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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
暗黒街制覇への道

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弩級の夜明け

 皆さんごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。南部閥のハークネス伯爵率いる領邦軍を撃退した翌日、黄昏の町は戦いの後始末に追われていました。

 負傷者の手当ても引き続き行われていますし、避難していた住民の帰還や治安の回復、商業活動の再開が急ピッチで取り組まれています。

 何よりも重要なのは、戦場に遺された大量の死体です。放置していては疫病の元になりますし、何よりも祝福されていない死体はアンデッドになってしまう可能性が非常に高い。この世界では、死体処理も地球より遥かに手間が掛かります。

 幸い『暁』にはシスターカテリナが居るので問題はありませんが、聖職者が居ない場所は悲惨なことになります。

 だからシェルドハーフェンでもある程度の規模になれば、聖職者を抱えていることが多い。当然『オータムリゾート』も例外ではありません。




 私も魔法で死体を凍らせることで腐敗を遅らせて、死体の処理を手伝っていました。私が要請した『オータムリゾート』からの人員も到着し、復興作業を手伝っています。

 うん、これならそこまで時間をかけずに復興を成し遂げられると思います。




「レイミ嬢、忙しいのは理解しているが午後から時間を貰えるかね?君に見せたいものがあるのだ」




 そんな最中でした。セレスティンが指示を出して昼食を兼ねた休憩で皆が身体を休めている時、念のために見回りをしていた私にライデン会長が声を掛けてきたのです。




「見せたいもの、ですか?この忙しい時に」




「この時期だからだよ、レイミ嬢。シャーリィ嬢へ見せる前に、是非とも君の意見を聴きたくなったのである」




 ふむ、お姉さまに見せる前に……新しい兵器の類いでしょうね。航空機の実用化も間近だと聞きますし、試作品を見せてくれるのでしょうか。まあ、お姉さまのためになるなら否やはありません。




「分かりました。ただし、長くは付き合いませんよ?夜にはお姉さまがお戻りになるのですから」




「承知しているのである。では自動車を手配したので早速行こうではないか」




「自動車?黄昏の工廠ではないと」




 ライデン会長が用意した野戦乗用車に乗り込み、向かった先はシェルドハーフェンの港湾エリアでした。

 拡大が続く港湾エリアは、更に桟橋が増えて倉庫やドッグの増築工事が常に行われ、大量の船が停泊して物資の積み降ろし作業に従事する大勢の人足達で賑わっていました。

 停泊する船の大半は、蒸気船ですね。




「ここと帝都以外の大型ドッグがある港で、建造ラッシュが起きているのである。船はあらゆる分野の工業技術の結晶。

 造船業が活発化することは、工業技術力の飛躍的な向上を促す。帝室や大半の貴族の思惑等関係なく、帝国は近代化の流れを止められん。愉快であるな」




「無理もありません。蒸気船のお陰で危険な外洋へ出る手段が格段に増えたのですから」




 帆船では風に左右されますが、自力で高速を発揮できる蒸気船ならば海の危険な魔物から襲撃されるリスクは格段に低下します。

 蒸気船の実用化は、帝国の海路を使った移動や交易を活発化させることになりました。




「新たな物流を生み出せたのは快感である。さて、ここだ。見たまえ」




 車が止まり、ライデン会長が指差した先へ視線を向ければ……これはまた。




「貴方なら三笠を建造すると思っていましたが、まさかこちらとは」




 そこに停泊していたのは地球で弩級戦艦のカテゴリーを作り、完成した瞬間世界中の戦艦を時代遅れの産物にしてしまった戦艦ドレッドノートでした。




「三笠にもロマンを感じているが、造船技術と重工業の更なる発展を促すために無理をしたのであるよ。何せコイツは、設計開始から今日に至るまで二十年近い月日を掛けたのだからね」




「にっ、二十年ですか!?」




「何せ全てを新規開発しなければならなかったからね。中でも大型機関の開発は難航した。これだけでも十年要した」




 機関だけで十年!呆れる執念ですね。

 戦列歩兵が主流の技術レベルしか無かった帝国において、たった二十年の月日でドレッドノートを建造できたと考えれば、彼の凄さを理解できますね。




「その執念に敬意を払いますよ。こちらはお姉さまに?」




「うむ、既にエレノア君達が慣熟訓練に邁進している。一月以内に実戦投入が叶うだろう。

 ただし機関出力はオリジナルに及ばぬし、製鉄技術の限界で装甲もオリジナルに劣る。

 劣化コピーと言われても、我輩は甘んじてその評価を受けるよ」




「今の帝国ではこれが限界なのでしょうね。ですが、問題無いのでは?」




 確かにオリジナルには劣るかもしれませんが、今の帝国の造船技術はようやく蒸気船が普及し始めた段階ですし、大型の艦砲など構想すら無いでしょう。

 つまり、このドレッドノート擬きは既存のあらゆる艦艇を凌駕している最強クラスの化け物であることに変わりはありません。




「君にそこまで評価して貰えたのは嬉しい限りである。建造中の二隻については、こいつの運用実績を最大限盛り込むつもりだ。

 二番艦は艤装をほとんど終えているから無理であるが、三番艦は進水したばかり。まだまだ改善の余地はある」




「三隻も建造していたのですか!?」




「コスト面から考えても、二隻或いは三隻建造する方が安上がりであるからな。それに、我が社の造船技術力の飛躍的な向上も見込めるのである」




「確かにそうですが」




 だからといって、弩級戦艦を三隻も同時に建造する資金力を持ち合わせているとは。

 リースさんは『ライデン社』の財力は金融集団である『カイザーバンク』を凌駕していると言っていましたが、それを目の当たりにした気分ですよ。




「だが四番艦以降や派生型、更なる発展型の設計開発を継続するには流石に資金難である。我が社は陸戦兵器や航空機の開発や生産も抱えているのでな。故に、『オータムリゾート』からの更なる資金援助を期待するものであるが」




「それが本題ですか」




 思わずジト目になってしまった私を見てライデン会長は慌てました。




「もちろん君にこの新作を見せたかったのも本音である!」




「ふふっ、分かっていますよ。相変わらず子供っぽいところは健在ですね」




「男など夢見る幾つになっても少年のままである」




「女である私には理解できませんが、リースさんに伝えておきましょう」




 我が『オータムリゾート』の軍備拡張と近代化もまた急務ですからね。

 何れお姉さまがシェルドハーフェンを制覇した際に、有力な同盟者として生き残るためにも、ね。

 まあ、自惚れて良いならば私が居る限り『オータムリゾート』が軽視されることは無いでしょうが。


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