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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
大いなる一歩

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戦後を見据えて

なんとか間に合いました……。


 翌日、黄昏の町は厳戒態勢が更に強化された。『血塗られた戦旗』からの使者がやって来て、最後の幹部であるガイアが手土産を持参して手打ちの交渉のために来訪すると伝えた。

 シャーリィとしては拒否することも考えたが。




「シャーリィ、交渉の場は整えるべきでしょう。ここで拒否すれば、今後私達に投降する者が躊躇することになります」




「つまり、今後の戦略に悪影響を与えると」




「断るにしても、門前払いは避けたほうが無難です」




「分かりました」




「一応聞いておきますが、手打ちにする可能性はありますか?」




「敵ですよ?殲滅しなければ、また私の大切なものが奪われます」




「ある程度は妥協しなさい。そうですね、ガイアと戦いに参加した連中の首くらいで我慢しなさい」




「つまり組織そのものを潰すなと?」




「よく考えなさい。『エルダス・ファミリー』を滅ぼした時は十六番街を『オータムリゾート』へ引き渡しましたが、今度はどうするのですか?今の私達に十五番街を統治する余裕など無いでしょう」




 黄昏の更なる発展に邁進している暁に、新たなる縄張りの統治など不可能であった。




「放置するのはどうだ?」




 ルイスが提案するが、カテリナは首を横に振る。




「どんな状況だろうと、それは悪手ですよ。各街はそれぞれ支配者が居て秩序を保っています」




 現在シェルドハーフェンは十六番街まで区別されているが、各区にはそれぞれの支配者が独自に統治にして秩序を維持している。

 だが支配者を失った場所は瞬く間に無法者の溜まり場となり、周囲に悪影響を与えることになる。




「回り回って私達にも悪影響が出ると」




「隣の十六番街、十四番街、内側の五番街には間違いなく影響が出ますよ。抗争の火種になる」




 支配者を滅ぼして後は放置などして治安を悪化させれば、当然周囲の区域にも悪影響を及ぼす。

 その結果周りの組織に影響を与えて不要な諍いを招く危険性もあった。




「お義姉様にご迷惑をお掛けするわけにはいきませんね」




「個人的には五番街への影響も出したくはありません」




「なんだシスター、知り合いでも居るのか?確か五番街は……」




「『花園の妖精達』、彼処は妹分が仕切っている街です」




「シスターの身内でしたか」




「ゴタゴタが落ち着いたら、ティアーナと会って貰いますからね」




「ティアーナって……ティアーナ=メルン!?風俗街の女帝が妹分なのかよ!?」




 シェルドハーフェンでは基本的に一桁、つまり一番街から九番街までの支配者達が大勢力を誇る。

 その大勢力の一角が身内。ルイスが驚くのも無理はない。

 ちなみに唯一の例外は港湾エリアを支配する『海狼の牙』である。




「シスターの妹さんとは速やかに会えるように準備します。その為には十五番街の対処も慎重にならねばなりませんね」



「その通りです。まあ、先ずは会ってみて考えましょう。会う場所は?」




「外縁陣地の外にある詰め所のひとつを使います。黄昏の中へ入れたくは無いので」




「それで充分だろ。わざわざ招いてやる義理も無いしな」




 その日の正午。黄昏を目指すガイア達は外縁陣地にある詰め所のひとつに案内された。周囲は暁の兵士達が警戒を敷いており、ガイア達の一挙一動に目を光らせていた。




「町に入れるつもりもないか」




「どう見ても歓迎ムードじゃなさそうだな」




 ガイアは屈辱的な状況に歯軋りし、ジェームズは警戒を強めた。




「はぁ、早く帰ろ?」




 レイミの気配を感じない聖奈は早々にやる気を失せていた。




「護衛の方はここでお待ちを」




 平屋の詰め所の前でマクベスが三人に言葉を投げ掛けた。




「一人で中へ入れと言うのか!?」




「我らが主はお一人でお待ちだ。納得できぬのならば、帰られよ」




「くっ!」




「ここでアンタを始末するようなことは無いだろうさ」




「早くしてよ、帰りたい」




「何かあったら叫ぶからな」




「へいへい」




 関心を持たない聖奈は既に他所を向いており、ジェームズとしても敵地に長居はしたくないためその場に留まり待つことにした。



 ガイアが詰め所に入り残された二人にマクベスが飲み物を手渡した。



「何も出さぬとなれば、我らの品格が疑われる」




「なんだこりゃ?随分と冷えてるな」




 渡された果実ジュースはよく冷えており、真夏の暑さに参っていたジェームズとしては有り難い配慮であった。




「フッ、我らの秘密の技術である」




「レイミでしょ」




 近くの木箱に足を組んで座る聖奈がポツリと指摘した。




「なんだ?分かるのか?」




「分かるよ。氷室みたいなものを作ったんじゃない?レイミは氷を自在に操れるし、それくらい出来るよ」




 聖奈の言葉に周囲の警戒心が増した。




「お嬢さん、何故それを」




「そんなに身構えないでよ、おじさん達とやる気無いし。だって弱いから」




 手を振りながらうんざりと返す聖奈。だがその言葉に周囲の者達は怒気を増した。




「連れが妙なこと言った。口が悪くてな、許してくれ」




 敏感に察知したジェームズが間に入り謝罪する。




「随分と自信がある様子だな。貴女がレイミお嬢様の仰有っていたお嬢さんか」




 周囲を制したのはマクベスであり、ジェームズの謝罪に頷きで返すと聖奈へと語りかける。




「そーだよ。聖奈、“せいな”でも“せーな”でも良いよ」




「では聖奈殿、貴女は自然に振る舞っているな。敵地であるのに、豪胆なものだ」




「だって皆弱いし。レイミも居ないし、つまんないだけ。ジェームズ、早く帰ろ」




「筋は通さねぇとな。もう少し我慢しろ。色々とな」




「構わぬ、スネーク・アイ殿。彼女の振る舞いを見れば相応の実力者であることも頷ける」




 双方にピリピリとした緊張感を残しながら詰め所では会談が始まった。

 そこは詰め所の中にある事務室で机とテーブル、複数の椅子のみがある質素な空間であった。

 そこにシャーリィが一人だけで待機。彼女は敢えて村娘スタイルであり、相手の油断を誘う腹積もりであった。

 そして、天井裏にはアスカが待機しており不穏な気配を察知したら直ぐに介入するように指示されていた。

 その空間で両者は会談に挑んだ。




「ごきげんよう、暁代表のシャーリィです」




「血塗られた戦旗幹部ガイアだ。今回は会談に応じてくれて感謝している」




 シャーリィが先に挨拶をして、ガイアは彼女に応じて椅子に腰を下ろした。



「交渉の窓口は常に開いています。それで、お話とは?」




「まあ慌てんなよ。今回はお互いのためになる話を持ってきたんだからよ」




『血塗られた戦旗』からすれば存亡を賭けた、『暁』からすれば最後通牒を突き付ける最初で最後の交渉が始まろうとしていた。

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