後日談 4G集結その2 〜本番だぞ〜
その頃。王達専用の控え室では皆緊張していた。
「ほお!思った以上に民衆の数が多いのう!
ワシ緊張してきたわい…!」
「カカッ!ワイもだ!こんなの魔獣騒動以来だな!武者震いするぞい」
「…歌詞を間違えたらロージアに怒られる…音程を外しても怒られる…ブツブツ…」
「皆様、大分緊張してますね。まぁ、俺もですけど。
ああそうだ、もう案内は見ましたか?楽団名を俺の方で考えたのですが…いかがでしょう?」
そう言いながら、イーサンは案内表の一番下…順番的に、大トリになっている箇所の楽団名を指した。カイザーが目を通す。
「ふむ、なになに…『カルテット・ジジ』とな。異世界語か?響きはカッコいいのう。どういう意味じゃ?イーサン」
「『爺達4人で演奏します』という意味です」
「そのまんまかい!」
カイザーはつっこんだ。
しかし、これでもイーサンはギリギリまで楽団名を考え悩んでいたのだ。彼のメモ帳には…
『爺'z』『爺アルフィ』『爺烈』などという、どこかで聞いたようなグループ名が連なっていたのである。
・・・・・・・
音楽祭が始まり、各国から参加した者達が次々と特技を披露していく。
アカペラで歌う男性、音楽に合わせて踊りを披露する女性、童謡を歌う子供達…
次第に観客達も手拍子したり一緒に歌ったりと、会場は大盛り上がりだった。
仁亜とアイザックも楽しんでいる。
「なんか、いいですね…!色んな国の人達がああして肩を抱き合いながら、歌っているのは」
「ああ、そうだな」
「アイザックさんも、さっき歌を口ずさんでいたでしょ?聞こえちゃった。
前から思ってましたけど、イイ声してますよね〜!はぁ〜、キュンキュンしちゃいます」
「そ、そうか?」
仁亜は頬を両手で包み、照れながら言った。アイザックもそんな彼女の様子を見て、少しだけ頬を赤くする。
「次回また音楽祭をやるなら、アイザックさんも是非参加したらいいですよ!私見に行きますから!」
「いや、俺はそういうのは…
そんな時間があるならニアに愛を囁いていたい」
「は、はひっ、ふへほっ?!」
真顔で一撃をくらわしてくるアイザック。仁亜は思わず「は行」を口にした。
「も、もうー!アイザックさんったら…あ!ほら、次の参加者が出てきますよー
…って、えええええっ?!女将さんーー?!!!」
仁亜は驚愕した。
ステージに立っているのは、初代渡り人フーミンこと、富美江だった。シックな黒いドレスを着て、同じく艶のある黒髪を結いあげている。
「お?見た事ない女だなー?」
「歌うのか?頑張れよ〜!」
観客はそれを知らずに、一般人だと思って応援している。
すると彼女が歌い出した瞬間、空気が変わった。
姿勢良く、しっとりとした低音で、伸びやかに。その曲は日本の某伝説のアイドルが歌った歌謡曲。新幹線のメロディーにもなっている、旅立ちにふさわしい曲だった。
「で、出た!女将さんの十八番……!」
仁亜は思い出していた。かつて旅館で働いていた時の事を。
富美江はカラオケが大好きだった。団体客が宴会中に歌い出すと、飛び入り参加して一緒に歌う事がよくあった。そして上手いのでさらに盛り上がる。そのため旅館の名物の一つとなっていた。
富美江が歌い終わり、一礼すると…会場は大喝采だった。
「す、すげぇ…!感動した!!」
「ニホン、って場所がわからないが…めちゃくちゃいい歌詞だな!」
観客達は各々興奮して、感想を言い合っている。
「女将さん、相変わらず度胸あるなぁ〜!カッコいい!」
「フーミン様は歌が得意だったのか…意外だ」
仁亜もアイザックも、周囲と同じようにずっと拍手し続けるのであった。
・・・・・・・
「イーサンよ…次はワシ達の出番じゃが…
なんかもう、ワシ帰りたくなってきたわい」
「…参加するなんて聞いてない…どうして言ってくれなかったんだフーミン……!」
カイザー王の問いに、イーサンは頭を抱える。彼女が歌う事を、彼は知らなかったのだ。
会場は大盛り上がりで…さらに、この次は大トリで超大物ゲストが来ていると、事前に発表されていた。観客達は期待せずにはいられないだろう。
つまり、王達には絶大なプレッシャーとなったのである。
「なんじゃいその弱気な態度は!!ここまで来たらなるようにしかならんだろ?
今までの練習の成果を、思う存分ぶつけてやろうじゃないかい!!爺達の底力を見せつけたるわい!」
と、ダンデが喝を入れる。イーサンもハッとした。
「そ、そうですね…ダンデ王の言う通りだ。カイザー王!私達も気合いを入れましょう!!」
「う、うむ…!息子や孫達も見に来ておるしな!カッコ悪い事はできんわい!!」
「あ、そうだ。レイドラント王!先程ロージア妃殿下から言伝がありました。
『この祭典が成功したら、また一緒のベッドで寝ましょう』と…」
「な、何だとっ?!!!!!」
言伝を聞いた途端、レイドラントはシャキッ!とした。イーサンは同情する。
「…最近は別々にされていたのですね…」
「『濡れた枕で一緒に寝たくない』と言われてな…
しかしこれでやる気が出てきたぞ!絶対成功させてやる!!!」
そして、それぞれが気合いを入れてステージへと向かっていくのだった。
・・・・・・・
司会者の紹介で4人がステージに上がると観客全員が驚いた。そして、
「えっ?!カイザー王?!」
「レイドラント王もいるぞ?!」
「ダンデ王は…演奏なんてできるのか?!」
「もう一人知らないヤツがいるが…あの3人の威圧感に負けないとは…只者ではないな!」
と、ざわつくのだった。
4人は目で合図をし…演奏し始めた。
曲は、伝説のバンドのバラード。かつて日本の首相が好きだと公言して、話題にもなった。イーサンはその歌詞を、マルタナアイ語に訳したのである。
ダンデの力強いドラム、カイザーの正確なギターコード、縁の下の役割であるイーサンのウッドベース…そして、チェンバロを弾きながら情緒豊かに歌うレイドラント…
その全てが、噛み合った!
演奏が終わり、4人が「…ふぅ」と一息つくと…
「す、すげえええええ!!!」
「歌詞が切なすぎて……かっ、感動した………!!」
「一生ついていきます陛下ーー!!」
と、観客のみならず、会場にいた警備隊や近衛隊達も総立ちの、スタンディングオベーションとなった。
仁亜達も感動のあまり、泣きそうになっている。
「ううっ……この異世界であの曲が聴けるなんて……最高ーーっ!!!」
「ニア、その腕をバッテンさせているポーズは何だ…?いや、そんな事はいいか。俺も感動している……!
いいな、この『永遠の愛』という曲は…」
そして二人して、手が腫れそうなほど叩くのであった。
―こうして、音楽の祭典は成功を収めた。
余談だが、この愛を求める曲を歌った事で…
各国の王はやたら部下達に労られるようになり、より爺感が増してしまったのだった。




