






 ……いや、なんかそんな感じじゃない。マザーの状態が異常であることは明らかだ。もし仮にそう思ってたとして、何故実の子を手に掛けているのだろうという問いの答えにはなっていない。



 ─────


【ハウスラット・マザー】


 《スキル》

[汚染攻撃.Lv1][噛みつき.Lv4][道連れ.Lv-]

[毒牙.Lv1][飛び掛かり.Lv1][眼光.Lv1]



 《耐性・特性スキル》

[毒耐性.Lv4][麻痺耐性.Lv1][毒媒介.Lv3]

[危険予知.Lv-]


 《称号》

[マザー][同族喰らい]


 ─────



 解決の糸口を探そうにもこのスキル差である。さっきまではあんなに穏やかだったのに、一体どうしてしまったというのか。



『ヂィ″ィ″ィ″ィ″ィ″ィ″』


(───ああクソッ!!)



 獲物を見る目でこちらを睨んでいたマザーがついに飛び掛かってくる。スキルだけでなく体格差もあるせいで、単純な直進でさえも全力で避けなくてはならない。万が一かすりでもしたら致命傷だ。




 それにマザーと自分の実力の差も無視できない程には開いている。純粋な地力に体格、耐性スキル含めあらゆる点でマザーに分があることを、嫌と言うほど理解させられる羽目になった。少なくともまともに殺り合って勝てるような相手じゃない。



『ヂヂヂヂヂ……』



 ふとマザーの牙が毒々しい紫色に染まっているのが見えた。

【毒牙】だ。覚えたてなのかレベルは1と低く、一応私の方も同じレベルの毒耐性を習得している。




『ヂャ″ア″ア″!!!』



 だが同じレベルの1とは思えないほど毒々しい牙を見せつけながらマザーが再び飛び掛かってきた。

【毒牙】そのものは《飛び掛かり》と《噛みつき》の延長線上でしかなく、さほど脅威というわけでもない。

 ないけれど、わざわざ食らってやる道理なんてどこにもないし、そもそも体格差からマザーラットの【毒牙】の毒の濃度と私の【毒耐性】の効果は必ずイコールではない。


 私に毒を吐き着けた先輩ネズミの衝撃耐性が3あったが、結局人に鈍器で殴られれば一溜まりもないのと同じことだ。




 私はマザーの牙に触れないよう、なるべく余裕をもって回避もとい、逃げ回るのがやっとである。反撃なんてする余裕はない。もし出来たとしてもヤツの媒介している毒に返り討ちにされて苦しめられるのがオチだ。



 だから反撃はしない。なんならいっそ、このまま逃げてしまったほうが寧ろ安全な気がしてる。


 カウンターカウンター。攻撃に転じる瞬間が最も隙を晒すから。




『キシ……』



 ひょんぴょんと跳ね回って距離をとる私を見て恨めしそうに鳴き声を上げるマザー。相手にするのが面倒臭いと思ったか、よくよく見たら不味そうに見えたかは分からない。


 それでも一瞬躊躇してくれたならありがたい。この隙に退散するのが吉か。



『チ“ャ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“ァ“!!』



 マザーが金切り声を上げる。キレてるキレてる。完全にぶちギレてますやんマイマザー。私が帰ってきた矢先にこれだからなあ、どちらかというとキレたいのはこっちな訳ですけど。



 ……とりあえずもう一度解説を頼んでもいいかな。特徴さえおさえておけば、もしかしたら解決の糸口を掴めるかもしれないし。




【ハウスラット・マザー】


 《安定した土地に定住することができたハウスラットは子供を宿し、種を後生に残す役割を持つ。一般的なハウスラットに比べて凶暴性を増し、有事の際には倍以上の体躯を持つ人間にも襲い掛かることがある。群れの存続に関わる行動を担っており、場合によっては間引きを行うこともある。》



 なるほど、現在いとも容易く行われているえげつない行為が間引きだということはわかった。更にマザー化したことによる凶暴性とやらが、子供である私に降りかかってきているのだ。



『ヂギィィィィィィィィィ!!!』(マザーの鳴き声)

「キュイイイイイイイイ!!!!」(私の鳴き声)


 ああもう、理不尽な。まあ遅かれ早かれ親元を離れる気ではいたから、家出する覚悟はもう出来てる。それも向こうから勘当するってんなら願ってもねえ、予定は大分早いけれど私は生きるぞ一人でも。



「......。」


 しかし、息巻いておいてなんだがやはり怖いわ。めっちゃ怖い。相手は数倍もある巨大な大ネズミで、スキルも耐性も私と比べればちゃんと備わっている。

 まともにやりあえば向こうに分があることなんて百も承知だが、こんなところでむざむざ死ぬつもりもない。



 やっとこさネズミとして生きる覚悟を決めたのだ。精々足掻いて逃げ延びてやろうじゃないか。

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