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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
前夜

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新人さん達いらっしゃい

いつも読んでくださり、またブックマークしてくださりありがとうございます。今回も貴方にとって有意義な時間となりますれば、幸いでございます。

 ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。二ヶ月ぶりにシェルドハーフェンへと帰還しました。レイミが出迎えてくれて、その日は簡単な報告をシスターに行いそのまま姉妹水入らずで話をしました。

『ファイル島』や『カロリン諸島』での冒険などの土産話。お兄様との再会のこと。

 そして、お父様との想い出話に華を咲かせて少しばかりしんみりとした夜を過ごしました。




 夜更かしして語り合って、いつの間にか一緒のベッドで眠ってしまった私たちですが、ふと目が覚めてしまいました。隣にはレイミの穏やかな寝顔。普段は凛々しいのですが、やはりこうしてみると可愛いと思えてしまうのは私が姉だからでしょうか。いや、全世界共通の認識であるはずです。

 反論は許しません。滅します。




 時計に視線を向ければ、まだ夜も明けない早朝の時間。とはいえ目が冴えてしまってもう一眠りは難しそうです。

 レイミを起こさないようにそっと身体を起こして、ベッドから這い出します。冷えきった絨毯を裸足でペタペタ歩いて、ルミのケープを纏い靴を履いて部屋の外へ出ることにしました。散歩でもすればまた眠くなると思いますから。




『領主の館』を出て、夜明け前の『黄昏』の街を眺めます。昼間は活気に溢れていますが、この時間帯は静かなものです。




「このような時間に如何なさいました?お嬢様」



 ふらふらと母屋を出て庭園を横断して正門まで行くと、守衛さんに声をかけられました。ご苦労様です。

 ちなみに屋敷の守衛はマクベスさんが選び抜いた精鋭で、更に礼儀作法なんかをセレスティンが仕込むので貴族のお屋敷の守衛と変わらないくらい優秀です。いや、うちの守衛さん達の方がそこらの貴族より優秀です。




「目が冴えてしまって、少し散歩をしようかと」




「お待ちください、今護衛を手配します」




「ちょっと出歩くだけですよ?」




「御身のことをお考えください。お嬢様に万が一があれば、『暁』は、この『黄昏』の街は終わりです」




 ううむ、偉くなるのも考えものですね。お父様の苦労が何となく分かったような気がします。

 ……お母様?護衛なんか付けないお忍びなんか日常茶飯事。総出で領内を探し回るなんて、日々の訓練扱いでしたね。うん。

 私は暫く待ち、四人の護衛を引き連れて街を散策します。これ多分休憩中ですよね。ごめんなさい。ありがとう。あとで臨時の報酬を出すことにしましょう。




 しばらく歩いていると、『黄昏商会』のある商店街に辿り着きました。流石に『黄昏商会』のお店も真っ暗……じゃない!明かりが灯されて、荷物を持った人が出入りしていますね。

 その中に見知った人が居たので声をかけることにしました。




「ユグルドさん」




「ん?ああ、シャーリィか。そう言えば昨日帰ったと通達があったな」




 元『ターラン商会』No.2、現『黄昏商会』No.2でエルフのユグルドさんです。




「ご挨拶が遅れてごめんなさい」




「疲れていたんだろう?分かってるさ。ちょっと待っててくれ、マーサを呼んでくる」




 しばらくすると店内からマーサさんが出てきました。今日はエルフの民族衣装ですね。相変わらずファンタスティックなお身体です。




「シャーリィ!」




「マーサさん、ただいま戻りした」




「カテリナから話は聞いてるわ。大変だったみたいね?」




「割に合うものも得られたので、問題ありません。いつものように売上金は全てお任せしますね」




『黄昏商会』には『暁』と『黄昏』の街の財務を一括して任せています。




「いつも思うけど、そんなに簡単に任せて良いの?着服とかするかもしれないわよ?」




「するんですか?」




 私が首をかしげると、マーサさんは苦笑いしながら手を左右に振りました。




「するつもりもないわよ。こんな朝早くにどうしたの?」




「目が冴えてしまいまして」




「あらそう?なら今暇よね?」




「はい、暇ですけど」



「ちょうど良いから今紹介するわね。ちょっと待ってて」




 マーサさんが店内に呼び掛けると……あれ?エルフがたくさん。

 マーサさんとユグルドさんしかいないはずなのに。外見年齢は、私と変わらないくらい。

 ……スタイル良いなぁ……。




「この娘達の里が魔物の群れに飲まれて滅んだの。路頭に迷ってたから、私が拾ったんだけど。役に立つわよ?」




「『黄昏』の街は来るものを拒まず、ですよ。ようこそ、『黄昏』へ。『暁』代表のシャーリィです」




 取り敢えず挨拶をすると、一人が前に出てきました。




「好意に感謝します。私の名前はリナ、一族の代表として挨拶させてください。私以下四十名は、貴女へ忠誠を誓います」




 そういうと一斉に頭を下げました。




「リナの一族は特に戦闘技術に秀でているわ。ほら、あれを」




「はい、マーサ姉さん。代表、こちらはお世話になる手土産です。どうかお納めください」




 そう言ってリナさん達が幾つかの大きな荷車を……わーぉ。




「アーマーリザードとアーマーボアよ。『ラドン平原』で狩ったみたいね」




 たくさんの荷車には巨大なアーマーリザード、アーマーボアが五体ずつ乗せられていました。

 どちらも『ラドン平原』に生息する危険な強力な魔物です。ただ、肉は美味しく鱗や毛皮、牙なんかは良質な資源として重宝されています。これを、四十人で……?

 私は衛兵を見ます。




「マクベス閣下が指揮して我々が総出で掛かっても犠牲を覚悟しなければ達成はできません。まして、手土産感覚など論外です」




 肩を竦められました。




「どう?使えるでしょう?」




「リナさん」




「はい!」




「貴女達を専用の部隊として『暁』で雇用します。任務は治安維持と、周辺の狩猟による資源の確保。指揮官はそのままリナさんに任せます」




「いきなり部隊を任せていただけるのですか!?」




 皆驚いていますね。




「マーサさんやユグルドさんを見ると、私達人間とエルフで連携を組むのは困難です。皆さんの強みを殺してしまうくらいなら、独立して行動してくれた方が効率的です。『黄昏』での衣食住の保証はもちろん、成果に合わせて充分な報酬を用意します」




 専用の宿舎を用意しないといけませんね。




「あっ、ありがとうございます!ご期待に添えるよう頑張ります!」




 あらら、中には泣き出す人もいますね。里を失ったんです。無理もないか。




「ただし、身体を大事にしてください。貴女達はもう私の大切なものなのですから」




「大切なもの?」




「シャーリィ独特の言い回しよ。つまり、家族に迎えるって意味ね」




「初対面の私達をそこまでっ!ありがとうございます!ありがとうございます!」




 この日、『暁』はエルフ四十名からなる新たな戦力を加えることに成功した。以後エルフ部隊は『猟兵』(ハンター)と呼ばれ縦横無尽の活躍を見せることとなる。

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