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壁をバンバン、BANされる



「大将〜そんな所に刃物入れたら相手は即死だよ〜。…はっ!夢か」



 どのくらい眠っていたのだろうか、あわてて仁亜は起き上がる。

 ちなみに今見ていた夢は、勤め先の旅館の大将に痴漢撃退法について聞いていたものである。

 マグロを痴漢に見立てて「襲われそうになったらな、ここをこうしてこうだ」と笑顔で包丁を使い、的確に捌いていくさまを見てツッコミをせずにはいられなかった。どんな夢だ。


「体はだるいけど、何とか動ける!よし、誰か探しに行こぅぶへっ!!」


 立ち上がり歩こうとした途端、顔が見えない何かにぶつかる。思わずペタペタと手で触る。


「何これガラス?硬っ。ってか、ココどこ?」


 目の前にはいかにもどこかの王様が座りそうな豪華な玉座。視界の端にはこれまたいい素材が使われてそうな柱。重厚そうなカーテン。下を見ると大理石っぽい床の上に綺麗な絨毯…


「って下!ぎゃっ!何これ私浮いてるの?!」


 思わずしゃがみ込む。それでも体は落ちず、下の絨毯とは距離がある。足元を軽く叩くとコンコンと音がする。

 何かに乗ったまま浮いているんだ、と感じた。透けているからどこまで足場があるかもわからない。混乱が止まらない。


「映画とかのセットじゃないよね…これってまさか…」



 その時、カーテンの奥から誰か歩いてきた。人数は三人。思わず助けを求めようとした仁亜だが、全員の風貌に驚く。


「みんな髪が黒じゃない、うわぁ外国人だ!いやそれよりまず助けてもらわなきゃ。あのー!すみませーん!…ってあれ、声が届いてない?嘘でしょ?!」


 三人がこちらに近づいてくるが、叫んでも無視されているし、目線が合わない。目の前の見えない壁をバンバン叩くが反応がない。

 私の存在に気づいていない、と感じ仁亜は絶望した。


 一人は煌びやかな衣装をきて、いかにも偉そうな銀髪の男。ニヤニヤしながら隣の男に話しかけている。お高そうな服なのに着崩しているし、チャラそう。

 口がパクパク動いているが声が聞こえないので、やはり向こうからも私の声が聞こえていないのだろう、と仁亜は思った。


 話しかけられている二人目の人物は、同じく銀髪だが肩まである髪の長さと、整った顔立ちで一瞬女性と勘違いした。

 しかし長身で無表情、若干眉間にシワを寄せながら答えている様子をみるとたぶん男だろう。


 その二人の、半歩後ろにいる三人目の男は藍色の髪で軍服のようなものを着ている。腰の近くにあるのは…おそらく剣だ。

 軍人さんかなと仁亜が思った時、無表情のままこちらをじっと見た。目が合った気がしてドキッとしたが、その後なぜか悲しそうな顔をして目を逸らした。


 三人はしばらく何か話していたが、仁亜がその間助けを求めても反応せず、そのまま去って行った。思わず涙目になりながらも、一つだけわかった事があった。


「たぶん異世界転移したわ…。この状況といいあの人達の服装といい…間違いない…」



 誰もツッコむ人がいないので現実逃避が止まらない。視界も黒いモヤモヤがかかってきた気がする。

 思わず手で払った時、手の先から光が溢れ仁亜はまた気を失った。





・・・・・・・





 ちなみに、三人はこんな会話をしていた。



「あれから一週間たったけど何も変化がないなぁ。やっぱり『渡り人』じゃなかったのか〜。

 黒髪で童顔、小柄だけど出るところは出ててちょっと気弱で儚げな女の子よ来い!って思ってたんだけどなー」


「それはまるで我が妻のようですね殿下、ちょっと話があるので表へ出ろ」


「(宰相様、怒りで敬語が飛んでいる…)得体の知れないものゆえ、いきなり我が国の貴重な魔法師に触れさせる訳にはいかなかったので、まず罪人に様子を調べさせました」


「やだアイザック、真面目な顔してなかなかの非道!」


「…王の指示ですよ殿下。その代わり、本来終身刑となる所を恩赦で減刑する取引となっております」


「ちなみにどんな罪を犯したの?」


「主に不貞行為ですね。既婚の男性ばかりを狙い、幸せそうな夫婦を不幸の底に落としては楽しんでいたと供述していました。

 被害にあった夫婦を調べた結果20件は発覚しております」


「怖っ!てか罪人は女かよ!んーでも人を殺してる訳でもないし、終身刑はちょっと厳しすぎない?」


「女が口止め料として男達から金品を奪っていた事も分かりましたし、何より重刑にしてくれと一般市民の女性方から山のような署名が届いたので」


「女の敵は女、って感じか。そんなにイイ女だったの?」


「女の名はトルノネ=スキッキ、巷では話題の新人歌劇女優だったそうです」


「いかにもな名前!」


 ギリアムがツッコミした所で、ようやく宰相シュルタイスが口を開いた。


「フン、黙って聞いていれば…頭のおかしい女だな。貞淑な我が妻とはえらく違う」


「(シュルタイス、お前のところは溺愛して閉じ込めてるから貞淑も何も…)話が逸れたな、それでその罪人が球体を調べたらどうなった?」


「球体は発光していますが、触っても特に異常はなかったそうです。硬いらしく、女の力ではありましたが強く叩いても何も反応がないと。

 ただその後、女に異変が起こりました」


「何だ?」


「突然その場にくずれ号泣し、『私は何という大罪を犯してしまったのだろう、被害に遭った人達に申し訳ない、これから一生かけて償いたい』と頭を地面に擦り続けていたそうです。

 取調べ中は私は何も悪くない、引っかかった男が悪いとの一点張りで反省の態度も見られなかったようなので…周囲も驚いていたと」


「それ球体関係ないでしょ?…いや、あるのか…?先日の胃痛改善や秘伝スープやらの件といい、やはりその球体には何か不思議な力があるのかもしれないな」


「ちなみに侍女長夫婦も女の被害者だったらしく、泣き崩れた女を侍女長が介抱するフリをして首を絞めようとした為騒ぎになりました」


「そんなオチ!」



 ちなみにトルノネは、その後恩赦により名を変え、隣国の修道院送りとなる。心を入れ替え、持ち前の美声で訪問先の人々を癒したという。

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