表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/62

後日談1の3 セルゲイ、漢の決着


 ―この勝負は長くなりそうだ。


 仁亜は諦めてサーシャの元へ戻った。サーシャも暇なのか、剣の手入れをしていた。


「あれ?その剣サーシャさんの?」


「いえ、これはセルゲイのです。そこに無造作に置いてあったので。

 まったく、すぐ手入れを怠るから…。

 ん?()()ベッドの上に服の山を作って…もう!」


 サーシャは剣の手入れを終えたと思ったら、たたまずに積み重ねられた服を片付け始めた。

 …また、という事は何回かこの部屋を訪れているのか。仁亜が思った以上に、彼等の仲は進んでいたらしい。

 仁亜はこっそりサーシャに聞いた。


「ねぇ、サーシャさんはどんな人と結婚したい?」


「え?突然どうしました?そうですね…。

 私は近衛隊士である事を誇りに思っています。だから結婚したら除隊して家庭に入れ、という人は嫌ですね。

 家に篭っているのも性に合わないですし、一緒に体を動かしたり、出かけたりできる人がいいかなぁ…と」


 そう言いながらサーシャが見つめた先は…出したままの右手が痙攣し始めるも、なおうんうん唸っている、あの男だった。


「……うん、お似合いだと思う。きっと、幸せになれるよ。なんかわかるんだ、私」


「!ニア様…ありがとうございます」


 ボソッと呟いた仁亜に、サーシャは少し顔を赤らめながら礼を言った。


「…まだ時間がかかりそうですね。セルゲイがこの悪魔のカードを引かなければ勝ち…。

 あれ、よく見たらこの悪魔の格好をした女性、ニア様に似ていますね」


 サーシャにそう言われ、ジョーカーのカードを見た仁亜。


「そう?…あ、確かに顔とか髪型とか似てるかも?すっごい偶然!

 ってやだー、私こんな面積の少ない服着ないから!」


 そうキャッキャしている二人の会話を、地獄耳で聞く者がいた…アイザックだ。

 彼はすぐさま左手のカードを見た。確かに似ていた。

 仁亜のもっていたトランプは人気アニメとコラボしたもので、ジョーカーのカードはピエロではなく女性キャラだった。黒のエナメル生地のビキニを来た、セクシーな悪魔だ。


 なぜ気づかなかったのか。アイザックは凝視した。こんな格好を、もし仁亜がしたら…

 と、想像したその時。


「ああああもういい!決めた!オレは引くぞ!引いてやる!!」


 痺れを切らしたセルゲイが、勢いよくアイザックの左手のカードを取ろうとした。

 そう、彼はアイザックを信じようとしたのである。

 部下を騙した後ろめたさと、まだこの悪魔のカードを眺めていたかったアイザックは、咄嗟にカードを持った左手に力を込めてしまった。

 セルゲイはセルゲイで、そのカードが引っぱり切れず…さらに集中力が切れ始めた為「じゃあこっちでいいか」と無意識に反対の右手のカードを取った。そして………


「おっ…うおおおおおおおおっ!!!!!

 揃った!揃ったぜーーー!!!!!」


 部屋中に彼の雄叫びが響く。



―セルゲイの勝利であった。



「うっそ、本当にセルゲイ勝っちゃった…」


 と驚く仁亜と、


「くっ、迂闊だった。悔しいが…俺の負けだ」


 と、めちゃくちゃ残念がるアイザックを尻目に、セルゲイはサーシャに飛びついた。


「なっ…なんだセルゲイ突然に!恥ずかしいじゃないか!!!」


「やったぞサーシャ!!オレは隊長に、あのアイシス一強い隊長に勝ったんだぞ!!!

 これでお前に求婚できる!!」


「は?!ちょっ、ちょっと待て!今何と言った?!」


「オレと結婚してくれサーシャ!!許可してくれるまで何度でも言うからな!!」


「はああああああああ?!」


 突然のプロポーズに驚くサーシャだった。







・・・・・・・






 数日後。


 セルゲイとサーシャの、婚約が発表された。

 そこに至るまでの報告を受けた王は、


「アイザック達に続いて…最近の若い者はよくわからん勢いで結婚するのう…まあいい事じゃが」


 とボヤいたという。


 エリートである近衛隊同士の結婚とあって、さぞ城内で話題になると思いきや…掻っ攫ったのは、別の人物達だった。

 

 ここ数日、近衛隊長アイザックが、時間さえできれば仁亜を執務室に連れ込んでいるのだという。

 聞き耳を立てていた部下によると、部屋から


「頼むニア!もう一回!」

「もう嫌です!疲れたから寝かせて!」

「そこを何とか!」

「うう…アイザックさんしつこいよおおお」


 という会話が聞こえたという。


 …ちなみに大変な誤解である。


 あの日ババ抜きで負けたアイザックは、仁亜にも勝負を持ちかけたが、また負けたのである。完全に負け癖がついてしまったのだ。

 このまま引き下がれなかった彼は、時間さえあれば仁亜を呼び出し、ババ抜きをしたのである。


 勉強疲れの体を休める為に執務室へ来ていた仁亜にとっては、迷惑な話だった。

 しかしお人好しの性格で、頼まれると断れない。そして仁亜はなぜかババ抜きが強かった。

 そのため彼がようやく勝って某ボクサーのように真っ白に燃え尽きた頃には…数日が経過していた。


 そんな事情を知らない周囲からは「あのアイザックがあそこまで女に夢中になるなんて…」と、しばらく噂されてしまうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ