決着〜フライパンを添えて〜
―マルタナアイ大陸中央にある山の頂上で、アマタとアーバンはお互いに睨み合っていた。
しかし突然アーバンが頭を抱え、膝から崩れ落ちる。
「くそっ!タナノフも駄目だったか……ぐああああああっ!!!」
「それぞれの国で何か企んでいたようだけど…失敗したわね。
もうそれ以上力を使うのはやめなさい、アーバン。反動であなたの身体が悲鳴をあげているもの」
「う…うるさい!!貴様の指図など受けぬ!!」
アーバンは手から黒い霧を出しかけたが、すかさずアマタが近づき、霧を払い除けた。
「ぐっ!…その移動の速さは神器の力か。強い力を感じる…それさえ俺にあれば…」
「コレがあったら、どうしたの?」
手を伸ばし神器を掴もうとするアーバンを避け、アマタは…持っていた剣で心臓を一突きに刺した。
「ぐっ………かはっ…………」
「心の臓を突いたわ。これでもう貴方は天上人の力を使えない」
アーバンの体から大量の血が流れ、その場に倒れ伏した。アマタは服が汚れるのも構わず近づいて正座し、膝に彼の頭を乗せた。
「……何か言いたい事や誰かに伝えたい事はある?聞いてあげるわ。最期だもの」
「俺は………」
アーバンはアマタの目をじっと見ていたが、もう意識が朦朧としているのだろう。スッと自分の目を閉じて言った。
「何かから解放された気分だ…清々しい。俺は今まで、自分自身が生み出した闇に飲まれていたのだな…」
「え?」
「初めは平和な世界にした後に、お前と共に暮らせればいいと思っていたのに…。
お前に血をもらってからは…俺のモノにしたい、思うようにしたいと…邪心を持ってしまった」
「それじゃあ…私が血を与えなければ良かったと言うの?仕方ないじゃない。あの時は、誰かが戦争を止めなければいけなかったのだもの」
「そうだ、お前は悪くない。それに俺はあの時嬉しかったんだ。お前と同等の力を得る事が。これで好いた女と共に生きていけると。
……こうなったのは、俺の心の弱さだ。力でお前を従わせようとしてしまった、俺の…」
好いた女と言われ、アマタは混乱した。そのまま頭を左右に振りながら答える。
「そんな感情分からない…私は天上人だもの。好きならば、どうして私と戦ったの?どうして私の邪魔ばかりしたのよ!」
「いつの間にかお前を手に入れる事だけが頭に残って…。
味方する渡り人や王族も消そうとして…何も考えられなくなっていた…本当に…すまない…」
アーバンの荒かった呼吸が、段々静かになっていく。アマタは思わず彼の手を握った。
「ううっ…胸がとても苦しい…貴方が居なくなってしまうと思うと…どうしてなの…?」
「…俺の為に…泣いてくれるのか?」
「えっ…」
気づけばアマタは自身の目から大粒の涙を流し、アーバンの頬に落ちていた。
「な、何よこれは?何で?私は…」
「……お前は…綺麗な…目を…初めて…見た時…俺…は……」
それから、アーバンは一言も発する事は無かった。
アマタもしばらくの間無言で、涙だけは止まらないまま、動かなくなった彼をずっと抱きしめていたのだった。
・・・・・・・
―数刻後。
「…そろそろニアに、この身体を返さなければならないわね…戻れなくなってしまうもの」
アマタは立ち上がり目を閉じた。周りには光の粒が寄ってきて、やがて集まり大きく光った。
次に目を開いた時、目の色は茶色に変わっていた。髪も白ではなくなっている。
「……元に…戻っ…た…?」
発したのは、確かに仁亜の声だった。
「よかったあああああ!
アマタ様ってば『もしかしたら私の身体から出られないかも』なんて言うからさー。本当気が気じゃなかったよおおおお」
嬉しさのあまり自分で自分の体をペタペタ触った…その時。
「ん?!何よこの服の赤黒いシミは…血ぃぃぃ?!やだあああああ!何で?あ、さっきのアーバンの血かああああ!
気持ち悪っ!ちょ、アマタ様!何とかしてええ!」
そう仁亜が叫び、自分の肩を抱いてプルプル震えていると…服についていたシミが淡く光り、すーっと消えていった。
驚く彼女の目の前に、突然小さな光の球体が現れて中から男の声がした。
「よくやったな渡り人ニアよ!アーバンを倒したおかげで、各地にいた魔獣達も弱体化しているのだ!これで万事解決!一件落着なーのだー!」
「何このしゃべる球体?!!誰ですかアンタは?!」
「わっはっは!驚け驚け!
わしは天上神!アマタやセイバー達天上人の親であり神である!そして三種の神器の作り手なのだ!
すごいだろう!敬え敬え……」
「お前が全ての元凶かあああああ!!!!」
「わあああああ!!いきなり何なのだー?!!!」
仁亜は何故かまだ持っていたフライパンで、バーン!!と、思いっきり球体を殴ったのだった。




