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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
暗黒街制覇への道

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動乱の予兆

 それから数日後、戦後処理にある程度目処が付いた暁はようやく一息吐いて周囲の情勢へと視線を向ける。幸い帝工グループによる追撃は今のところなく、その兆候も見られないため内政に力を入れつつ情勢が不安定になっている十四番街の情報を整理することにした。トライデント・ファミリー、より具体的にはマルコ=テッサリアの手腕に期待しているシャーリィは支援こそするが本格的な介入は考えていなかった。

 十四番街及び付随する十から十三番街は麻薬農園とマフィアの群雄割拠するエリアであり、麻薬売買に手を出すつもりがないシャーリィにとって掌握しても旨味がないのだ。それよりも友好的な勢力が支配して、薬物売買を間接的にコントロールして黄昏内部へ薬物が流れてこないようにする事を望んでいた。

 暁からの支援を存分に活かしてトライデント・ファミリーは順調に勢力を拡大。現在抗争中のリガ・ファミリーも容易に降すことが出来ると分析していたのだが。




「抗争の激化は歓迎しますが、なぜ他のマフィア組織まで介入しているのですか?」




 ラメルからの報告を受けたシャーリィは首を傾げた。確かに抗争は激化していたが、何故かトライデント・ファミリー、リガ・ファミリー以外の組織の動きが活性化しているのだ。双方の抗争に触発されたのかと考えたが、意外な答えが帰ってきたのである。




「いや、違う。二日前からだな。十四番街で無差別殺人が横行してるんだ」

「殺人なんてシェルドハーフェンでは日常茶飯事ではありませんか?」

「そうなんだが、狙われているのはマフィアの構成員だけだ。しかも所属はバラバラ。今朝までに二日間で二十人以上が殺されてるんだ。全員斬殺だな」

「このご時世に斬殺ですか」




 帝国では各方面の近代化に合わせて旧式のマスケット銃などが市場に溢れ、銃器が一般社会にまで浸透しつつあり、裏社会では言わずもがな。既に主武装としての剣、槍の実用性は下がる一方である。




「そうだ。俺も死体を何体か見たが斬られた跡があったな。しかも急所を一撃だ」

「ふむ、急所を一撃ですか。しかも無差別となれば……下手人は分かっているのですか?」

「そっちはマナミアの奴が調べている。情報が手に入り次第ボスへ報告する手筈だ」

「それを聞けて安心しました。現状私達に被害はありませんから、優先順位は低めで構いませんよ」

「分かった、伝えておく」




 ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。ラメルさんから十四番街が荒れていると言う報告を受けました。

 マフィアを組織問わず無差別に殺害して回る愉快な存在が居るみたいで、十四番街の緊張は一気に高まっているのだとか。

 下手人探しは行われているみたいですが、私ならこの状況を利用して、敵対組織の仕業と断定してそれを大義名分に抗争を仕掛けます。

 下手人の思惑が抗争の誘発だとしても、その流れに乗るしかないのです。だって、構成員を殺られたままではメンツも丸潰れですからね。裏社会は舐められたら終わりです。まあ、私のようにわざと舐められて油断を誘うようなやり方もありますが。




「十四番街については続報を待つとして、帝工グループに動きはありますか?」

「意外と静かなもんさ。始末屋のボスは気炎をあげているみたいだがな」

「おや、意外とまだ生きているのですか」




 てっきり粛清されると思っていましたが。




「帝工グループはビジネスマンが多くてな、誰も汚れ仕事をやりたがらねぇらしい」

「となれば、汚れ仕事を請け負う掃除屋を粛清する理由もないと」

「そうなるな」




 ふむ、ビジネスマン主体の組織ですか。カイザーバンクは金融なので手を出せませんが、帝工グループは同じ工業製品。生産力では負けてしまいますが、経済的に追い詰めてやることも不可能ではありませんね。何せ、質ではライデン社を取り込んだこちらが勝りますから。




「セレスティン」

「ここに」




 いつの間にか斜め後ろに立っています。頼れますが、謎です。




「マーガレットさんに会談の要請を。帝工グループを叩き潰す有効な手段は、武力より経済です」

「御意のままに。お時間は?」

「ルミのお墓参りを済ませてから、夕食後で」

「畏まりました。直ちに調整致します」




 セレスティンとラメルさんが部屋を出て、私は一人きりに……いや、居ますね。




「お母様、そろそろアスカを返していただきたいのですが?」




 部屋の隅に用意した専用の大きな赤いソファーに座り、アスカに膝枕をして愛でている母へ言葉を投げ掛けました。




「嫌よ」




 極めてシンプルな答えが帰ってきましたが。




「お母様、私もそろそろアスカを愛でたいのですが」

「貴女にはレイミが居るじゃない」

「レイミは別腹です」




 デザートみたいな言い方をしてしまいましたが、気にしないことにします。




「それよりもシャーリィ、十四番街は随分と荒れそうね?」

「ある程度は荒れてくれなければ困ります」

「あら、トライデント・ファミリーを手伝わないの?」

「後ろ楯にはなりますが、武力による支援は行いません。それに、そんな余裕もありませんし」

「派手にやり合った直後だものね」

「その通りです。今私達は帝工グループを下して八番街を手中に収めることを優先します。八番街を手に入れて力を蓄えればシェルドハーフェン制覇も間近です」

「他の勢力があるでしょう?」

「オータムリゾート、海狼の牙、花園の妖精達は同盟を組んでいますし、ボルガンズ・レポートについては予測が出来ません。そしてカイザーバンクは完全に敵です」




 ん?カイザーバンクの名前を出した瞬間お母様の顔が険しくなりました。




「それって、帝都銀行の事よね?」

「はい」




 カイザーバンクは裏の名前で、表では帝都銀行と言う名前があります。正確には複数ある名前のひとつですが。




「そいつらはシャーリィに手を出したのよね?」

「あくまでも間接的に、ですが」

「ルドルフの奴、帝都銀行に多額の借金があったのよね。それに、あのバカは私達に無断で領地を借金のカタにしていたのよ」

「叔父様が?初耳なのですが」




 聞いたことがありません。お母様は苛立たしげに言葉を続けました。




「当たり前よ、そんなことが知られたらアーキハクト家の恥じゃない。私とダグラスで隠したの」

「お父様も」




 領地を借金の代わりに差し出した?




「お母様、叔父様は今再建されたアーキハクト伯爵家を率いています。私達の調べでは、カイザーバンクから多額の融資を受けているとか」

「カイザーバンク、あの事件に関わりがあるかもしれないわね」




 ……調べてみる価値はありますね。

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