裏ルート
ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。巷を騒がせていた列車強盗を軽く返り討ちにして、指揮していたスーツ姿の男を捕らえることが出来ましたが、残念ながら喚くばかりでロクな情報は得られませんでした。
「レイミ、これ以上役立つとは思えませんから始末を」
「わかりました、お姉さま」
私の指示を受けたレイミは素早く抜刀して、惚れ惚れする動きで男の首を斬り飛ばしました。飛んでいく生首をしばらく眺めて、考えを纏めることにしました。
こちらの人的な被害は、立ち上がった乗客数人が死傷したのみ。列車そのものに影響はありません。
そして先程の男から得られたのは、列車強盗が南部を率いるワイアット公爵家の長男ザルカの指示だと言うことだけです。
それも口頭による指示で、何かしらの書状を持っているわけではありませんでした。
……困りましたね、おそらくザルカの配下であることに間違いは無いのでしょうが、決定的な証拠がない。これは面倒なことになりました。
「困ったもんだな、お嬢。コイツは厄介な案件だろう?」
私と一緒に尋問していたベルも溜め息を吐いています。
「ええ、列車強盗にワイアット公爵家が関与している可能性は非常に高いと考えています。しかし、証拠がない」
情報部に調査をさせるにしても、余裕があるかわかりません。直接確認するしかありませんね。
「シャーリィ、他の捕まえた奴等からも話を聞いたぞ。これで全部って訳じゃないし、他にもグループが居るんだとさ」
「複数の襲撃グループを用意しているみたいですね」
「ああ、だが証拠になるようなモノは持っていなかったがな。どうする?」
「捕虜は必要ありませんので、処理してください。手伝ってくれた人々には充分な報酬を。西部行きは延期です。ただちに黄昏へ戻り、情報を集めます。状況次第では厄介なことになりますから」
「宜しいのですか?お姉さま。カナリアお姉様との会談を控えていたのでは?」
「カナリアお姉様へは書簡で謝罪しておきます。事態を説明すれば、理解してくださいますよ」
何せ問題となっている列車強盗の背後にワイアット公爵家が関与しているとなれば、レンゲン公爵家としても放置は出来ないはず。
それに、他の貴族にとっても無関係ではありませんからね。
その後私達は列車を再出発させて次の停車駅で私達専用の客車を切り離し、シェルドハーフェンへ向かう列車へ連結して黄昏へ戻ることになりました。穏やかな旅にはなりませんでした。
急ぎ黄昏へ戻った私達は、直ぐ様対策を練ることにしました。まずは情報部に今回の一件と背後関係の調査を依頼しましたが、ラメルさんは渋い表情を浮かべました。
「これまでの調査から、証言を手に入れるのは簡単だ。ザルカって奴は防諜意識が無いからな。
だが、明確な証拠となると難しいぞ」
「賊に八番街で生産された武器が流されている筈です。その証拠を得るのも難しいですか?」
「バカ息子まだしも、工業王は多少頭が回るらしい。武器そのものは……十四番街を経由して流している可能性があるな。何かあればあの区画のマフィア達を通すのが連中の常套手段だ。
で、マフィア関連ならボスの管轄だろ?」
「ふむ、それは良いことを聞きました。早速尋ねてみるとしましょうか」
善は急げとばかりに書状を出してみたら、次の日に『トライデント・ファミリー』幹部のマルコ=テッサリアさんが直接やって来ました。
相変わらずマフィアみたいな茶色のコートが良く似合っています。まあ、マフィアなんですが。
「お忙しいところ、ごめんなさいね」
「代表には山程恩があるんだ。少しでも返していかないと負債が増える一方なんでな。
で、何をすれば良い?殺しか?脅しか?それとも、誰かを誘拐するか?」
話が早くて助かりますね。
「残念ながら、今回はどれでもありません。私が欲しいのは、『帝工グループ』との繋がりに関する情報です」
問い掛けてみると、対面に座ったマルコさんは少しだけ難しい表情を浮かべました。
「代表が知りたいのは、『帝工グループ』から武器流しの仲介人をやってる奴だな?」
「その通りです。心当たりはありますか?」
「『ダンナーボーイズ』の連中だろうな。十四番街で『帝工グループ』と強い繋がりがあって、武器売買を独占している連中だよ」
『ダンナーボーイズ』……ラメルさんの報告書にあった珍しく薬物に手を出していない武器専門のマフィアですか。
十四番街で大きな組織でもあります。
「なるほど、『ダンナーボーイズ』ですか。やれますか?」
「確かにあいつらを潰してシノギを奪えれば、武器売買を独占できるだろうな今のままなら旨味はあるんだが」
「『帝工グループ』は潰すので意味はありませんよ」
「だよなぁ。まあ、その時は新しい仕入れ先が変わるだけだ。つまり、『暁』になる」
そうなりますね。『トライデント・ファミリー』が急成長した背景には、『ダンナーボーイズ』を通さず直接うちから武器類を仕入れているのもありますからね。
「引き続き貴方としか取引をするつもりはありませんから、安心してください」
「それを聞けて安心したよ。内を固めるのに時間を使ったが、そろそろ大物喰いをやりたかったんだ。次の獲物は『ダンナーボーイズ』だな」
『トライデント・ファミリー』は現在でも弱小勢力から中堅勢力に躍り出ましたが、『ダンナーボーイズ』を降せれば十四番街最大の勢力の一角となります。マルコさんの夢に近付きますね。
そして私からすれば、『帝工グループ』が持つ裏の流通ルートを潰せるならば過程は気にしません。
「私達も年内には『帝工グループ』を潰して八番街を支配する予定なので、遅れないようにしてください。必要ならば武器類は最優先で販売しますし、少ないですが資金援助もしますよ。セレスティン」
「はっ、こちらに」
セレスティンが金貨の詰まった小袋を手渡しました。マルコさんは苦笑いですね。
「やれやれ、また負債が増えるじゃないか。まあ良い。そっちがやり合ってるんだから『帝工グループ』も『ダンナーボーイズ』を助ける余裕なんて無いだろう。先にルートを潰していくから、そっちも手早く手を付けてくれよ?」
「望むところです」
よし、あとはマルコさんに任せるとして……こちらも攻勢に出ることにしましょうか。




