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暗黒街のお嬢様~全てを失った伯爵令嬢は復讐を果たすため裏社会で最強の組織を作り上げる~  作者: イワシロとマリモ
前夜

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脱出

寒波ですな、皆様くれぐれもご注意を

「なんでこんなことに!?何が楽な仕事だよ!」




「黙って撃ちまくれ!このままじゃ皆殺しにされちまうぞ!」




「どうやってやるんだよ!?こっちの弾は当たらねぇんだぞ!?」




 襲撃者達は大混乱に陥っていた。完全に包囲されて、フリントロック銃の射程外から一方的に銃撃されているのだ。少しでも近付けば、馬で疾走するベルモンドによって呆気なく命を刈り取られる。




「射撃の手を緩めるなよ!各自好きなだけ撃て!」




「射撃練習だ!動く的なんて滅多に無いぞ!この機会を逃すな!」




 更に馬に乗った下士官達が号令し、次々とまるで訓練のように射撃が継続され襲撃者達は成す術もなく撃ち倒されていった。




「前ばかり見ていると、後ろから悪戯されますよ?私は悪い娘なので気を付けてくださいね」




「いぎゃあっ!?」




「なんだこいつ!?触られたら消されるぞ!?」




 更に塔から出てきたシャーリィは魔法剣片手に恐慌状態に陥った集団を駆け回り、遠慮無く光の刃を振るう。

 光属性の刃は主の意思に従い触れた敵対者を悉く浄化していく。

 剣や盾で防いでも関係無く光の粒にしていく魔法剣は、襲撃者達の混乱を更に加速させていった。




「お嬢!あんまり無茶すんな!」




 数が減ってきたためか、ベルモンドがシャーリィの傍に馬を寄せる。




「お説教は後で聞きますよ、ベル。マーサさん達は無事です。塔の上で待ってくれています」




「それは良かった。なら、どうする?見逃すか?」




「まさか、逃がすつもりはありません。ベル、これは殲滅戦ですよ?」




「それでこそだ、お嬢。皆殺しにするぞ!うちに手を出したらどうなるか思い知らせてやれ!」



「「「おおおおーーっ!!」」」




 大剣を掲げて号令するベルモンドに、戦闘員達が応える。




「お嬢様とベルモンド殿には当てるなよ!そんな下手くそは居ないと思うがな!」




「二人から離れた奴等を狙え!弾は存分に使え!」




 それは、まさに狩場であった。

 遠距離からの正確な射撃、馬に跨がり縦横無尽に暴れまわるベルモンド、何をしても意味を成さない剣を振り回すシャーリィ。

 襲撃者達はただ翻弄されてマトモな反撃も出来ずに急速に数を減らしていった。

 数少ない者達が唯一反撃できそうなシャーリィを狙うが、避ける以外に防ぐ術がない魔法剣と彼女を護るように立ち回るベルモンドに阻止されていた。




「お嬢に目を付けたのは評価してやるがな、無駄なことだ!」




「ぐべっ!?」




 ベルモンド馬上から大剣を振り降ろす度に血飛沫が挙がり。




「ベルばっかり見てると、後ろがお留守になってますよ?」




 そしてベルモンドに翻弄される集団をシャーリィが後ろから遠慮無く魔法剣をフルスイング。

 光の刃に触れた者は慈悲もなく光の粒となって消えていく。

 そんな虐殺とも言える状況が三十分ほど経過すると、辺りは静まり返っていた。




「ぎゃっ!?」




 最後の一人が一斉射撃で穴だらけになる。




「撃ち方止めーっ!」




「今ので最後だな」




「呆気ないものですね」




「いや、むしろ同情するよ。これだけやりゃ大騒ぎになるんじゃねぇか?」




「そうはなりませんよ?だって、死体が残らないんですから」




「なんだって?」




 シャーリィの言葉にベルモンドが聞き返したが、それにシャーリィは応えること無く柄を構える。




「死者に安らかな眠りを……ホーリーフィールド」



 目を閉じてシャーリィが呪文を唱えると、柄から光が溢れ、それに触れた死体が次々と光の粒となって消えていく。




「……マジかよ」




「魔法の剣の応用です。本来は死者を天に昇らせるための魔法みたいですよ?」




「分かった、証拠隠滅にピッタリだから覚えたな?」




「正解です。さあ、長居は無用ですよ。マーサさん達も怪我をしていますから、速やかに『黄昏』に帰りましょう」




「撤収!撤収ーっ!」




 シャーリィの言葉を聞いて下士官達が号令する。




「いよいよ軍隊みたいになってきたな」




「マクベスさんが階級制度を持ち込みましたからね。目に見えて評価されるのは良いことです。勲章なんかの作成には苦労しましたが」




 再び塔に戻ったシャーリィ、マーサとユグルドを連れ出す。




「馬車の手配が出来ませんでしたが、馬ならあります。乗ってください」




「すまん」




「ありがとう、シャーリィ」




「構いません。お二人には、しっかりと治療を受けてもらいますからね」




 無事にマーサ、ユグルドを回収したシャーリィ達はそのまま旧市街を横断。『ラドン平原』に出て『黄昏』を目指す。

 幸いにして魔物は現れず、無事に『黄昏』に辿り着いた。




「ボス!怪我人だらけだ!人手が欲しい!」




 着いて早々ロメオが悲鳴を挙げる。




「マーサさん達も追加です。セレスティン、手の空いている人は応援をお願いします」




「御意のままに」




 医務室には入り切れず、地面に布を敷いてさながら野戦病院のようになっていた。




「会長ぉ!」




「ご無事で!」




 怪我をしなかった職員達がマーサ達に駆け寄る。




「皆も無事で良かった」




「ああ……体を張った甲斐があるな」




 互いの再会を喜び、手当てを受けるのだった。




「俺、医学生なのにっ!」




「頑張ってください、ロメオ君」




「シャーリィ、怪我はしてないよな?」




 シャーリィも手伝っていると、ルイスが駆け寄ってきた。




「ただいま戻りました、ルイ。怪我はありませんし、マーサさん達も無事です。今は手当てを受けていますよ」




「そっか……良かった。俺も連れていけよ」




「今回は一刻を争いましたから、呼びに行く余裕がありませんでした。ごめんなさい」




「いや、皆が無事なら良いけどよぉ……」




 ルイスはちょうどアスカと『ラドン平原』に出ており、今回の作戦に参加できなかった。




「百点満点とは言えません。正確な数は分かりませんが、犠牲者を出してしまいました。もう少し早ければ……いや、悔やむのは後です。ルイ、手伝ってください」




「おう、任せろ!」





「テントを張れ!野晒しよりは良いはずだ!」




「誰かお湯を沸かしてくれ!そして清潔な布をたくさん用意してくれ!あればあるだけ助かる!」




 ロメオが手当てを行いながら指示を飛ばす。




「手空きの者は手当てを手伝え!一人でも救うのだ!」




 マクベス率いる戦闘部隊も最低限の人数を残して手伝いに駆り出された。




「こちらに!」




「助かる、爺さん!」




 更にロウは薬草園から可能な限りの薬草を採取して届けた。




 この日『暁』は総出で手当てに当たり、薬草の力もあり多数の重傷者の命を救うことになる。

 だが全てを救うことは出来ず、重傷者の内三名が息を引き取り合計で二十人が命を落とすこととなった。

 全員本店勤務であり、シャーリィを含め『暁』と関わりの深い人々である。

 その訃報を聞き、シャーリィはその場で気丈に振る舞うも、夜私室にて人知れず涙を流した。

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