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踏んだり蹴ったりデー

 


 回る。回る。蟹が甲羅を背に回転する。



 砂煙を巻き上げ、脚や鋏をひっくり返った虫のように開閉させながら向かって来るその姿は、まさに意思を持ったベーゴマのようである。あんなものに触れたら即死は免れない。それどころかネズミの身体がリアルバーストして、血飛沫があれよあれよとそこらじゅうに飛び散って見せられないよ状態になるのが目に見える。






 お願いこないで。頼むから。死ぬからマジで。冗談とか抜きで。




 悔しいが今の私に出来ることは逃げることだけだ。あんなもん、軽くぶつかっただけで死ぬ。鋏が一瞬触れただけで、肉がかっ捌かれかねない。



 寧ろ見た目のインパクトこそ凄いけど、回ってるいまが逃げるチャンスでもある。脚を使ったヤツの全速力のダッシュですら、私に及ばないのだから。現に少しずつ、少しずつではあるが砂煙が薄くなっているのがわかる。ちょっとずつ距離が開けてきているようだ。



 ここでカニを逃すのは正直惜しくはある。やっとこさ見つけた格下の狩り場を手放すのは癪だが、延々こいつの脅威に怯えていては心臓が持たない。たった一瞬の隙が、偶然起きた事故のひとつが私の命に関わるのだから。




 今暫くは、この川原には近づけないな。近づいたとしても水分補給のために訪れるくらいだろう。カワラガニ一匹狩るのですら、私の地力がそこまで到達していない。さっきのだって時間をかけたうえ、鋏に挟まれる痛みに抗って得た勝利だ。どうすれば良いかの答えはわかっていても、このダメージからは現状免れようがない。


 精々、狩れて一匹か二匹だろう。ヤツがくるタイミングによってはまともに食事もできず退散する羽目になるかもしれない。

 それに得られる経験値だって多いわけじゃない。ランクのない魔物だから無理もない。今は私自身のレベルがまだ低いから上手く行ってるが、そのうち一、二匹倒したところでレベルが上がらなくなってくるだろう。リスクとリターンがあまりにも釣り合わない。粛々とヤツのテリトリーから溢れてきたカニを狩りながら、クソ蛇以下の魔物を探していく他ない。




 そんなことを考えて、どれ程走っただろうか。既にオウケガニの縄張りから抜けていた。ヤツは追ってきていない。

 足元の地面も石畳のような川原から、さっきまで走ってきた草原の絨毯に戻っていた。厳密には戻ってきているわけじゃないんだろうが、ひとまずヤツのテリトリーからは逃れられたと見てよさそうだ。一難はどうやら去ったらしい。




 あー死ぬかと思った。





 辺りを見回す。




 少し離れたところに一匹のリスがいるくらいか。白い毛皮に、縦縞模様が頭から背中まで伸びた、私の体躯とそう変わらなさそうなシマリス。長い尻尾をカメレオンのようにくるりと巻いて、伸び伸び日向ぼっこをしているようであった。



[チップレーン]ランクF

〈あらゆる環境に適した、リスの魔物。気性が荒く、格上の魔物にも果敢に攻撃を仕掛ける。肉食であり、チップレーンの生息域周辺の村では子供が出歩かないように用心しているという話もある。〉



 距離があるからか、ステータスはわからない。が、私と同格のランクあるリスときた。格上だらけの阿鼻叫喚地獄絵図だったこの数日間のサバイバルでやっと見つけた、同じランクかつ小型の魔物。解説は物騒だが挑まぬ手はないだろう。




 ここで逃したり怯えて動けないようでは、これから動きようがないと思っていたところだ。それに向こうは私に気づいていない。不意打ちからの怒涛のラッシュをかまして一気に倒してしまおうそうしよう。




 リスの魔物、チップレーンに向かって勢いよく突進する私。普通に考えたら馬鹿馬鹿しいなんてこたあわかってる。でもそうするしか、今の私にはできない。



 なら、諸刃の剣ならぬ諸刃の刃、いやいや諸歯の剣ってやつを見せてやんよ!!



『ヂ』



 チップレーンがこちらを向く。どうやら攻撃を加える前に見つかってしまったらしい。しかしもう遅い。ヤツに歯が届くまで既に10センチまで来たところだ。





 今更回避なんてできっこn




『ヂバア!!』



 チップレーンが一瞬、こちらに向かって姿勢を低くすると、ヤツの後ろからいきなり緑色をした風の刃がいくつか飛んでくる。私はそれを諸々食らって、そのまま身体が宙を舞ったところだった。






え、魔法???ズルくね?



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