始まりのラッキースケベ
周囲から「ぎゃあああ眩しい!!目がああああ」という声が聞こえる。某有名アニメ映画でもやっているのか。
右の手のひらがジンジンしている。そして自分の下で仰向けになったままの男の頬が、少し赤くなっている。
やってしまった、と仁亜は焦りつつもヘニャッと営業スマイルになる。勤め先の旅館で培った技だ。この藍色髪外人ニーチャンが怒る前に誤魔化すしかない。
「えっと…はじめましてって英語で何ていうんだっけ。…メ、メイアイヘルプユー?(訳:いらっしゃいませ)」
「?こちらの言葉はわかるか?」
「あっ普通にわかるわ私の緊張返して」
言葉が通じることにホッとしたのも束の間、男と同じ服を着た、複数人の軍人らしき集団に囲まれた。
彼らは仁亜に剣を向けている。
「球体から女が出てきたぞ!何者だ!」
「何故かは知らんが隊長にビンタしたぞ!」
「隊長が反撃できないなんて、何か怪しい術でも使ったのか?!」
「隊長、離れてください!私が斬ります!」
と、彼らは口々に言う。
隊長と呼ばれた男はそれでも動かず、静かに言った。
「すまない…何故か体が動かないのだ。いざとなったら俺ごと斬れ」
おそらく部下たちであろう彼らは動揺する。
「そんな!隊長を斬ることなんてできません!」
「おのれ女!どんな術を使った?!」
「女と隊長を斬ったら自分も後を追います!」
それを聞いた仁亜は叫ぶ。
「斬る前提で話を進めないで!私怪しくない!普通の人間!ヒューマン!!」
その時、背後から声がした。
「はいはい皆そこまで~。」
と言いながら、いつぞや見たチャラ男がやってきた。
「殿下、危険です!」と声がかかるも、
「ほら皆剣しまってよ〜物騒な。素手でビンタするくらいだから、彼女丸腰でしょ~?
球体から何が出てくるかと思ったけどやっぱ『渡り人』じゃん。おっ!よく見るとカワイイし。でも男に跨っているのはいただけないねぇ」
そうチャラ男に言われ、ハッとして仁亜はペコッとお辞儀し、気まずそうに跨っていた男から離れた。
改めて辺りを見渡すと、視界の先に玉座があり、いかにも王ですっていう感じの男性が座っている。その人物に話しかけられた。
「そなた、もしやニホンという国から来たのではないか?」
その言葉は混乱していた彼女にとって、救いの光となった。思わず矢継ぎ早に言ってしまう。
「そうです!ご存知ですか?!あの、私は気づいたらこの場所にいました!ここがどこかも、何故来たのかもわかりません!渡り人ってなんですか?!
日本からだいぶ離れた所だろうなとは感じてますし若干絶望してます!
でも怪しい者じゃないです!至って普通の民間人です!なのでもし国に帰る方法があったら教えてください!!」
「…ワシ最近早口が聞き取りづらくなってきてのぅ〜。そうじゃ、そろそろお茶の時間じゃろ。中庭に用意させるからそこでゆっくり話さぬか?」
「えっ?お茶?でも…」
と仁亜が戸惑っている間にチャラ男も「賛成でーす」と喜びながら近づいてきた。
「じゃあオレがエスコートしてあげるよ、かわいいお嬢さん?」と手を引かれ内心ゲッと思う。
「ギリアム、お主はこの後王太子妃と公務があるじゃろ?さっきから待っておるぞ?」
そう王に言われた男は、広間の隅にいた長身の女性を見て顔が青くなった。
「ヒルダ?!いつの間に…ちょ、待って行かないで!これは誤解!誤解だからーー!!」
と、踵を返し部屋を出る長身女性を追って走っていってしまった。よく見えなかったが、たぶんあれは奥さんだろう。やっぱりチャラいな、と仁亜は思った。
「やれやれ…遅く生まれたからと少し甘やかし過ぎたかのう。
ほれアイザック、いつまで呆けておる。さっさと彼女をエスコートせぬか。ワシも少し休んでから向かうわい。
皆も自分の持ち場に戻るんじゃ」
王の言葉に皆が一斉に従い、各々部屋を出て行く。アイザックも慌てて立ち上がり一礼して、仁亜と向かいあった。
「…先程は失礼しました。それでは中庭へと向かいましょう。ええと…」
「あ、私?仁亜と言います」
「…ではニア様、お手を」
スッと男が手を出す。仁亜は突然の紳士っぷりに顔を真っ赤にしながらも、彼の手に自分の手をのせた。
二人と、まだ若干不満顔の部下達が後に続き部屋を出ていくと、王がニヤニヤしながらつぶやいた。
「球体の発光で皆混乱して見てなかったじゃろうが……アイザック、あやつ真面目な顔してガッツリ彼女のを揉んでおったのう。
でも固まって動けなくなったのは女慣れしてない証拠じゃの。青い青い」
王には全てお見通しであった。