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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
大いなる一歩

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注目する者

『暁』と『血塗られた戦旗』による激突から一夜が明け、双方が事後処理と後始末に追われている頃。

 ここはシェルドハーフェン三番街。多数のビルが建ち並ぶまさにオフィス街と呼ぶに相応しい場所であり、シェルドハーフェンに拠点を置く企業の大半がこの区域にオフィスを持つ。

 その中の一つ、三番街で一際目立つまるで貴族の屋敷のような豪邸。その一室に、その男は居た。




「ふんふーん」




 椅子に座り執務机に脚を乗せ、手鏡を片手に自らの金の髪を手入れする整った目鼻立ちの三十代半ばの男性。

 身に纏うのは爽やかな青を貴重とするビジネススーツ。磨き上げられた革靴が品性を醸し出していた。




「よしっ!今日も完璧だ!」




 そして最後に手鏡にキメ顔を写し出すこの男の名は、ヨシフ=ボルガンズ。

 帝国で最も発行部数の多い新聞紙『帝国日報』の編集長であり、そして様々な情報媒体を取り扱う『ボルガンズ・レポート』の社長。人は彼を『メディア王』と呼ぶ。

 シェルドハーフェン三番街と四番街を縄張りとする大組織であり、『会合』のメンバーの一人である。




「社長、速報です」




 そんな彼に秘書の一人が紙片を手渡す。彼は美人しか側に近寄らせない悪癖があり、当然事務所職員も美人ばかり。

 これは組織全体に適応され、『ボルガンズ・レポート』ではどんなに有能でも男性は現場勤務である。




「おう!どれどれ……っはははぁっ!やっぱりか!ほらな?俺が言った通りになったろ?ステフ」




 ボルガンズは傍らに控える秘書に笑みを浮かべながら問い掛ける。

 黒髪長身で見事なスタイルを誇る美女。彼女はボルガンズの秘書兼護衛のステファニー=マケイン。元帝国正規軍の女将校であり、剣士としても名高い腕を持つ。

 そんな彼女はボルガンズを見て困ったような笑みを浮かべる。




「社長の仰有る通りになりましたね。まさか壊し屋パーカーが敗れるなんて、思いもしませんでした」




「そりゃそうさ!相手は『暁』、あのシャーリィだぞ!?あんな馬鹿が勝てるような相手じゃ無いのさ」




 まるで自分のことのように機嫌良く語るボルガンズ。




「社長がずっと注目している期待のルーキーですか?」




「おうよ!俺ぁ四年前の旗揚げの時から注目してたんだ。あの嬢ちゃんは美人になるってな!」




「それだけですか?」




 何処か呆れたような声で問い掛けるステファニー。




「半分は冗談さ、ステフ。あのシスターカテリナが育てたんだ。絶対只者じゃないって思ったのさ。で、この四年間を見てみろよ。シェルドハーフェンで最も巷を賑わせてる事件の中心に必ずこの娘が居る!スクープの嵐だったろう?」




「まあ、否定はしませんよ。『エルダス・ファミリー』を打ち破り、縄張りを奪わずに自分で町を作り出して、まるで軍隊のように精強な組織を作り上げた。それもたった四年で。社長の目は間違いありませんでしたね」




「記者の勘って奴さ。この嬢ちゃんは間違いなく俺を楽しませてくれるってな!」




「では、今回の抗争も?」




「『血塗られた戦旗』は負けるだろうな。けど、あの陰湿メガネが、『カイザーバンク』が動いてやがる。苦労しても得られるものは無いときた」




「残酷ですね」




「その時にどんな反応をするか、俺は見てみたい」




「もし社長のお眼鏡に叶うようなら、どうしますか?」




「直接会って取材するぜ。もちろん俺自らな。嬢ちゃんを暗黒街のスターにしてやろうじゃねぇか」




「それはまた、彼女からすれば有り難迷惑と言ったところかしら。社長に取材された人間はロクな人生を歩まないもの」




「そりゃそうだ。誰もが刺激を求めてるんだ。俺がスターにしてやるんだから、当然刺激を得るために頑張って貰うのは当たり前だよなぁ?嬢ちゃんは有名人になれて、俺は刺激的なネタが手に入る。嬢ちゃんが死ぬまでな。いや、死んだ時も盛大に報じてやればまた売り上げが伸びるな」




「相変わらず悪党で安心しましたわ、社長」




「当然だろ?ここはシェルドハーフェンだぜ?楽しまなくちゃ損ってもんだ。もちろん、俺がな」




 メディア王は密かにシャーリィに注目し、そして毒牙に掛けようと状況を見定めていた。




「ああ、そうだ。ステフ、もう一つ面白い話があるんだが」




「何でしょうか?」




「一番街で頑張っている聖女様だよ。どうやら彼女とシャーリィはちょっとした因縁があるようだ。調べだと、『闇鴉』も一枚噛んでいるようだがね?」




 愉快そうな笑みを浮かべるボルガンズ。




「因縁?それに、『闇鴉』が関わっているのですか?それなら手を出さない方が賢明では?」




「当然深入りをするつもりはないさ。わざわざ危ない橋を渡るつもりはないし、陰湿なマルソンと関わりたくはないからね」




 肩を竦めて、用意された紅茶を飲む。そしてティーカップを静かに置く。




「だが、そこにスクープがあるならそいつを追い求めるのも俺の性でなぁ。聖女様と言えば、帝国有数の有名人だ。そいつのスクープだぞ?どんな高値が付くか分からねぇ」




「だから探ると?」




「二人の関係を追えば、凄いネタになると俺の勘が囁いているのさ」




「それなら調べさせましょう。ただし、深入りはしないでくださいね?最近この町は荒れているのですから」




「ビッグウェーブって奴さ。世界は変わるぜ、ステフ。皇帝が死んだら、さぞ大混乱になるだろうなぁ」




「表が騒がしくなれば裏も騒がしくなるのが道理です」




「そしてその中心にはシャーリィが居るんだろうなぁ。今から楽しみだ」



 メディア王が静かに笑みを浮かべる。




 黄昏での戦いから二日後、カテリナは黄昏から離れる旨をシャーリィに伝えてシェルドハーフェン五番街を訪れていた。

 ここはシェルドハーフェン随一の風俗街であり、質の良い様々な娼館やバー、ホテルが建ち並ぶ区画である。

 ただし現在はまだ午前であり、夏の朝日に照らされる町は静けさを保ち、路上には酔っ払いなどが僅かに存在するだけであった。

 そんな区画のメインストリートをカテリナは迷い無く突き進む。

 しばらく歩みを進めると、一際大きな娼館の前に辿り着く。

『花園の妖精達』。五番街で最も大きな娼館であり、カテリナが目指す目的地である。




「カテリナです。ティアーナに会いに来ました」




 カテリナが正門に立つスーツ姿のガードマンに話し掛ける。するとガードマンも一礼した。




「お待ちしておりました。姐さんは中です。ただ、営業時間外なのでおもてなしは出来ませんが」




「構いません、急に押し掛けたのは此方ですから」




「ご理解ありがとうございます。姐さんはVIPルームでお待ちです。どうぞ、こちらへ」



 扉が開かれてカテリナは中へ入っていく。

 愛娘の立場を少しでも補填すべく、独自に動き始める。伝を使い、『風俗街の女帝』と呼ばれる妹分に会うため、彼女は『花園の妖精達』へと脚を踏み入れた。

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