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ハッハー!!


 夕食を終えた仁亜は小春に案内され、ある部屋に通された。


「こ、この部屋は…」


 見渡す限り、ピンク一択に染められた部屋だった。桜色のカーテン、桃色の各種寝具カバー、マゼンタの絨毯…一生分の春を味わえる部屋だ。なおベッド上には、サーモンピンク色のウサギのぬいぐるみがあった。


「うふふ。びっくりしたかしら?

 『あの子が帰ってきた時のために』って用意していた部屋なの。ようやく迎えられて、本当に嬉しいわ」


 また涙ぐんでいる母の手前、ちょっと趣味ではない…とは口が裂けても言えなかった。ピンク好きなんだね。

 部屋のドアの隙間からは父がチラ見しているのが見えるし。なぜこのピンク祭りを止めなかった、オッサン。


「こっちにはね、お洋服とかアクセサリーが収納されているの」


 そう言って開けられたクローゼットには、大量のデイドレスが…これまたピンク一色の。


「これは10歳の誕生日プレゼントでしょ、こっちは15歳ので…これは18歳の。この服だったら、まだ着られるんじゃないかしら?」


 毎年プレゼントを用意していたんだ。

 そして母がピラッと見せてきたのは…アザレアピンクのパフスリーブドレスだった。これを着た自分を想像してみる…某写真漫談家夫婦の奥さんにしか見えない。


「こっ、このお洋服達は、今度生まれてくる子に着せたらいいんじゃないかな!」


「え?でもまだ女の子と決まったわけじゃないわ?」


「ううん。多分、女の子な気がする。だから私は着ないでおくから、新品のままとっておいて。いつかその子に着させてあげてよ」


「そ、そう?仁亜がそう言うなら…そのままにしておくわね」


 私は願った。健康であればそれ以上は望まないけれど、けれど!

 できれば…女の子が生まれて欲しい、と。

 桜色のカーテン越しに夜空へ思いを馳せていると、突然視界が真っ白になった。


「じゃあせめてコレだけは…20歳の誕生日プレゼントよ」


 またピンク?!と警戒した仁亜だったが、予想は外れた。彼女が仁亜の目の前で見せたのは、純白のワンピースだった。


「成人したらね、さすがにピンクばっかりじゃいけないから…他所行きにも使えるお洋服にしたの。良かった、サイズも大丈夫そうね」


 あ、このワンピースは好きかも。


「ありがとう、おかあさん。早速明日着るよ」


「そうね、また明日に…あっ、そうそう。今夜はこれを着て寝てね」


 そう言って渡されたネグリジェの色は、ベビーピンクだった…。



 一人で寝られる?一緒に寝る?と聞いてくる母を、なんとか父に託した。

 妊婦さんだからもっと広いベッドで寝てもらいたいし、何より父の視線が痛かったからだ。娘に嫉妬するな、独占欲強すぎるだろ。


 入浴を済ませてベッドに入ると、早速眠気が襲ってくる。今日も疲れたな。


「アイザックさん、今頃何してるかな…」


 思わず近くにあったウサギのぬいぐるみを抱きしめながら、眠りについた。






・・・・・・・






 翌朝。





「……仁亜、もう朝よ。そろそろ起きられるかしら?」


「おねえちゃーん、まだ眠るのー?」


 小春がセイバーを連れて、仁亜を起こしに来た。しかし、仁亜はまだ夢の中だった。


「う〜ん……まだ眠いよぅ……アイザックさぁん……」


「え?アイザックって…まさか…あの()()()()()()()()の事を言っているのかしら?」


「おかあさま、その人よく護衛で我が家に来てくれる近衛隊長さんだよね?」


「ええ、そうよ」


 しかし、実は小春はもっと前から彼とは知り合いだった。この国に転移した際、当時幼かった彼が初代渡り人様について、知っている事がないか聞きに来たからだ。

 あいにく自分はその人と面識がなかったので何も答えられず、彼はひどく悲しんでいた事を思いだした。

 彼は現在近衛隊に所属しているので、国の重要人物の護衛も勤めていると聞いた。もしかしたら、渡り人である仁亜の護衛もしているのかもしれない。そう考えている内に、ようやく仁亜が目を覚ました。


「んー…ふわぁ…あ、おかあさん。おはよう〜。セイバーも、おはよ」


「おはよう、おねえちゃん」


「うふふ、まだ眠たそうね。でも朝ごはんができたから、皆で食べに行きましょう?」


「ご飯?!食べる!」


 ご飯という単語に、即座に反応して起きる仁亜だった。




 朝食後、身支度を整えて城からの迎えの馬車を待つ。服は昨日もらった純白ワンピだ。


「せっかく会えたのに、またお別れだなんて…」


「もう少しの辛抱だ。ニアが正式に我々の子だと認められれば、ずっと一緒に暮らせるさ」


 悲しむ母を父が慰めていた。父も仕事で城へ向かうので、馬車に同乗する予定だ。


「しかしニアが侯爵家の娘と分かれば、縁談が山のように来るだろうな。まぁ、人柄に問題のないヤツを選ぶとするか」


 あ、このオッサン早々に私を嫁がせる気満々だ。そんなに母を独占したいのか。

 というか、そんな前フリしておいてもし縁談が一件も来なかったらどうしてくれる。恥ずかしいじゃないか。


「そんな!まだしばらくは一緒にいたいわ…あ、でも仁亜がもし気になっている人がいるなら…別だけれど?」


 困惑した表情の母だったが、途中で何かを思い出したようで、含み笑いを浮かべた。なんだろう?


「気になっている人なんて…」


 そう言いかけた時、馬車がやってきた。

 降りてきたのは…


「おはようございます。シェパード家の皆様。お迎えにあがりました」


「え?!アイザックさんだ!おはようございます!」


 すっかり見慣れた、無表情のアイザックが現れ仁亜は驚いた。しかし、目が合うと彼は少しだけ表情を崩した。思わず仁亜も満面の笑みになる。


 その瞬間を小春は見逃さず、「まあ…うふふ」と微笑んでいたのだった。

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