~追憶~『二人の出会い』その2
二話で終わらせる筈がまだ続きます……すみません。業務多忙で本編を優先していまして、こちらの三話は今しばらくお待ちを!
さて、格好つけたからには頑張って成し遂げなきゃな。その為にも情報は必要だ。
幸いなのは『ターラン商会』の情報網を使えたことだ。情けねぇけど情報屋なんて知り合いに居なかった俺はマーサの姐さんに事情を話したんだ。そしたら二つ返事で許可を貰えたよ。
「頑張りなさい、男の子」
良くわからねぇ激励されてな。で、傘下の小さな質屋で真っ白なケープマントを売ろうとした小汚ないオッサンが居たって情報が手に入った。
結構上等な生地で作られたものらしくて、どう見ても盗品だから買い取りを保留にして判断を仰いできたってところだ。
うちはその気になれば盗品も扱うからな。
その情報を手に入れた俺は直ぐに行動に出た。愛用の槍を片手に、そいつが来た質屋を訪ねたんだ。
「確かにそいつだ。それで、どうするんだ?」
「俺が対応するよ。探してるものなら買い取るからさ」
「坊主が対応すんのか?」
「俺が本店の人間だと紹介してくれれば良いさ。あんたには迷惑掛けねぇよ、おっちゃん」
俺は渋る質屋のオッサンを説得して店で奴を待ち構えた。先ずはケープマントを取り戻す。後の事はそれから考えれば良い。
それから二日して、例の奴がまたやってきた。
「返事を聞かせて貰いに来たぜ?」
「ああ、本店の人が来てるんだ。そっちと話してくれ」
「よう、オッサン。盗品を売りたいって聞いたぜ」
俺が前に出る。
「なんだよガキじゃねぇか」
「ガキだけど、一応今回の件を任されてるんだ。話くらいはしてくれよ」
「ちっ。こいつだよ」
間違いなくシャーリィが大切にしてるケープマントだな。間違いない。
「良いぜ、買い取る。お互い他言無用で」
「幾ら出すんだ?」
「そうだなぁ」
奮発してやるか。絶対に取り戻したいからな。
「銀貨十枚でどうだ?」
「ー!ああ!それで良いぜ!」
案の定直ぐに飛び付いてきたな。普通なら銀貨三枚くらいが相場だろうさ。バカなガキだって思ってるんだろうなぁ。
「んじゃ取引成立だな」
「へへへっ、恩に着るぜ」
俺は銀貨を手渡して代わりにケープマントを受け取る。よし、一番大事な物は返ってきた。後はこいつをシャーリィに渡すだけ。簡単な仕事だったな。
俺は喜んで店から出ていく盗人を見送りながら一安心したんだ。これを返したら、あの無表情なシャーリィがどんな顔をするか今から楽しみだな。
「そんなに気前良く金を払うなんてな、知らねぇぞ」
「ん?なにがだ?」
質屋のオッサンが渋い顔をしてる。
「いや……この街で気前の良さを見せるにはそれ相応の覚悟がいるのさ。夜道には気を付けるんだな」
俺はこの時オッサンの言うことが分からなかった。それをちゃんと理解した時は、もう手遅れだったんだけどさ。
その帰り道、俺は少しでも早くシャーリィに届けたくて普段は使わない裏道を通ってたんだ。
「おい」
「ん?」
呼ばれて振り向いた瞬間頭に衝撃が走って、俺は意識を飛ばした。最後に見たのは、下衆な顔をした盗人だった。
私が彼と、ルイスと出会ったのはルミを失って一ヶ月くらいの頃でしたか。当時は余裕がなくて無視してしまい、思えば最悪の初対面でした。
でも彼は根気強く私に話し掛けてくれていたんです。それを煩わしく思っていたある日、ルミのお墓に祈りを捧げている彼を見かけました。
正直信仰深い人間には見えなかったので驚いたのを覚えています。人は見かけに依らない。まさにその通りですね。
そして同時にルミのために祈ってくれるのが嬉しくて、彼に興味が湧いたのです。
それから半年間、彼が農園を訪れる度に何気無い雑談をする仲になりました。
内容はお互いの近況を話したり、私が思い付いたり『帝国の未来』を読んで考えた概念なんかの話をしていました。
ちんぷんかんぷんなのは分かるのですが、ちゃんと話を聞いてくれて意見を言ってくれるのが嬉しくて、話し込みすぎて夜になることもありました。
それでも彼は嫌な顔をせずに付き合ってくれて、ルミを失った寂しさを少しだけ和らげてくれたのです。
そして十三歳のある日、事件が起きました。ルミのケープマントを丁重に洗濯して干していたのですが、農園に忍び込んだ泥棒に盗まれてしまったのです。
本当なら直ぐに取り戻すために行動すべきなのに、私は動揺してなにも出来なかった。
そして数日後、ベルからルイスが奪われたケープマントを取り戻すために動いて行方不明になったことを伝えられました。
「行方不明!?」
「ああ、質屋の話じゃ銀貨十枚を出したらしい。盗人相手に気前の良さを出したらどうなるか。まだ知らなかったみたいだな」
「じゃあ、彼の身に何かが起きた!?直ぐに助け出さないと!」
「待てよ、お嬢。もうシスターとマーサの姉御が動いてる。だから、お嬢は堂々と待ってな。そして、ルイの奴に笑顔でも見せて労ってやれば良い」
確かにシスターやマーサさんが動いているなら、私が余計なことをするわけにはいきません。ベルの言葉にちょっと疑問はありますが……言う通りに待つとしましょう。
もちろんルイスが戻るまで眠れない夜を過ごすこととなったのですが。
暗黒街のスラムにある小さな倉庫。朽ち果てたその中に二つの人影があった。
「なあ坊主、そろそろ良いだろ?ボスの居場所を教えてくれよ。あんなに羽振りが良いなら、金払いも悪くはないだろ?な?」
そこには転がされたルイスと彼を見下ろす盗人がいた。
「……くたばれ」
「ああっ!?」
「がっ!?げほっ!げほっ!」
盗人の爪先が腹に突き刺さり、ルイスは苦し気に咳き込む。
彼は帰路を襲われて拉致監禁され暴行を受けていた。盗人はルイスを人質にして『ターラン商会』から多額の金を引き出そうとしており、そしてルイスはそれを頑なに拒んでいた。
「そもそも、あんな布に銀貨十枚なんて話があるかよ。何か裏があるんだろ?俺にも噛ませてくれよ」
「げほっ!はぁ!はぁ!そんなんじゃねぇよ!それは、ただのケープさ!けどな!それは俺の、俺の大事な奴が大切にしてる宝物なんだ!」
ルイスは苦し気に、たがハッキリと叫ぶ。
「へぇ、もしかして惚れた女とか?良いねぇ、ガキの青春。見てて微笑ましいぜ。だがなぁ?それなら惚れた女にちゃんと綺麗なまま会いたいよな?ん?」
盗人はそう言って鋭い刃を持つナイフを取り出す。
「この際、その女で良いや。名前を教えろよ。坊主のために、身代金を払ってくれるかもな?」
「……はぁ!はぁ!はぁ!……嫌だね、クソヤロウ」
「そうかい」
盗人はナイフを振り上げ、そして勢い良くその切っ先をルイスの右手の甲に突き立てた。
「ぐぅぅあああっ!!!」
ルイスの絶叫が響く。
「ははははっ!痛いだろう?ほら、早く言って楽になれよ?坊主。長生きしたいだろ?」
「ぁあああっ!!はぁ!はぁ!……くたばれ下衆やろう!」
だがルイスの答えは拒否だった。
「そうかい……なら仕方ねぇな。その綺麗な目を片方くり貫いてやろう。ああ、大丈夫。片目なんて珍しくねぇし、貫禄が出るかもな?ぎゃはははっ!」
引き抜いたルイスの目に近づけ、頭を腕で固定して今まさに突き刺そうとする。
「ほら、坊主。最後のチャンスだ。連絡先は?」
「はぁ!はぁ!……てめえ何かに教えるかぁあっ!!」
「なら片目な?」
「待ちなさい!」
今まさに突き刺す寸前、女性の声が響いた。
ここまで読んでくださったあなたに最大限の感謝を。もしもあなたの暇潰しの一助となれましたら、幸いでございます。お気に召して頂けたならばブックマーク、評価など頂けましたら幸いです。
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