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意識するラッキースケベ


 眠れなくても、朝は来る。


 昨日アイザックさんを押し出しちゃったから怒ってるかな、と心配したけど杞憂に終わった。普通に挨拶したし朝ごはんも一緒に食べた。


 今日はクリステル家を出て城に帰る予定だ。色々あったけど、まあ楽しかったな。

 帰り際、オーウェンさんに「…また来るといい」と言われた。アイザックさんも「は、はい父上…」と、ちょっと照れながら答えていた。

 少しは2人の距離が縮まっているといいな。


 馬車に乗ったら、アイザックさんも乗ってきて私の正面に座った。


「あれ?馬には乗らないのですか?」


「またニアに何か起きたら心配だから。一緒にいる」


「うっ。は、はい。お願いします…」



 そう言われると断れないじゃないか。

 どうしよう。昨日の夜から変に意識してしまっている。落ち着け、平常心平常心……



「ところでニア。昨日の写真、また見せてくれないか?」


「うわあああああんアイザックさんの美魔女好きいいいい!!!!」


 

 何度も見てどんだけ好きなんだよ!と言わんばかりに、半泣きで写真を叩きつけるように渡した。さようなら平常心。



「ビマ……?なんだそれは?それより、この真ん中に写っているニアを模写してもいいか?」


「うえっ?私ですか?構いませんけど…。女将さんじゃなくて?」


「彼女は以前描いたからな。今度はニアがいい。まだ一度も描いてないからな」


「そ、そうですか…ど、どうぞご自由に…」


 仁亜は騒ぎ出したと思えば急にしおらしくなり、なんとも言えない顔をした。

 そんな彼女の様子に気づかないまま、鉛筆で模写を始めるアイザック。


「馬車に揺られながら描くの、難しくないですか?」


「いや、コツを掴めば意外とできるぞ。長距離を移動する際よく描いているからな。

 それより、この服装は複雑だな…うむ…」


 仁亜が写真の中で着ている制服の事だろう。首を傾げながら描き進めている。


 伏し目がちな表情にドキッとする。そうだった、この人イケメンだったんだ。ずっと一緒にいたのになぜ忘れてたのだろう。

 急に恥ずかしくなって窓へ視線を向けた。今日はアイザックさんがいて安全だから、カーテンも開けている。


 のどかな風景が続き、睡眠不足もあって仁亜はいつの間にか居眠りをしていた。






・・・・・・・






 ―こんな所だろう、とアイザックは描く手を止めた。写真の模写と、実はもう一枚下書きをしたものがある。それは今、目の前で壁にもたれて眠っているニアの姿だった。


 何故描いたのか。それは彼女が寝ている時、いつも幸せそうな顔をしているからだ。きっとニホンで生活していた頃の夢を見ているのだろう。

 少し無防備過ぎるのが気にはなるが。


 実は写真での彼女の笑顔に衝撃を受けていた。本当はああいう顔で笑うのかと。

 こちらの世界に来て常にニコニコしているが、アレは愛想笑いなのかもしれない。

 自分と一緒にいる時もそうなのだろうかと思うと、何故か胸が苦しくなった。


 

 …いつか彼女の心からの笑顔を見てみたい、と思うアイザックだった。



 ふと窓の外を眺める。もうすぐ今日泊まる予定の町に着くが、ニアはずいぶんと長い間目を閉じたままだ。

 まさか、また何かあったのではと思い慌てて彼女の胸にそっと耳をあててみる。大丈夫だ。心臓の鼓動を感じるし、くうくうと寝息を立てている。

 ホッとして顔を上げた瞬間。馬車がガタン!と揺れ、バランスを崩して前へ…


 


 ―思いっきり、彼女の胸に顔をうずめた。




・・・・・・・

 




 はっ。また寝てしまった。

 パチッと目を開けるとアイザックさんがいない。あれ?どこへ…と思ったら、いつの間にか彼は隣に移動していて、私は彼の肩にもたれかかっていた。



「やだ、いつの間にか居眠りしてました。すみません、肩お借りしちゃって」


「いや、大丈夫だ…」

 

 そう返事をする彼は、うつむいて眉間を押さえていた。本当に大丈夫なの?


「ど、どうしたんですか?目が疲れたんですか?」


「ま、まあ…そんな所だ…」


「ああ!ずっと集中して描いていたからですよー。外の景色でも見てゆっくりして下さい」


「そうだな…そうしよう…」


 どこか心ここに在らずのアイザックさんと一緒に、外の景色を眺める。


 ふと思った。彼は正面にいたはずだが、なぜ今は隣にいたのだろうか?

 そうか。きっと壁にもたれて寝ていた私を気づかって、肩を貸してくれたのだろう。そう納得した仁亜だった。


 しかし実際は違った。彼は若干赤くなった頬を見られまいと、眉間を押さえるフリをして必死に隠していたのだ。彼女の真正面にいるなどもっての外だった。


 良い匂いがした…いや、早く町に着かないかと祈るような気持ちで乗車し続けているアイザックだった。

 

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