全て解決なのだ
「では、転生させるのだ」
そう天上神が言うと、球体の中のアマタ様が光り始めた。足元から上へと、砂がこぼれるようにサラサラと消えていく。
「ニア、本当にありがとう。あなたといた時間は少しだけだったけど…楽しかったわ」
「こちらこそ。アーバンと出会えると良いですね…。
あっ、聞き忘れてた!アマタ様はどうして私を日本から呼んだのですか?」
「あなたが元々この世界で生まれた子だって知っていたから…。アーバンの闇の力で他の世界に飛ばされたのを見て、絶対に親元へ返さないと、と思ったのよ。天上ルールを破ってでも。
まあアイツにやられっぱなしっていうのも癪だったしね」
「ふふっ。本当負けず嫌いなんだから。でも、ありがとうございました」
「ねぇ、ニア。私ね、人間になったらやってみたい事があるの」
「え、何ですかそれは?」
「それはね…××××よ……」
アマタ様はポツリと呟いたあと、消えてしまった。変な口調も直ってた。
きっと消える前から人間になりつつあったのかも知れない。そして球体の中には誰もいなくなった。
「さようなら、アマタ様…」
仁亜はうつむき、ちょっぴりセンチメンタルになって…
「…ちょっと待て!は?!じゃあお礼もらえなかったじゃん!!!!そんなああああああ!!!!」
さらにメンタルをやられた。
「そう落ち込む必要はないのだ〜」
頭を抱える仁亜に、天上神が脳天気な様子で答えた。
「そりゃ落ち込みますよ!めちゃくちゃ頑張ったのに!今更だけど口調がイラっとしますね天上神様!」
「失礼なヤツなのだ。せっかくアマタの代わりに、天上神のわしがお礼をしようと思ったのに」
「ハハーッ!有り難き幸せです天上神様!」
仁亜は速攻で土下座した。
「…調子のいいヤツなのだ。で、何が望みなのだ?」
「え?えーっと…そうですねー…」
「何も考えてなかったのかい!」
思わずツッコミをする天上神。
「アホ毛…はアマタ様がいなくなったら直ったし…んー、何だろ…思いつかない」
「余程アホ毛に悩んでいたのだな…欲のないイイ子なのだ。何か申し訳なかったのだ」
「いやぁ実家がお金持ちと知ったので、特に衣食住には困らないし…強いて言えば、働き口の斡旋とか?
…あ!!!!元いた世界の事でお願いがあります!」
「何なのだ?申してみよ」
「旅館の皆に…女将さんに、『私はもう戻ってこない』って伝えて欲しいです!
きっと私がいなくなって捜索願いとか出されてるかも!お願いできます?!天上神様?!」
その場でアタフタし始める仁亜に、またもや天上神は脳天気に答えた。
「それならお安い御用なのだ。ちょっと待つのだ。
……あー、もしもしアーツか?わしじゃ。お前の所にアーバンの闇の力で飛ばされた女がおっただろ?……そうそう…何?そうなのか?
それは好都合なのだ!ああ、後はわしがやるのだ。じゃあまたな」
「?何か電話でもしてるみたいですね、天上神様」
「ああ悪い悪い。終わったのだ。
わしがニホンへ向かうより、手っ取り早い方法があるのだ!」
「?どんな方法ですか?」
「…直接会って報告すれば良いのだ。ほれ、球体を覗いてみい」
「?」
仁亜はそう言われるがままに、覗いてみると…中に映像が映っており、そこにいたのは…
「女将さんと大将?!!何で旅仕様の格好をして……
はぁ?!!どうしてクリステル家にいるの?!!」
球体には、以前訪れた時より少しだけ華やかになったクリステル家の庭に、旅行カバンを持った二人の男女がいた。
声は聞こえないが、二人とも周りをキョロキョロして驚いている様子だ。大将はすかさず女将の腰に手をまわしている。
「ま、まままさか二人とも転移して……
ん?!オーウェンさんが大将達を見て腰を抜かしてる…あ、這いずりながら泣いて抱きついたわ」
アイザックの父オーウェン。行方知れずになった兄との、まさかの再会であった。
「ふぅ、流石に少しだけ疲れたのだ。人間を転移させる事は本来禁止なのだが…今回の功労者たっての願いだから仕方ない。特例なのだ」
球体がフラフラ左右に揺れながら話す。
仁亜はそれをガッ!と勢いよく両手で挟んで、上下に揺らした。
「何やってるんですか天上神様ーー!!
私は『女将さんに伝えて欲しい』と言ったんですよ!!こっちの世界に連れて来いなんて、一言も言ってないのに!!!」
「わああああアチコチ揺らすでない!気持ちが悪くなるのだ!!!
それに、奴らは元々お前を探しにいく準備をしていたのだ!」
仁亜の手がピタッと止まる。
「私を…?なんで?だって旅館は…?」
「よく知らんがもう別のヤツに任せたらしいぞ。アーツが…お前が元いた世界の天上人がそう言ってたのだ」
「そうなんですか…私のために…」
とても申し訳ない気持ちになった。彼らはクリステル家にいる。早く会ってお礼を言いたい。だけど、その前に。
「……城へ戻らなきゃ。きっと皆心配してる。天上神様、もう一つお願いする事になっちゃいますけど…」
「城まで移動したいのだな。構わん構わん。だが、アイツがいる所でなくていいのか?今凄い勢いでこちらへ向かっているのだ」
アイツ、と聞いてすぐあの人の顔が浮かんだ。天上神は何でもお見通しだったのだ。あ、口調がうつっちゃった。
「そうですね、本当は今すぐ戻って報告しないといけないだろうけど…ワガママ言っていいですか?私、仁亜は彼に会いたいです!今すぐに!」
「わっはっは!よく言ったのだ!だから人間は面白いのだ!では送ってやろう。今回の件、本当にありがとうなのだ。
アマタがいなくなったこの世界は、わしが管理する事になるだろう。だがわしは厳しいぞ!
また三国が大掛かりな戦争を始めたら、面倒だからマルタナアイ大陸ごと消すのだ。指先一つでな。三国のそれぞれの王に伝えておくのだ!平和に暮らせよ!
よし、これで全て解決なのだ。ではニア、達者でな!」
「最後にサラッと怖い発言したーーー!!」
仁亜はツッコミながら、球体から発せられる光に飲み込まれその場から消えたのだった。
別名、ご都合主義なのだ




