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馬「ちゃうねん旦那」


「ここ……どこ………?」


 一瞬意識が飛んだ仁亜が目を開けると、そこは…森の中だった。

 変な鳥の声が聞こえるし、薄暗くて不気味な場所だ。もちろん彼はいないし、それどころか人の気配もない。


「もしかして転送失敗したの?!ちょっと?!!天上神様あああ?!!」


 仁亜は薄暗い空を見上げて叫んだが、何も返事は無かった。


「うう…暗くて怖いの、本当嫌なんだけど…。

 こんな気味が悪い所に彼がいるわけ…

 『ニア?!何故此処に?!』っうわああああああ出たああああああ!!!」


 背後から急にかけられた声に驚き、必死に持っていたフライパンをぶん回す仁亜。


「?!おっと…お、落ち着けニア!俺だ俺!!」


「新手のオレオレ詐欺ーー!!………ってあれ、アイザック……さん……?」


 仁亜はバンザイしたポーズのまま、動きを止めた。手から離れたフライパンが、ガラン!と音を立てて落ちた。


「何故此処にいるのかは知らんが…ニア…無事で良かった…!」


 そう言いながら、アイザックはバンザイしたままの仁亜に抱きついた。


「ううっ…アイザックさんだあ…本物だあ…うわああああん!!怖かったよおおお!!でもちゃんとアマタ様がアーバンを倒したよおおお!!!」


 仁亜も彼にしがみついてオイオイ泣いた。


「!そうか…よしよし、よく頑張ったな」


 彼は何度も仁亜の頭を撫でて言った。


「…ところでニア、君も本物だろうな?」


「…ぐすっ……え??」


「あの天上人とかいうヤツに…身体を乗っ取られたままじゃないよな?」


 アイザックは心配顔で聞いてきた。

 そうだ、あの時私はアマタ様に憑依されたんだ。でもちゃんと意識はあった。

 アマタ様ったら彼に「もしかしたらニアに身体を返してやれないかもー」なんて言っちゃってた気がする。そりゃ心配するわ。


「大丈夫です!ちゃんと『私』ですよ〜!って、言ってもわかんないですよね!ふふっ。

 …やだなあアイザックさん、そんな眉尻下げないで。もし私が元に戻れなくて、アマタ様のままならどうするんですか〜?」


 仁亜は冗談めかして聞いてみた。


「もしヤツなら……(このセリフには残酷描写・15歳未満の方の閲覧にふさわしくない表現が含まれているので割愛☆)……する」


「私は仁亜です!本物です!!」


 急に真顔でとても文章に書き起こせない発言をしたアイザックに、仁亜は必死で自分をアピールした。

 アマタ様をめっちゃ嫌ってたんだな。彼を本気で怒らせてはいけないと、心に誓う仁亜だった。





・・・・・・・





「それで、ココはどこなんですか?」


 ようやく落ち着いた所で、仁亜は質問した。


「ここはギアマ山への入り口だ」


「ギアマ山……?」


「マルタナアイ大陸の中央部にある、最高峰の山だ。この山の頂上が眩しく光ったから、きっとニアがいると思い慌てて広場から追いかけたんだ。

 もちろん、広場にいた魔獣は全て倒してからな」


「広場から…あ!そうだ!急にいなくなってごめんなさい。ギリアム殿下やヒルダ様は大丈夫ですか?」


「ああ。残っていた魔獣がしばらくして、突然弱体化してな。きっとニアの活躍だと思ったんだ。

 最後は殿下でも倒せる程弱っていたぞ」


「それはよっぽどですね……」


 魔獣よ、アーメン。


「ニア、もう一度確認する。戦いは全て、終わったのだな…?」


 アイザックは改めて仁亜に向かい合い、問うた。


「はい!色々ありましたけど何とか。結局、私自身は何もしてませんけど…ハハハ。

 アイザックさんと合流できたし、城へ戻って皆に報告しないと…」


 そう笑顔で話す仁亜の言葉を遮って、彼は彼女の両肩を掴んだ。


「?どうしました?」


「……ニア。こんな場所と状況で言う事ではないと重々承知しているが…言わせてくれ。

 俺は君の作るスルフィが毎日飲みたい。駄目だろうか?」


「!それは…」


 仁亜は狼狽えた。

 スルフィとは、野菜スープの総称である。アイシス人の家庭料理の一つで、余った野菜くずを勿体ないからスープにしたことが起源であった。

 仁亜もクリステル家やシェパード家で食したので、どのようなものかは知っていた。日本で言う所の、毎日飲む味噌汁のようなものである。

 つまり、彼が私に言いたいのは…


「俺に毎日味噌汁を作ってくれ=結婚してくれ」という意味になるのだ。言わずもがな、プロポーズである!

 

「?!えっ、あう、あうう」


 久しぶりにオットセイになる仁亜。しかし、今回はそれほど長くなかった。


「ごっ……ごめんなさいいい!!!」


 仁亜は勢い良く頭を下げた。

 まさかの展開に、アイザックも狼狽えた。


「すっ、すまない!ニアも多少は意識してくれていると……俺の思い上がりだった!忘れてくれ!」


「ちっ違うんです!その………私………」


 仁亜は頭を左右にブンブン振ったあと、降参したかのようにガックリと項垂れた。


「私…料理が…出来ないんです…」


「?そうなのか?」


「いっ、いえ!やる気はあるんですよ?!やってみた事も…でも何か、才能が無かったというか、いつも思ったのと違うモノが生み出されるというか…

 女将さんがそれを見て、私を絶対厨房には入れてくれなくて…

 だからプロポーズは嬉しいんですけど…何も作ってあげられないんです…」


 他の誰かが聞いていたらツッコミ所満載だったが、運が良かった。

 ここには現在、仁亜の事で頭がいっぱいのアイザックしかいないのである。


「……では俺が作ればいい話だな」


「え?」


「普段自炊する事もあるし、近衛隊に所属するまでは訓練で野営も幾度となく経験していた。問題ない」


「ええ?」


「それでは改めて聞こう、ニア。俺の作るスルフィを、飲んでもらえるか?」


「えええっ?!

 はっ…はい……こんな私でよかったら…」


 これほどたたみかけてくるプロポーズがあっただろうか。しかしここには現在、アイザックの事で頭がいっぱいの仁亜しかいない。

 彼女は勢いに身を任せて了承した。


「!そうか!!良かった…」


 彼は今まで見た中で一番の笑顔になり、彼女を横抱きにした。

 以前もスマートな対応だったが、今回は特に大事に、愛おしそうに持ち上げられた。

 そのまま、水場で休んでいた馬へと向かって歩いて行く。


「それでは急ぎ城へ戻って、王に報告だな」


 馬は水を飲む事をやめて、アイザック達を見て鳴いた。


「グルヒヒン!(旦那ぁ〜勘弁して下さいよ〜もう少し休ませて下せぇな〜)」


「フッ。馬も私達を祝福してくれているようだ」


「(多分違う気がする…)」


 水を差すことになるので、仁亜は何も言わなかった。

次回、最終回です

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