私に似て・・・はいなかった
食堂へ行くと、既にシュルタイスが着席していた。慌てて隣に座ろうとすると、セイバーが服の袖を引っ張った。
「おねえちゃんはおかあさまの隣ね。おとうさまの隣はボクが座るよ」
勝手に席順を決められてしまった。まあいっか、と言われた通りに着席し、食事を始めた。
「どう?美味しい?仁亜?」
「はい!とっても美味しいです。小春さん…」
そう返事をしかけた所でギョッとする。私を凝視している小春さんの目が、今にも泣きそうなほど超ウルウルしている。え、私何か変な事言った?!
不意に殺気を感じ、斜め向かいを見ると、オッサンが氷の宰相(笑)の顔をしてにらんでいる。何故?!
すがる思いで真正面に座るセイバーを見ると、無音でパクパクと口を5回動かした。なになに…あ、そうか。
「うん。美味しいよ。…おかあさん…」
「!……うふふ、よかったわ」
満足してもらえたみたい。しかしながら、ちょっと…いやだいぶ照れくさかった。
・・・・・・・
皆で食べるご飯は本当に美味しい。あっと言う間に完食した。すると、小春さんがニコニコしながらこちらを向いた。
「そろそろ、食後のデザートを持ってきていいかしら?仁亜が喜んでくれるといいのだけど」
「甘い物は大好きだから何でも大丈夫!」
「うふふ、じゃあ用意してくるわね」
敬語もすっかりなくなって、親子らしい会話になっている…といいな。そう思っていると、セイバーがそっと席を立った。
「ごめんなさい、おかあさま。ボク今日はたくさん遊んで疲れちゃった。先にお休みなさいします」
「あらそう?ちょっと待って。部屋まで一緒に行くわ」
「ボクは一人で大丈夫だから。おかあさまはおねえちゃんといっぱいお話ししてね」
そう言って、スタスタと歩いて食堂を出て行った。
「あの子ったら気を遣って…また寝る前に様子を見るわね。じゃあ、シュウ。仁亜と待っていてね」
小春さんは嬉しそうに厨房へ向かっていった。シュウ、ってシュルタイスの略称か。ここには私とオッサンの二人だけしかいないし。
席に座ったまま待つが、シーンとしていて気まずい。何か話してみよう。
「あの、宰相様…」
「…宰相様だと?ここまできてそれはないだろう」
「じゃあ…お…おと…………おっさん…」
「…ふざけているのか?」
「だ、だってだって…今まであんなにアホ毛を引っ張られてきたんだもん。嫌われてると思うじゃん…」
「…先程のは誤解だと分かって謝っただろう。いつまでもネチネチと…」
「(謝られてない気がする…)じゃあ、私の事……嫌いじゃない?」
シュルタイスはいつもと違って元気のない仁亜を見て、流石に怯んだ。
「そ、そんな顔をするんじゃない…本当に嫌いなら、仕事を後回しにして実子許可申請書など作るか」
「何それ?」
「お前をシェパード家第一子として認めてもらうための申請書だ。
国から許可が降りれば、正式に我が家に来て一緒に暮らしてもらう。
嫌とは言わせん。コハルが泣くからな。引きずってでも城からここへ連れてくるから、覚悟しておけ」
「…最後の一言がなかったらカッコよかったのに」
さっきまで自室にこもって作っていたのは、その書類か。そう思うと、文句を言いつつも心が暖かくなっていく。
「…ありがとう……おとうさん………」
気づけば目から涙があふれ出ていた。オッサン…おとうさんは無言でそっと席を立ち、私の左隣に来て頭を撫でてくれていた。
そこへ、トレーを持ったおかあさんが戻ってきた。
「まあ…」
おかあさんは全てを察したようで、トレーを置き、私の右隣に座った。
「仁亜…おいで?」
両手を広げた母に、迷わず抱きついて。
たぶん、今まで生きてきた中で一番泣いた。わんわんと。
「今まで本当によく頑張ったわね…一人にさせてごめんね、ごめんなさいね、仁亜…」
「うん。…ねぇおかあさん、なんかあったかい…幸せな気持ちになる…」
「え…?あら、私…癒しの力が戻っているのかしら…?あの事件以来、さっぱり使えなくなってしまったのに…。
そう、これも…あなたの奇跡の力なのね。仁亜…」
しばらくの間、二人ともただ泣き続けていた。
その間、シュルタイスは考えていた。
(あれほど能天気そうだったのに…あれは表向きの顔で、内心は常に不安だったのだな。
フッ。意外と神経が繊細な子だ、私に良く似ている…)
そう表情を和らげながら見ていると、ふいに小春が告げた。
「…うふふ、二人して泣いちゃったわね。デザートに羊羹を作ったのだけど…明日食べようかしらね」
「ぐすっ……ううん、今食べる………」
「あらそう?いっぱい作ったから遠慮しないで食べてね」
「ぐすっ……じゃあ二切れ食べたい……」
「うふふ。ありがとう。今取り分けるわね」
……………やっぱりコイツ神経が図太いな、と心の中で訂正するシュルタイスだった。
なお、結局仁亜はおかわりをして合計四切れ食べた。




