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言質という名のフラグ


 近衛隊士達への業務連絡と出立の準備をするアイザックと別れ、客間に戻った仁亜はシータに準備を手伝ってもらっていた。ついでに動きやすい服装に着替える。


「出立って言ってもすぐそこの広場なんですけどね。シータさんは城に残るのですか?」


「ええ。ヒルダ様の側にいても足手まといになってしまいますし…。クルセイド様達のお側におりますわ」


「良かった!クルセイド様達、ご両親と離れ離れになるから心配してたんです。シータさんがいるなら安心ですね」


「ニア様も、お気をつけて。ご無事をお祈りしていますわ」



 そしてお互いにハグをして、シータさんと別れた。



 客間を出て、アイザックと合流するために回廊を歩いていると、剣の稽古を終えたクルセイドと出くわした。


「ニア様、城を出られるのですね。…ボクがもっと強ければ、一緒に魔獣と戦えるのに」


「クルセイド様はコーデリア様達の側にいて、守ってあげて下さい。それも立派な戦いですよ」


「ニア様はアイザックに守ってもらうのですよね。さっきお姫様抱っこされているのを見ちゃいました」


「う、そ、それはその…」


 見られていたのか。そりゃそうだ、城の正門から堂々と入ろうとすれば。


「いいなあ。ボクも早く大人になって…ドキドキする人を見つけて守ってあげたいな」


「えっ?…ふふっ。この前の話、覚えていてくれたんですね。きっとすぐに見つかりますよ」


「できれば渡り人様がいいんだけど…でもニア様はアイザックがいるからなぁ。

 あ、そうだ!もしニア様に女の子が生まれたらボクのお嫁さんにしていいですか?」


「んなっ?!」


「ニア様の子供なら絶対可愛いだろうし、絶対ドキドキするし絶対守ってあげますから。

 ダメですか?」


 お、おう…いきなり閃いちゃった!って顔してすごい事を言い始めたぞこの子は。そしてパッチリのおめめで上目遣い。仁亜は陥落した。


「うっ…ま、まあ…良いですよ…もし女の子なら…まだ私結婚すらしてないけど…」


「やったー!約束ですよ?

 それじゃあニア様、お気をつけて」


 言質を取った途端、クルセイド様は手をブンブン振って走り去って行った。

 子供の冗談と軽く見ていたのだが…もしや早速ヒルダ様に報告しようとしているんじゃなかろうか。ちょっと後悔する仁亜だった。






・・・・・・・






 アイザックと合流し、広場へ着く頃にはすっかり夜になっていた。

 魔獣はいつ襲って来るかわからない。簡易的だが、広場に陣を取った。今日は夜営だ。

 テントを張り中で休息する。もちろんアイザックも一緒だ。


「私は交代で見張りをしなければならない。ニアは先に休んでいてくれ。明日も力を使うだろうからな」


「すみません、じゃあお言葉に甘えて…。夜に魔獣が出ないといいですね」


「ああ、まったくだ。向こうは夜目がきくからな。圧倒的に不利だ」


「アマタ様の感覚だと、今のところ何もいないみたいです。王様達が向かっている国境付近も大丈夫だって」


 仁亜からアマタの名前が出た途端、アイザックの顔が曇った。


「悪いが俺はその天上人とやらを完全に信用してはいない。ニアを利用して、自分の都合の良いように動いているだけのような気がしてな」


「気がして、というより完全に利用されてますね私。でもいいんです。少しでもアイシス国の人の役に立てれば…」


「ニア…」


「あ、そうだ。アイザックさん。

 この戦いが終わったら、二人でお酒飲みましょうよ。この前客間で飲んだお酒の残りが、まだあるんです。やっぱり一人酒は寂しかったから」


「ああ、構わない。…ニアは戦いが終わったら…どうするつもりだ?まだニホンに帰りたいと思っているのか?」


 まだ何も言ってないのに、少ししょげながら聞いてくるアイザックさん。私の心は、決まっている。


「いいえ。本当の両親にも会えたし…女将さん達には悪いけど、やっぱり此処にいようと思います。こっちだって、働き口はたくさんありそうだし」


「フッ。さっそく職の事を考えるとは…働き者のニアらしいな。だがシェパード侯爵家の第一子となった今は、まず家と広大な領地の事を学ばないといけないのでは?」


 帰らないと聞いた途端に嬉しそうな表情になるアイザックさん。思わずこちらも笑顔になった。


「そっかぁ。うーん、頑張りはしますけど…勉強は苦手だなぁ。でもウチは頭脳明晰なセイバーくんがいるから、家は安泰ですよ!」


「そうか。で、では…もう一つの家の事を…学んで見る気はないか…?」


「え?もう一つの家?」


「こっちは伯爵家だから…侯爵家ほど領地はないが…その分覚えることは少なくてすむだろう。どうも俺が管理する事になりそうでな…誰か側で手伝ってくれればありがたい、というか…」


「??何の話です??」


 歯切れが悪いし、いつの間にかアイザックさんの顔が少し赤くなっていた。珍しい。何だろう?


「よく分からないんですけど、アイザックさん何か困ってるんですか?それならお手伝いしますけど」

 

「そ、そうか!!」


 これまた珍しく、アイザックさんが今までにない笑顔を見せた。背後に虹が見える。

 と、そこへ兵士の声が外から聞こえた。


「すみません隊長!今よろしいですか?」


「ああ、もう交代の時間か。大丈夫だ。

 …それじゃあニア、おやすみ」


「はい、おやすみなさい…」


 兵士に呼び出され、彼はテントを出ていった。


 そう言ってはみたものの、こんな状況と場所と緊張感の高まりで、眠れるはずがない。


 ………と思ったが、やはり仁亜は秒で寝たのだった。

 

ようやくタイトルを回収できました

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