表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/62

後日談 4G集結その2 〜本番だぞ〜


 その頃。王達専用の控え室では皆緊張していた。


「ほお!思った以上に民衆の数が多いのう!

 ワシ緊張してきたわい…!」


「カカッ!ワイもだ!こんなの魔獣騒動以来だな!武者震いするぞい」


「…歌詞を間違えたらロージアに怒られる…音程を外しても怒られる…ブツブツ…」


「皆様、大分緊張してますね。まぁ、俺もですけど。

 ああそうだ、もう案内は見ましたか?楽団名を俺の方で考えたのですが…いかがでしょう?」


 そう言いながら、イーサンは案内表の一番下…順番的に、大トリになっている箇所の楽団名を指した。カイザーが目を通す。


「ふむ、なになに…『カルテット・ジジ』とな。異世界語か?響きはカッコいいのう。どういう意味じゃ?イーサン」


「『爺達4人で演奏します』という意味です」


「そのまんまかい!」


 カイザーはつっこんだ。

 しかし、これでもイーサンはギリギリまで楽団名を考え悩んでいたのだ。彼のメモ帳には…

『爺'z』『爺アルフィ』『爺烈』などという、どこかで聞いたようなグループ名が連なっていたのである。






・・・・・・・





 音楽祭が始まり、各国から参加した者達が次々と特技を披露していく。

 アカペラで歌う男性、音楽に合わせて踊りを披露する女性、童謡を歌う子供達…

 次第に観客達も手拍子したり一緒に歌ったりと、会場は大盛り上がりだった。


 仁亜とアイザックも楽しんでいる。


「なんか、いいですね…!色んな国の人達がああして肩を抱き合いながら、歌っているのは」


「ああ、そうだな」


「アイザックさんも、さっき歌を口ずさんでいたでしょ?聞こえちゃった。

 前から思ってましたけど、イイ声してますよね〜!はぁ〜、キュンキュンしちゃいます」


「そ、そうか?」


 仁亜は頬を両手で包み、照れながら言った。アイザックもそんな彼女の様子を見て、少しだけ頬を赤くする。


「次回また音楽祭をやるなら、アイザックさんも是非参加したらいいですよ!私見に行きますから!」


「いや、俺はそういうのは…

 そんな時間があるならニアに愛を囁いていたい」


「は、はひっ、ふへほっ?!」


 真顔で一撃をくらわしてくるアイザック。仁亜は思わず「は行」を口にした。


「も、もうー!アイザックさんったら…あ!ほら、次の参加者が出てきますよー

 …って、えええええっ?!女将さんーー?!!!」


 仁亜は驚愕した。

 ステージに立っているのは、初代渡り人フーミンこと、富美江だった。シックな黒いドレスを着て、同じく艶のある黒髪を結いあげている。


「お?見た事ない女だなー?」

「歌うのか?頑張れよ〜!」


 観客はそれを知らずに、一般人だと思って応援している。


 すると彼女が歌い出した瞬間、空気が変わった。

 姿勢良く、しっとりとした低音で、伸びやかに。その曲は日本の某伝説のアイドルが歌った歌謡曲。新幹線のメロディーにもなっている、旅立ちにふさわしい曲だった。


「で、出た!女将さんの十八番……!」


 仁亜は思い出していた。かつて旅館で働いていた時の事を。

 富美江はカラオケが大好きだった。団体客が宴会中に歌い出すと、飛び入り参加して一緒に歌う事がよくあった。そして上手いのでさらに盛り上がる。そのため旅館の名物の一つとなっていた。


 富美江が歌い終わり、一礼すると…会場は大喝采だった。


「す、すげぇ…!感動した!!」

「ニホン、って場所がわからないが…めちゃくちゃいい歌詞だな!」


 観客達は各々興奮して、感想を言い合っている。


「女将さん、相変わらず度胸あるなぁ〜!カッコいい!」


「フーミン様は歌が得意だったのか…意外だ」


 仁亜もアイザックも、周囲と同じようにずっと拍手し続けるのであった。







・・・・・・・






「イーサンよ…次はワシ達の出番じゃが…

 なんかもう、ワシ帰りたくなってきたわい」


「…参加するなんて聞いてない…どうして言ってくれなかったんだフーミン……!」


 カイザー王の問いに、イーサンは頭を抱える。彼女が歌う事を、彼は知らなかったのだ。


 会場は大盛り上がりで…さらに、この次は大トリで超大物ゲストが来ていると、事前に発表されていた。観客達は期待せずにはいられないだろう。

 つまり、王達には絶大なプレッシャーとなったのである。


「なんじゃいその弱気な態度は!!ここまで来たらなるようにしかならんだろ?

 今までの練習の成果を、思う存分ぶつけてやろうじゃないかい!!爺達の底力を見せつけたるわい!」


 と、ダンデが喝を入れる。イーサンもハッとした。


「そ、そうですね…ダンデ王の言う通りだ。カイザー王!私達も気合いを入れましょう!!」


「う、うむ…!息子や孫達も見に来ておるしな!カッコ悪い事はできんわい!!」


「あ、そうだ。レイドラント王!先程ロージア妃殿下から言伝がありました。

『この祭典が成功したら、また一緒のベッドで寝ましょう』と…」


「な、何だとっ?!!!!!」


 言伝を聞いた途端、レイドラントはシャキッ!とした。イーサンは同情する。


「…最近は別々にされていたのですね…」


「『濡れた枕で一緒に寝たくない』と言われてな…

 しかしこれでやる気が出てきたぞ!絶対成功させてやる!!!」


 そして、それぞれが気合いを入れてステージへと向かっていくのだった。







・・・・・・・






 司会者の紹介で4人がステージに上がると観客全員が驚いた。そして、


「えっ?!カイザー王?!」


「レイドラント王もいるぞ?!」


「ダンデ王は…演奏なんてできるのか?!」


「もう一人知らないヤツがいるが…あの3人の威圧感に負けないとは…只者ではないな!」


 と、ざわつくのだった。


 4人は目で合図をし…演奏し始めた。

 曲は、伝説のバンドのバラード。かつて日本の首相が好きだと公言して、話題にもなった。イーサンはその歌詞を、マルタナアイ語に訳したのである。


 ダンデの力強いドラム、カイザーの正確なギターコード、縁の下の役割であるイーサンのウッドベース…そして、チェンバロを弾きながら情緒豊かに歌うレイドラント…


 その全てが、噛み合った!


 演奏が終わり、4人が「…ふぅ」と一息つくと…

 

「す、すげえええええ!!!」


「歌詞が切なすぎて……かっ、感動した………!!」


「一生ついていきます陛下ーー!!」


 と、観客のみならず、会場にいた警備隊や近衛隊達も総立ちの、スタンディングオベーションとなった。


 仁亜達も感動のあまり、泣きそうになっている。


「ううっ……この異世界であの曲が聴けるなんて……最高ーーっ!!!」


「ニア、その腕をバッテンさせているポーズは何だ…?いや、そんな事はいいか。俺も感動している……!

 いいな、この『永遠の愛』という曲は…」


 そして二人して、手が腫れそうなほど叩くのであった。



 ―こうして、音楽の祭典は成功を収めた。


 余談だが、この愛を求める曲を歌った事で…


 各国の王はやたら部下達に労られるようになり、より爺感が増してしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ