表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/62

不敬罪確定



 ―数刻後。



「も、もういないかな?魔獣は…」



 仁亜は周囲をキョロキョロしていた。怪我人が出ているが、皆軽傷だ。


 ヒルダ様はあの後、数体魔獣を倒してくれた。それぞれ尋常じゃない速さだったのに、誰よりも先に向かって行き、的確に急所に三節棍を当てていた。そして投げ技でトドメを刺していた。強い。

 今はちゃんと倒せたか、死んだフリをしてないか確認している。

 もう魔獣がいないかアマタ様にも聞いてみようとしたのだが、反応がない。どうしたのだろう。

 ふと遠くを見ると、アイザックさんが戻ってくるのが確認できた。向こうも周囲の魔獣を倒したのだろう。ホッとして、手を振り呼びかけようとした。



「アイザックさーん!こっちで…す……」



 仁亜の語尾が小さくなっていく。

 自分の首筋に何か当てられた。ヒヤッとして冷たい。これは…………剣だ。



「…殿下?え?なんで、どうして……」



「………………」



 さっきまで「ヒルダ〜強くてカッコいいよ〜ヒルダ〜」なんて、クネクネしながらラブコールを送っていた殿下が、無言で私の首筋に剣を当てている。

 いつの間にか腰にも左手が回され、ガッチリホールドされていた。


「えっ、ちょ、ちょっと殿下…ハハッ…そんな笑えない冗談は…痛っ!」


 顔を見ようとして首を捻ると、殿下と目が合った。

 目が赤い。魔獣と同じだ…と思うと同時に、首筋に当てられていた剣が掠った。ピリッとした痛みと共に何かがツーっと垂れた。自分の血だ。それを見て軽くパニックになった。

 

「い、嫌だ…痛い…なんで…殿下全然戦ってないのに…なのに…こんな切れ味の良い剣持ってんの…?」


 そして見当違いのツッコミをした。


 遠くからその異変に気づいたアイザックが、急いで駆け寄ってくる。ヒルダも同じだ。そこでようやく、殿下が口を開いた。



「『メガミノタテ』ハ…ドコダ」


「え…?女神の盾?」


「イワナケレバ…コロス…」



 声姿は殿下だけど、違う。コイツは誰だ?首筋が痛い。仁亜は涙目になった。


「そ、そんなの知らない…」


「ウソヲツクナ…アマタニ…キイテルダロ…ワタリビトヨ…」



 ちょっと待て。本当に知らない。聞いてない!

 っていうか、「アマタ」って…さてはコイツ、アーバンか?!殿下の身体を乗っ取ったのか?!



「あ、あんたアーバンね?!確か、女神の盾ってのはあんたを倒した時の武器でしょ?

 剣と盾と羽衣と…。場所までは知らない!」



「ウソダ!…ソンナニシニタイカ!」



 死にたくないから本当の事言ってるのにいいいいいい!!!!何で信じてくれないの?!!

 本当痛いよう…誰か助けて…と思った所で、ようやくアイザックさんとヒルダ様が来てくれた。



「ニア?!殿下?!これは一体…」


「ギリアム、目の色違ウ。何かおかシイ」


 

 周囲の兵士達も、殿下が私に剣を当てていることに困惑している。私は痛みに耐えながらも叫んだ。



「でっ、殿下は…悪いヤツに操られています!魔獣を生み出している元凶で…」


「ダマレ!」


「ううっ!」


 さらに剣が食い込んでくる気がした。本当シャレになんない、本当痛くて熱い。汗が止まらない。

 

「ニア!!!」


 アイザックさんが剣を構えてこっちに来る…と思ったら、ヒルダ様に羽交い締めにされた。


「アイザック…貴方の目線とその構えハ…ギリアムの右手、切ろうとしたワネ…それは私許さナイ…」


「くっ…し、しかし妃殿下…このままではニアが…」


 え、アイザックさん殿下の右手切ろうとしたの?マジで?不敬罪で済まされないよ?多分死刑だよ?

 どうしたの?私以上に動揺してるの?



「オレヲキルナラ…コノオンナ…コロス」


「お前が誰かは知らんが、ならばその前に貴様を斬るだけだ!!」



 はい不敬罪ーーー!!もうやめてえええええアイザックさん!!貴様を斬るとか言っちゃってるけど外見はまだ殿下だから!!

 兵士達が色んな意味でビクビクしてるから!!ヒルダ様が止めてくれてるのに振り切ろうとしてるしヤバい!!



 お願い!!誰か何とかしてええ!!



(今が頃合いね……)



 その時。女性の声と共に、頭に何かのしかかるような重い感覚がして仁亜は意識を失った。






・・・・・・・







 アイザックがヒルダの制止を振り切り、ギリアムに斬りかかろうとした瞬間。

 人質にされていた仁亜の全身が光に包まれ、発光した。アイザックはあまりの眩しさに、思わず目を閉じる。



「な、なんだこの光はっ?!」



 驚く彼と同じくして、目の前にいた男も叫んだ。



「クソッ!…アマタ…フッカツシタカ…

 …グアアアアアッ!!!」




 

 ―やがて光が収まり、皆が目を開ける。

 発光した場所を見ると…そこには地面に伏して倒れているギリアムと…




 ―仁亜らしき女性が佇んでいた。

 



 しかし、その髪は真っ白に染まっていた。それなのに艶めき、輝いている。ただの白髪ではない。

 それだけではなかった。彼女の目の色が変わっている。茶色だったはずなのに、今は赤や青、緑といった色が混ざり…なんと、虹色になっていたのだ。

 とても神秘的なその姿に、皆が黙ってしまった。一人を除いて。



「ニアではないな。貴様…何者だ」



 アイザックの問いかけに、彼女は無表情で答えた。



『私は天上人アマタ。この世界を創りし者よ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ