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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
大いなる一歩

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パーカーの奇策

明日から数日間投降できるか怪しいです。いつものごとく頑張りますが、出来ないときは申し訳ありません…

 雄叫びを挙げながら百を優に越える傭兵達が馬に乗り一斉に前進を開始する。地鳴りが響き渡り、強烈な圧となって『暁』一同に襲い掛かる。




「来るぞ!砲撃用意ーっ!距離二千でやるぞ!」




 マクベスの号令で砲兵隊がより慌ただしくなる。




「馬車も一緒に連れている?牽いている馬も多いですね」




「何故馬車まで?気になりますね」




 シャーリィとカテリナは双眼鏡で状況を観察する。騎兵突撃を思わせる傭兵団であるが、何故か十台の馬車も一緒に前進しており、それに合わせているためそこまで速度も速くはない。




「無意味なことはしないでしょう。シャーリィ、警戒しなさい」




「はい、シスター」




「お嬢、もう一段後ろの塹壕に行かないのか?ここ、最前列だぞ?」




 ベルモンドの指摘通り、シャーリィは文字通り最前線に居る。




「なにか問題が?ベル」




「いや、お嬢がそれで良いなら文句はないさ」




「配置に付けーっ!急げ急げーっ!」




 塹壕内を『暁』将兵達が慌ただしく行き交い配置についていく。

 その様子はまるで第一次大戦の塹壕戦を彷彿とさせた。




 一方パーカー率いる傭兵団は着実に距離を詰め、既に双方の距離は三千を切ろうとしていた。




「そろそろだ!準備は良いな!?」




「もちろんだパーカー!」




 パーカーの呼び掛けに馬車の御者が応える。




「奴らの度肝を抜いてやるぞ!準備しろーっ!」




「「イェアアアアッッッ!!」」






 雄叫びを挙げる傭兵団をみて、暁も警戒を強める。




「あいつら、何かするつもりだな?」




「嫌な予感がするのですが」




「止めろよ、シャーリィ。お前の勘は当たるんだからさ」




 その様子を双眼鏡で眺めながらルイスとシャーリィは言葉を交わす。だが、言葉と裏腹に二人は緊張を強いられていた。




「間も無くだ!無駄弾を撃つな!必ず当てろ!」




 不安を持ちながらも、いよいよ砲兵隊が砲撃を開始せんとしたその時、傭兵団に動きがあった。




「今だ!手筈通りにやれ!」




 パーカーの号令に従い、馬車の内四台が一斉に真横を向いた。急な方向転換は馬車を横転させたが、それこそが彼らの狙いであり、まるで壁のようになって暁の視界から何かを隠す。




「横転させた!?」




「まるで壁ですな、何かを隠した様子。おそらく大砲でしょうが」




 ルイスが驚きセレスティンが推測する。だがそれだけではなかった。




「散開しろ!」




 パーカーの号令でこれまで固まっていた傭兵達は一斉に広範囲に分散。残る六台の馬車と共に進撃を続けた。




「隊長!どちらを狙えば!?」




 これは砲兵隊を迷わせた。横転して壁のようになった馬車の背後には明らかに何かがあるが、迫り来る傭兵団も放置は出来なかった。




「砲撃目標を振り分ける!一番二番はあの横転した馬車周辺を狙え!三番四番は迫る敵を砲撃せよ!撃ち方始め!」




 轟音が鳴り響き砲兵隊が砲撃を始める。マクベスは目標を二つに切り替えることを選んだが、それは砲撃を分散させる結果となった。




 撃ち出された砲弾は地面に衝突して爆発を起こし、周囲の傭兵を馬ごと吹き飛ばす。だが広範囲に散開していたため損害は軽微であり、傭兵団は怯むこと無く突き進む。




 背後に残された馬車を気にしながらも暁は攻撃を行い、徐々に詰まる双方の距離に緊張を走らせていた。





「距離一千!射撃用意!」




 距離が詰まるに従い、兵士達は塹壕から顔を出して小銃を構え、用意された五挺の機関銃が狙いを定める。




「いよいよ、だな。シャーリィ、今度は無茶するなよ?」




「真っ先に飛び出すような真似はしませんよ。窮地の場合は魔法を遠慮無く使いますけどね」




「野郎共ぉ!陸の奴らに私達の力を見せつけるまたと無い機会だよ!気合いを入れなぁ!」




「おうっ!!!」




 カトラスを抜いたエレノアの檄に海賊衆が雄叫びをあげる。

 砲兵隊の砲撃は続くが、傭兵団にも馬車にも有効打を与えること無く双方距離は刻々と詰まり、距離は五百を切る。




「パーカー!何人か殺られたが皆まだまだやる気があるぞ!」




「報酬は山分けだからな、数が減ればそれだけ儲けられるからな!それより次の準備は良いな!?」




 パーカーの言葉に残る六台の馬車の御者が応える。




「おうよ!それに、後ろの奴らも準備が出来たって合図が出た!いつでもいけるぞ

 !」




「よし!レッグ!距離150でやるぞ!そこなら充分狙えるからな!」




「いよいよだな!野郎共!もう少しだ!頑張れ!報酬は目の前だぞ!」




 砲弾が降り注ぎ、更に十数人が吹き飛ばされるがそれでも怯まずに前進を続ける傭兵団。

『暁』と『血塗られた戦旗』の保有する小銃は同じものであり、それ故に射程距離も同じである。




 遂に双方の距離が二百を切り、暁が射撃を開始するまさにその時。




「放せーっ!」




「切り離せ!速くしろ!」




 突然六台の馬車から牽いていた馬が解き放たれた。爆音により半ば恐慌状態にあった馬達は制御を離れると我先に駆け出し、暴れ馬となって塹壕へ突撃する。

 それを見ていたシャーリィは、馬にくくりつけられた小さな樽を確認する。




「馬を近付けてはいけません!撃ち方始めぇ!」




 咄嗟に出されたシャーリィの号令に皆が従い迫り来る馬に対して射撃を開始。

 弾幕の中を突き進む馬の鞍に付けられた樽に銃弾が命中するとその場で大爆発を起こした。




「うぉっ!?爆弾だと!?」




「近付けるなぁあっ!馬だからって遠慮はするなよ!」




 一同は突然の出来事に驚くが、爆弾が仕掛けられていると分かれば近付ける道理もない。射撃はより一層強化され、砲兵隊も攻撃に参加。解き放たれた二十四頭の馬は塹壕へたどり着く前に全滅する。




「よし!では傭兵団へ攻撃を……なんだあれは!?」




 マクベス達が見たのは、馬の迎撃に集中している間に作られた馬車の荷車を用いた六台の移動要塞であった。

 鉄板を張り巡らせた荷車には銃眼が用意されて、中から射撃できるように工夫されていた。

 その姿は人力の戦車にも思えた。




「小癪な!あの程度砲撃で吹き飛ばせば良い!砲兵隊!目標!前方の……装甲車と仮称する!目標装甲車!全て吹き飛ばせ!」




 マクベスは直ちに砲兵隊に下命する。

 鉄板を張り巡らせただけの装甲車ならば砲撃で吹き飛ばしてしまえば良い。マクベスの判断は間違いでなく、なにもなければ問題なく対処できたものであった。だが。




「頃合いだ!やれーっ!」




 装甲車の影に身を潜めたパーカーの号令は、八つの轟音によって応えられた。




「うわっ!?なんだ!?」




 突如飛来した八つの丸い砲丸が塹壕陣地へ落下。




「危ない!」




「わっ!?」




 カテリナがシャーリィに飛び付いて二人は塹壕内を転がる。次の瞬間飛来した砲丸がシャーリィの居た場所を抉る。




「げっ!?」




 更に地面に激突して弾き飛ばされた砲丸が、顔を出していた一人の兵士の頭を文字通り粉砕する。




「しまった!有効打を与えられなかったか!」




 それは最初に壁として横転した馬車の影で準備された八門の大砲から撃ち出された砲弾であった。

 そしてそれは、『暁』に敵の砲撃を受けながらの戦闘を強いることを意味していた。

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