後日談1の1 セルゲイ、漢の勝負
最終話からすぐ後の話です
「やあ、近衛隊長(笑)アイザック!久しぶり!」
「殿下!この度は!誠に!申し訳な…」
「あああごめん冗談だって!そんな一言一言に90度にならないでーー!」
ギリアムは叫ぶたびに頭を下げるアイザックを止めたのだった。
―謹慎が解けたアイザックは、早速王太子ギリアムの護衛を務めていた。その帰り際の事。
「いやぁ、やっぱりアイザックに守ってもらうのが一番良いよー。完全に油断できるもん。この前はヒヤッとしたからさー」
「それはそれで心配ですが…。
殿下、私が不在中の護衛係に何か問題が?」
「ちょっとねー。あのセルゲイって若いヤツいるじゃん?
この前タナノフに公務で行ってきたんだけど、気づいたら向こうの王子の側近と言い合いになっててさ。
危うく喧嘩になりそうな所だったよー」
「!そうでしたか…それは大変失礼を…」
「剣の腕はイイみたいだけどね。ちょっとキレやすいのかなー。なんか、女の子の好みの話で言い合いになってたようだけど。
馬鹿馬鹿しいね。女の子はみーんな、可愛いお花さん達なのに。タナノフの女の子達はエネルギッシュで、皆生き生きして魅力的だったよ」
「………」
それはそれでどうだろう、と思うアイザックだった。
・・・・・・・
城に戻ったアイザックは、早速セルゲイを自分の執務室に呼び出し叱責した。
「俺が謹慎中で、お前達に負担をかけていたから強くは言えないが…今後は気をつけろ」
「はい…申し訳ないっす」
「女の事で言い合いになったと聞いた。
…あまり個人の事情には介入しないつもりだが、何か悩んでいるのであれば遠慮なく言うんだぞ」
「隊長……」
セルゲイはいつになく真剣な表情で、目の前のアイザックを見た。
「隊長。じゃあ、お願いがあるっす」
「何だ?言ってみろ」
「オレと…決闘して下さい!!!!」
「悪いが俺は大事な婚約者がいるから結婚はできない」
「どこをどうすりゃそんな聞き間違いするんすかーーーーー!!!!」
平然とボケるアイザックに、セルゲイは絶叫した。
そして叫び声は続く。
執務室の隅にあるドアから、勢いよく誰かが入ってきたからだ。
「うるさいわー!!馬鹿セルゲイ!!
起きちゃったじゃん!!」
…その正体は、仁亜だった。
「何だアホ毛女か。隊長の仮眠室から起きて出てくるなんて何を…
はっ!ま、まさか、おま、おまえ…」
「もうアホ毛じゃないってば!!!
…何よ?ずっと勉強してて疲れたから、少し寝かせてもらってたんだもん!悪い?」
「もん!じゃねぇよ!ただの昼寝かよ紛らわしいな!
本当この女は…淑女って言葉を辞書で引いてこい!」
「えっ、セルゲイ辞書が引けるの?すごいねー」
「ああ?!
馬 鹿 に し て ん の か ?
…隊長っ!!こんなのに好き勝手させてていいんすか?!」
呼ばれたアイザックは、気まずい顔をした。
「すまない、俺が提案したんだ…
その辺で雑魚寝されるよりは、側で護衛も出来るし良いと思って…」
「…………そうっすか……」
二人はしばらくの間、お互い黙っていた。
仁亜が発言するまで。
「どうしたの?二人して黙って…。
あ、そうだよセルゲイ。決闘って何の話よ?」
「は?!あ、ああ…そうだ、その…。
隊長!実はオレ、サーシャと恋人同士なんです」
「何?そうなのか、初耳だな」
「…アイザックさん、気づいてなかったんですね」
相変わらずニブいアイザックに、仁亜は小さく呟いた。セルゲイは続ける。
「それでそろそろ求婚しようと思ってるんすけど、今ひとつ決め手に欠けるっていうか…。
オレはサーシャより年下だし、将来性のある男にならなきゃ、って焦っちまって。
だからアイシス国一強い隊長と決闘して、一撃でも食らわせられれば自信に繋がるかなって…」
「ちょっと!アイザックさんには何のメリットもないじゃん。もし怪我でもしたらどうすんのよ」
仁亜はすかさず反対した。
「俺は大丈夫だ、ニア。いつでも戦える。
しかしだなセルゲイ、俺は謹慎明けの身だ。
しばらくの間は目立つ行動は控えたいのだが…本来、隊士同士の決闘は御法度だしな」
「そ、そうっすよね…すいません。無理言って」
途端にしょんぼりするセルゲイ。らしくない、と仁亜は思った。
「え、それで諦めるの?!アンタすぐにでもサーシャさんと結婚したいんじゃないの?」
「そりゃ、してぇけど…」
「…決闘にこだわる理由ってある?
別のやり方でアイザックさんに勝てれば、それでも良いんじゃない?」
「ん?何かいい方法があんのか?」
セルゲイに質問し返されて考える仁亜。
「えっ、例えば体じゃなくて頭を使うゲームとかいいんじゃない?
うーん…トランプ…ババ抜き…とか?
それなら日本から持ってきてるけど」
「?何だそりゃ」
「カードを使った遊びだよ。
えっと…口で説明するのは難しいな。アイザックさん、ちょっと机借りますね」
仁亜は複数の紙に数字を書き、簡易的なカードを作って説明した。
「ほう…最後にこのババという札が残った者が負けと。子供の遊戯かと思ったが、中々面白そうだな。
相手にどの札を選ばせるか、または自分が取るか…冷静な判断力と思考が求められるな」
アイザックは興味津々だ。
「要領は分かったが…オレこういう頭使うのめちゃくちゃ苦手だぜ?」
「そこが良いんだよセルゲイ。
脳筋のアンタが頭脳戦で、しかもアイザックさんに勝てた、なんてサーシャさんが知ったら…惚れ直すの間違いなしよ!」
「一言余計だな!…だが、一理ある…」
そう仁亜にのせられたセルゲイは、決心した。
「よし、わかった!じゃあ後日オレと勝負して下さい、隊長!」
「受けて立とう、セルゲイ。
…おっと、そろそろ時間だ。悪いが王に呼ばれているから席を外すぞ」
そうして、アイザックは部屋を出て行った。セルゲイと仁亜がその場に残る。
「よーし、私も勉強頑張るぞー」
「ところでお前、勉強って何してるんだ?」
「シェパード家とクリステル家の歴史とか領地についてとかー。どっちも古くからある名家だから覚える事が多くて多くて。
勉強の為に城の書庫に通い詰めで…気が狂いそうだから、たまにアイザックさんの執務室にお邪魔して休憩してるの」
「うわ、それは同情するぞ」
「メモもめっちゃ取るから手が痛くなるしー。
あ、この机の白っ紙もらっちゃえ…うわあああああああああ!!!!」
「なんだよ、いきなりどうした?」
「うっ、ううん大丈夫!!虫がいたから驚いただけ!!」
―思わず手にした紙を、慌てて後ろ手に隠した仁亜。
机の上にあった紙の裏には…先程昼寝をしていた仁亜の寝姿が、ばっちりスケッチされていたからだった。
犯人は勿論、あの人だった。
その2に続きます




