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後日談1の2 セルゲイ、漢の引き


 後日。


 セルゲイの自室にアイザック、仁亜、そしてサーシャが集まった。


「…じゃあ隊長、よろしくお願いします!」


「ああ、俺は手加減などしないぞ。全力で来い」


「では公平に行うため、私がカードを配りますね」


 勝負する二人が向かい合って座り、挨拶を交わす。

 真ん中に座った仁亜はそれを見届けた後、テーブル上でカードをリフルシャッフルしていく。そんな彼らを、少し離れた所からサーシャが見守っていた。

 ちなみにサーシャには「アイザックとセルゲイがカードゲームをするから見に来て」としか伝えていない。

 その為いざ来てみると、これから戦闘かと思う程真剣な表情の二人に、ただただ驚いているのだった。


 仁亜がカードを配り終えた後、少ししてセルゲイがガッツポーズした。


「いやったああ!!ババが入ってねぇぞ!」


「…馬鹿セルゲイ、言っちゃダメじゃん!

 誰がババ持ってるかわかっちゃう!」


「…まあいいさ。二人だけなんだから、単純に札数が多い方にババがあるのは当たり前だ」


 セルゲイのおバカ発言に突っ込む仁亜、悟るアイザックだった。

 よくわからないまま盛り上がる彼等を見たサーシャは、たまらず仁亜を呼んだ。


「あの、ニア様?皆盛り上がっているようですが…一体何の遊びをしているんですか?私にはさっぱり…」


「あ、ごめんねサーシャさん。これはね、ババ抜きって言って…」


 仁亜が説明を始めると同時に、セルゲイ達も勝負を始めた。


「なるほど。最後にババ…このカードが残った者が負けなのですね。

 面白い遊びですね。それにこのトランプという物…珍しい。とても精巧な作りをしていますね」


 サーシャは使わずに残った、もう一枚のジョーカーのカードを眺めていた。


「日本では普通に売ってるよー。たまたま持ってて良かったよ。いい時間つぶしになるし」


 仁亜達が話し込んでいると、セルゲイがまた大きくガッツポーズした。


「よっしゃああああ!また札が揃った!!

 開始してから連続だぜ!!!」


「………………」


 アイザックは無表情でセルゲイを見ているが、仁亜は彼が何を考えているのか分かった。


 …二人でやっているのだから、片方が札を引けばペアになるのは当たり前である、と。


 それを顔に出さず静かにカードを取り、合わせた札を捨てるアイザック。


「あーっ!隊長も札が揃った!くそっ!!」


「………………」


 さすがアイザック。どんな場面でも突っ込みをせず、冷静なのであった。

 焦ったのか、セルゲイは突然サーシャに向かって叫んだ。


「サーシャ、オレはオマエの為に絶対勝ってみせる!!うおおおおっ!!」


 そしてアイザックから札を取る。ジョーカーではなかった為、勿論ペアになった。そしてまた「よっしゃー!」と叫ぶ。

 なおアイザックは(略)


「?!私の為…?どういう事ですかニア様?」


 急に名前を出されたサーシャは、びっくりして仁亜にコソッと問う。


「もう!セルゲイ本当口軽いなぁ」


「二人は私の為に勝負しているのですか?!

 セルゲイと…()()()()()()()()()()()()…?」


「プクッ」と、仁亜はサーシャから隊長の名前が出た途端、久しぶりに脳内で焼き餅を膨らませた。

 サーシャは過去、アイザックに懸想していた時期があったからだ。

 仁亜は唸っているセルゲイに向かい、こう言って凄んだ。


「…セルゲイ、絶対、ぜーったい勝ちなさいよ…。負けたらどうなるか、わかってんでしょうね…?」


「?なんだよ言われなくても…うわ怖っ!

 コイツ真顔だと顔怖っ!!」


 必殺、父譲りの氷の(笑)表情であった。


 そして熱中し過ぎて勝負の趣旨をすっかり忘れているアイザックは、

(ニアが俺ではなく他の男を応援している…)と若干ショックを受けていた。







・・・・・・・






 しばらくして、勝負は遂に終盤を迎える。

 セルゲイの手札は一枚、アイザックは二枚。

 セルゲイは奇跡的にババを引かないままここまで来たのだ。


「オレがババを引かなければ…勝ちだ!」


 少し余裕を見せたセルゲイだったが、次のアイザックの一言に固まった。


「ではセルゲイ、先に言っておこう。

 …お前から見て左のカードが、ババだ」


「えっ…?!」


「さあどうする?俺が嘘をついているかどうか、見破ってみろ」


 セルゲイは分かりやすい程動揺した。カードを取ろうとした手が思わず止まった。


「たっ、隊長がオレを試している…。

 いつもの隊長なら優しいから、部下に花を持たせてくれるだろう。しかし今日は漢の勝負だ、隊長も本気に違いない…い、いやしかし…ああくそっ、どっちだ?!!!」


 彼の右手が、左右にせわしなく動く。


「くっ、これが心理戦か!なら隊長の心を読み解く…くっそぉぉぉ!!無表情で何考えているかわからねぇぇぇぇ!!!

 顔が整っているから尚更ムカつく!!」


 最後のは完全に、やっかみである。


 アイザックの言う事が本当なのか、仁亜はこっそり彼の背後にまわった。

 …右ではなく、左がババであった。彼はしれっと嘘をついているのである。


(うわあアイザックさん…マジで勝ちに行こうとしてる…意外と負けず嫌いなのかな)


 彼はこのゲームの目的を、忘れてしまったのだろうか。セルゲイが負けたらサーシャにプロポーズできないのに。


 セルゲイは悩みに悩み続け…小一時間経ってしまった。

 すっかり飽きた仁亜は、アイザックにこそっと耳打ちする。


「…いい加減早く引け、って言ってくれません?」


「いや、これもヤツの作戦かもしれん。

 時間をかけて俺の集中力を奪う、というな。フッ、俺に持久戦で挑むとは面白い。成長したな、セルゲイは」


「…いや、絶対そこまで深く考えてないと思いますけど…」


 なぜか楽しそうなアイザックに、漢の勝負の世界が分からない仁亜は、若干呆れたのだった。

その3に続きます

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