列車強盗
シャーリィの一撃により、胸を光の刃で貫かれた大男は光の粒となって跡形もなく消滅してしまう。その光景に車内に居た者達は呆然としてしまうが、シャーリィ達の動きは早かった。
「伏せろ!」
直ぐ様立ち上がったベルモンドがスーツの裏に隠していたショットガンを取り出し、車内に居た残る三人の野盗へ向けて躊躇なく引き金を弾いたのだ。
『ライデン社』の試作品であるポンプ式ショットガンはその性能を存分に発揮し、撃ち出された散弾はリーダー格の男に真正面から突き刺さり身体を吹き飛ばす。
同時にルイスとレイミが飛び出し、ルイスが一人を小銃で殴り倒す。レイミも身を屈めながら素早く駆け寄り、居合いにて胴を打ち据えた。
三人を瞬く間に制圧したベルモンド達を満足げに眺めていたシャーリィも立ち上がる。
「ではこれより敵を殲滅します。いつものように捕虜は不要、速やかに終わらせてください。乗客の皆さん、謝礼は弾むので手を貸してくださいな」
シャーリィの声を聞いて数人が立ち上がり、死体から銃を奪って武装していく。彼等をベルモンドに任せたシャーリィは自分の大切なケープマントに触れようとした大男が取り落とした銃を見て、眉を潜めた。
「お姉さま?」
「レイミ、これがなにか分かりますか?」
シャーリィが手に取った拳銃を見て、レイミも目を見開く。
「その形状は……まさか、モーゼルC96?『ライデン社』の試作した自動拳銃だと思います」
地球でも有名な傑作自動拳銃を目の当たりにして、レイミも衝撃を隠せなかった。
『ライデン社』が試作したのかは本来知らないが、これが地球の武器に類似しているならば間違いはないだろうと判断した故の発言だが。
「つまり、大変希少なものですよね。少なくともその辺の野盗が手に入れられるような代物ではないと」
何故レイミが知っているのか疑問に思うのが普通なのだが、シャーリィはレイミの言葉をそのまま受け入れて納得した。
「はい、詳細はハヤト=ライデン会長を問い詰めれば分かるとは思いますが、決して安いものではありませんよ」
地球でもモーゼルC96は大変高価な自動拳銃として知られており、ある種のステータスとしての意味合いもあった。その試作品である。
姉が言うように、その辺りの盗賊の類いが持てるような物ではない。
「ベル、ルイ。先ほどの指示を撤回します。偉そうなのを数人捕らえてください。背後関係が気になりますから」
「了解した」
「要は全員ボコボコにすれば良いんだろ?任せとけ」
「アスカは機関車を制圧している連中を排除して、直ぐに出発させてください。長居は無用ですから」
シャーリィが窓の外へ指示を出したら、何かが屋根の上を走る音が聞こえた。
「お姉さま、私はどうしましょう?」
「言うまでもありませんが、私の側を離れないように。レイミの実力を疑っているわけではありませんよ。目の届く範囲に居てくれたほうが安心できますので」
「分かりました、お側に居ますね」
「よぉし、行くぞお前ら!お嬢は気前が良いからな、報酬は期待して良いぞ!」
「おうっ!!!」
その場に居た五人が志願したので、死体から適当に武器を奪い取って装備し、即席の傭兵としてベルモンドが率い前の車両へ向かう。その後ろをルイスが続き、アーキハクト姉妹は窓から屋根へと上がる。
「ふむ、最後尾の異変に気付いていませんね。それに、アスカの手際の良さは相変わらずですか」
シャーリィは屋根の上から前方に見える機関車へアスカが潜り込むのを確認しつつ、周囲を確認する。
停車した列車の各車両には野盗が次々と取り付いて乗り込む様子が見えるが、乗り込まずに周囲を馬で駆け回る集団も見付けた。
「ふむ、この一味のボスは彼方ですか」
「お姉さま、根拠はあるのですか?」
レイミの疑問に、シャーリィは一段を指差して答えた。
「簡単な話ですよ、この手の一団は高度に組織化されているわけではありません。つまりは、親分と子分の関係ですね。
上に立つ者に威厳が必要不可欠であることに変わりはありませんが、より分かり易い格付けが必要になります。
要は、派手で目立つ服装や装備の類いですね」
「なるほど、シンプルですね」
確かにシャーリィが指差した先には、明らかに質の良い馬に又借り指示を飛ばしている男の姿が見えた。
他はまるでカウボーイのような衣服を身に纏っているが、その男だけはビジネススーツのような衣服を身に纏っている。
「どうしますか?お姉さま。おそらく車内の掃討はベルモンドさん達に丸投げしても直ぐに終わりますよ。機関士が無事なら、間も無くアスカちゃんが制圧して出発するでしょうから」
レイミの質問にシャーリィは悩みを見せた。先を急ぐならばこのまま車両を奪還してこの場を去れば良い。そしてそれは間も無く実現する。
だが、彼女はこの襲撃にきな臭さを感じていた。ただの野盗が持つには装備が優秀だからだ。
「レイミ、カナリアお姉様とお会いするのを先送りにしたら残念に思いますか?」
「まさか、カナリアお姉様には何時でも会えます。今回は縁が無かったとしても、機会はいくらでもありますから」
妹の言葉を聞き、シャーリィも予定の変更を決めた。直ぐ様彼女達は貨車の屋根を駆け抜け、車両を飛び移りながら先頭に位置する機関車へ飛び込んだ。その際周囲から銃撃されたが、距離があったため被弾することは無かった。
「シャーリィ?」
機関車の車内では、既に襲撃者二名が首を切り裂かれて絶命しており、アスカが縛られていた機関士達を解放しているところであった。
飛び込んできたシャーリィ達を見てアスカは首を傾げたが。
「予定を変更します。このまま敵を誘引し、殲滅します。アスカ、あのスーツ姿の男は殺さないように。
ボスか、或いは指揮官の一人かもしれませんから取り調べたいので」
「じゃあ、捕まえる?」
「そうです。直ぐに処理しますので、何時でも出発できるようにしておいてください。帝都手前の停車駅に必ず止まるようにしてくれれば問題はありませんから」
シャーリィが助け出した機関士達に指示を出していると、何らかの合図を受け取ったのかこれまで外を回っていた残りの一団が列車へ近付いてくるのが見えた。
その中にはビジネススーツ姿の男も含まれ、更に機関車へ向かってくるのを見てシャーリィはその場に留まることを選び。
「素敵なパーティーを開いてくれたのですから、全力で歓迎するのがマナーですね」
満面の笑みを浮かべて獲物を迎えるのだった。




