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ポーカーフェイスとファニーフェイス


 俺は何故この場に突っ立っていたのだろうか。

 確か先程までニアと口論になって…彼女の服の裾がめくれて…

 いや、コーデリア様の投げたボールが飛んできて…婦人用の長靴下を履いていて…

 いや、ソルトがまた胃を痛くして…太ももの部分がレース生地で…

 いや、クルセイド様がニアに求婚して…レースの上は素肌の部分がのぞいていて…

 いや、俺は不敬にも止めようとして…その上はよく見えなかった…ち、違う!!


 もしかしたら一時的なショックで忘れていただけで、見ていたのかもしれない…そうだ、薄桃色の…


「いや〜突然の風にびっくりしましたねぇ、アイザックさん」


「ああ、そうだな(キリッ)」


 彼は仁亜に話しかけられ、平然と答えたのだった。





・・・・・・・





 魔法を暴走させたコーデリア様だったが、力を使い過ぎたのか、ウトウトしたと思ったらそのままソルトに抱きついて眠ってしまった。

 彼は「これでは叱れませんね」と苦笑しながら抱き上げ、背中をポンポンと軽く叩いている。

 仁亜は先程から一つ気になっていた事がある。彼はずいぶん子供の扱いがうまいのだ。


「ソルトさんって下にご兄弟でもいるのですか?あやすのが上手ですね」


「ええ、下に5人います。私は長男で、一番下の子はコーデリア様と同い年なんです」


 なるほど、理解した。それにしても6人兄弟なのか。彼のようなしっかりした人がお兄ちゃんだと、お母さんも安心だろう。胃は弱いけど。


 それからコーデリア様とソルトさん、ヒルダ様、クルセイド様、シータさん達は城の中へと戻っていった。

 いつの間にかポツン、と残った仁亜とアイザック。


「…とりあえず、私達も客間に戻ろうか、ニア」


「そうですね…あの、アイザックさん。さっき日本に帰らないで欲しいって言ってくれて、ありがとうございました。

 例え帰れずに残る事になっても、自分の居場所があるみたいで嬉しかったです」


「そ、そうか…」


「…ううん、実はちょっとだけ揺らいでいるんです。このまま帰れなくてもいいかなって…

 なんだか私、あなたの事が『ここに居たかアホ毛女!!!!』」





 …なんだろう、このデジャヴ。以前晩餐会に行く途中であったような。



 後ろから聞こえてきた声に、仁亜が勢いよく振り返ると宰相シュルタイスがいた。



「な に か ご 用 で す か ?」


「散々探させおって…って、何だその目つきは。何を怒っている。ん?その怒った顔は…誰かに似ているような…まあどうでもいいか。

 妻がお前と話したいと言っておるのだ、急だが明日にでもシェパード家に行って、会ってきてくれ」


「本当急ですね?!」


「仕方ないだろう、()()()()()()()国に魔獣が来ると言って大騒ぎなんだ。

 戦いが始まったら、話す機会がまた遠のくだろう。今のうちに会っておいてくれ」


「ぐっ…それを言われると痛い!まあ特に予定もないし、いいですよ。

 あ、奥様は日本人ですよね?うわーい!久しぶりに日本の話ができるのは嬉しいなあ」


「くそっ、明日は外せない会議があるから終わるまでは自宅に戻れん…こんなヘラヘラした珍妙な生き物を妻に会わせて、本当に大丈夫なのだろうか…」

 

「ちょ、私を招待したいの?!したくないの?!」


 怒ったり笑ったり突っ込んだりで忙しい仁亜だった。



 宰相様は嵐のようにやってきたと思ったら、言いたい事だけ言って帰っていった。奥様に会いに自宅へ向かうのだろう。

 またもや残った仁亜とアイザック。


「明日の会議は俺も参加する。残念だか道中の護衛はできないな」


「宰相様の自宅ってここから近いんですよね?大丈夫ですよ。二代目渡り人様かあ。アイザックさんは会った事はありますか?」


「ああ。何度か。小さくていつまでもお若く見える、まるで少女のようなお方だ」


「へえ〜若く見えるなんてうらやましい!」


「…いつまでも過去から抜け出せない、と言ったほうがいいのだろうか…」


「え?何か言いました?」


「いや、何も。それより…その、ニア。さっきの話だが…うん、また夜にでも話そう」


「あっ…そっか。まだ途中でしたね。はい…また夜に…」


 二人共照れ隠しに、うつむきながら歩いた。それでも、どちらからともなく手を握りあっていた。



 そして二人はその夜ついに……………


 という事はなく、特に何もなかった。



 なぜかというと、馬車での移動と天上人様との交信から始まり、王様への報告とヒルダ様をはじめ御子息達の相手をした、仁亜の体力は限界だったのだ。

 食事と入浴を済ませた後、ベッド上でうつ伏せになりながら、アイザックにどう自分の気持ちを伝えようか考えているうちに、寝落ちしたのである。


 そんな仁亜を抱き上げてベッドに寝かせ直し、こっそり額にキスをした人物がいたのだが、熟睡している彼女には知る由もなかった。

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