表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

はじめての戦闘と食事

 ──そしてまともな訓練なんてしてこなかった私が突然の先制攻撃に対応できる訳もなく、まんまと鼻先に噛みつかれたのだった。 

 これこそまさに出鼻を挫かれたって訳か痛たたたぁっ!人間相手でもただでさえ結構痛いんだからあっ!マジ痛え!痛覚がヤベエ!パネエ!体感だけど人間の時より感度が3000倍くらい上がってやがる、18禁モノかよふざけんなよこの野郎、あれだって精々300倍かそこらで落ち着いてるだろうがほんとふざけんなぁぁぁぁぁ!おああああっ!いてえええええっ!!



 ちょ、ちょっと待ってよ……[噛みつき.Lv1]ってこんな痛いの?マイマザーの[噛みつき.Lv3]なんて喰らったら死ぬんじゃね私。



 想像しただけで明らかヤバいもん。そんなの絶対喰らいたくないし、帰ったらちゃんと良い子にしてよう。




『ギリギリギリギリ……』



 私の無様オブ無様な暴れっぷりに怯んで逆走していたホワイトアントがこちらに向き直り、再び噛みつきを仕掛けようと突撃してくる。


 さっきはしてやられたけど、なにも噛みつきができるのはお前だけじゃないんだぜホワイトアントぉ!!



『ジジジジジィ!!!』


 ホワイトアントの牙が届くより先に私の長い歯がホワイトアントの甲殻に当たった。

 衝撃でひっくり返った御相手が脚をばたつかせて必死に態勢を建て直そうとしている。



『ガガッ!ガチガチッ!』




 おー、歯?牙?鋏?をガチガチを打ち鳴らしながら奇声を発して起き上がろうとしてる。このまま置いておいても面倒くさいだけだしな。動けなくなったが最後、私はホワイトアントの脚に噛みつき、そのまま脚をブチッと噛みきった。




 かった……!くそ、歯が……



 私に昆虫食の趣味はないし、この脚をどうしてやろうかという気も湧かなかったのでペッと吐き出し、二本目の脚に噛みつき同じ要領で噛みきってやった。



『ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリ』



 一本目を切った時より明らか怒ってるな。ホワイトアントはひっくり返ったまま暴れ回り、私から逃れようと必死に抵抗しようとしているらしい。



 見てるだけで痛々しいし、生物をむやみにいたぶる趣味はないのでね……。後一本はせめて切っておいて反撃のリスクを減らすくらいにしておこうか。



 おりゃ。



『クキィィ──────────』




 ホワイトアントが鳴いた。それも今までにない金切り声を発して。

 うるさっ、今更だけど蟻って鳴くんだな。断末魔が耳に響いて痛い。鼻と耳が今滅茶苦茶痛い!じーんってくる!



 煩い!煩い!黙れ!



『────────……』


 煩さに敵わずホワイトアントの頭と身体を繋いでいる点、首目掛けて歯を振り下ろした。

 その結果、たった数回歯をぶつけただけで呆気なく頭と身体が離れ、白蟻は即座に物言わぬ死骸と化したのだった。



 呆気ねえ、脆すぎる……じゃなくて、今の悲鳴!ホワイトアントの声を聞いてあの少女が来るかもしれない!!



 私は姿勢を低くし、ベッドの隅へと猛ダッシュする。




 .....。




(そのまま沈黙が1分程続く。)



 ……来なかった。というか来る気配すらない。結構大きな金切り声みたいな音だったから思わず構えてしまったものの、人の耳って案外鈍いのかもしれない。


(……)



 今日は何かと疲れさせられる日だこと。神経を擦り減らしすぎてなんだかお腹減ってきた。手頃なご飯はないかなキョロキョロ。







 あ、言っとくけど食べないよ?蟻なんか。


 何をもってこんなもん食べなきゃ行けないのさあ。栄養満点だかなんだかしらんが、人が昆虫を食すようになった暁には自害する自信がある。

 こんな巨体で得たいの知れない、羽の生えた蟻なんて食べる気しないわ。

 にしてもなんで羽なんて生えてるのさ蟻のくせして。羨まsゲフンゲフンおぞましいわ。もっとこう地面に這いつくばってせっせと餌を運んでるもんじゃないのか蟻って普通。



 なんか馬鹿みたいにツッコミしたら更にお腹空いたな。見回してはみたけど流石に寝室には食べられそうな物は置いてなさそうだ。

 あの子がベッドの上でお菓子を貪るなんてこと、多分しないだろうし。



 うーん……困ったなあ。このままだと私の昼飯がシロアリになってしまう。にしても、普段から木ばっか食ってるこいつらって一体どんな味がするんだろうか。



 べ、別に食べたくはないけどさ、なんか気になるんだよね。

 怖いもの見たさってやつ……ともちょっと違うけど、味だけどんなものかを教えてほしい。



(……)ギュルルルル



 味について考えていたら、更にお腹が鳴った気がした。もう激しい運動はできないなぁ。お腹減った。現在目の前に置かれた唯一の食べ物と呼べるものは、ホワイトアントの死骸である。


 これを食べ物と呼べる時点で既に私がトチ狂ってるということは自分でもなんとなく察してるけど、そろそろマジで限界が近い。






 ええ……これを食べるの??とてもじゃな……ってか蟻の生食とか絶対したくねえ。せめて衣でサックリと原型が残らない程度に揚げて貰えば多分……


 ……いやいや蟻だとわかっていて食べさせられる方が寧ろ嫌だわ。もしそんなことをしてくるようなら、例え悪戯であってもそいつと縁切るわ。



 でも……うう、考える程お腹はどんどん空いてくる。今思えばこんな小さな身体で飲まず食わずやるのは無理があるな。燃費もかなり悪そうだし、前世みたいに長い活動は出来ないなこれ。





【飢餓耐性を会得しました。】



 そんな感じで考え事をしていたら、いつの間にかこんなスキルを獲得していた。

 うーん、その耐性ってやつでいっそこの場を切り抜けることって出来ませんか?出来ないですか、そうですか。




 どうやら今の私にはこの蟻を食べるか死ぬかという二つに一つの選択を迫られているようだ。

 余計なことを考えている暇もないほど時間は差し迫っている。


 現にお腹は空いている。動けない程ではないが動物の本能が「何かを食べなきゃ死んでしまう」と警鐘を鳴らし、上手く一歩を踏み出せないでいる。



 そして私が勝ち取った食べ物はこのシロアリ、それもたった一匹なのである。そんなうじゃうじゃ居られても困るが、それとこれはまた別の話である。



(……。)


 生きるか死ぬか、覚悟を決めろ私。すう~(深呼吸)。はあ~……。




 さあて、始まりました1秒クッキング!本日の料理はシロアリのお頭の生食です!食材はシロアリの頭のみ、これはお手軽ですねえ!驚くのはこれからですよ奥さあん!なんとなんと着色料、保存料、その他食品添加物などは一切使われておりません!それどころか塩コショウもふられていなぁい!これはこれは自然が感じられそうな一品に仕上がりましたねえ!



 前置きはこのあたりにして、それではいざ!実食!!!カンカンカン!



 ぎゅっと目を瞑り、私の目の前にあるであろうホワイトアントの頭に思い切りかぶりついた。え、さっきのやつ?あーやってぶっ壊れなきゃシロアリなんてとても食す気になれねえだろノリだよノリ!




 ねちゃっ……ねちゃっ……





 割りと柔らかくて、さらさらとした不気味な舌触りが妙に残る感覚。

 普段木ばっかり食べてることがわかる腐った自然の芳香。そしてクモの巣をたべているかのように歯に纏わり付くねばねばとした不気味な汁……








.....うん、マッッッッッズ!!





 ハッキリいって腐ってんだよ、これぇ!シロアリの体内で蓄積された木の香りは時間がたったのか腐食しきってて、ただでさえネズミ状態で敏感になっている鼻に直接響いてきやがる。


 おまけに新鮮さ抜群とでも言わんばかりのねばねばとした体液が舌触りに次いで喉を通る不快感に、普通に吐きそうになった。

 しかもこれが液体っていうんだから噛めば噛むほど肉と混ざってが口一杯にこれでもかと広がってくる。数口はいけるが長い間咀嚼してられない。



────前言撤回、やっぱシロアリなんて食えたもんじゃねえわ。新鮮とか自然とかで片付けられない、最早異物だった。好奇心は猫をうんたらともいうし、ネズミの私はより慎重に、堅実に生きなくちゃいけないと感じた瞬間でもある。



 でもお陰でお腹に余裕は出来た。満腹には程遠く腹八分にも満たないが、特に問題なく動けそうだ。どれくらいお腹が持つかもわからない今、早いところ食料の安定した供給ルートを探すのが先決だろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ