ニア・・・マイフレンド
お子さん双子なんですねー、可愛いですねー。などと言って明るい話題にしたほうがいいのだろうか。仁亜は悩んでいた。ヒルダ様もしょんぼりしている。
どうした仁亜、陽気な性格が私の取り柄だろ!しっかりしろと自分自身を鼓舞する。
ふっと視線を感じて顔を上げると、離れた所でアイザック隊長が見守ってくれている。
そして目が合うと彼は頷き、別の方向を向いた。その視線の先には………
「…ねえ、ヒルダ様。私の知ってるギリアム様って、『女の子は皆かわいい花』って言うくらい女好きの印象があるんですけど。
ヒルダ様が物を壊しただけで嫌いにはならないと思いますよ」
「そう………カナ………?」
「じゃあ直接聞いちゃいましょうよ。
……そこにいますよね、ギリアム様?」
女好きとか言っちゃって、思いっきり不敬罪だと思うけど気にしない。
仁亜は隊長の視線の先…木の後ろに隠れていたギリアムに向かって問いかけた。
「盗み聞きは良くないです、こちらで一緒にお茶しましょうよ。お腹の具合はよくなったんですかー?」
「う、うん。まあね〜」
そう言って苦笑しながら顔を出す殿下。突然の登場に、ヒルダ様は驚いている。
「ギリアム様、ヒルダ様の事ですけど…」
そう言いかけた仁亜を、彼は手で制止しながらヒルダ様のほうへ向かう。
「ヒルダ、オレの贈り物が嬉しかったって本当?」
「…ハイ」
「そっか…よかった。ずっと嫌われていると思ってたんだ。その場で壊されるほど贈り物がイヤだったのかなって」
「?!そんなコト…」
「オレ、見た目こんなで弱いからさ。持ってる剣だって飾りみたいなモンだし。近衛隊に守られてるから戦うこともないし。
屈強な男が好みのタナノフ人にとって、オレって全く魅力がないだろう。
…でもヒルダを初めて見た時、絶対この人と結婚したいって思った。一目惚れだったんだ」
「ギリアム…」
「小さい頃に母親を亡くしたからさ。昔から女の人とどう接していいかわかんなかった。
とりあえず優しくすればいいって、色んな子に話しかけてた。けどヒルダと話すときは駄目だった、何も話せない。
変なことを言って嫌われたらどうしようって、どうしても緊張しちゃうんだ」
「私と同じ…私も、あなたに嫌われたくない」
「お互い、空回ってたんだな。ヒルダが普段から力をセーブしてたなんて気づかなかった。でもオレの前だと自制が効かないって、ある意味嬉しいかも。
こんな軟弱なオレでも、好き?」
「私はタナノフ人だけど、好きな人に強い弱い関係ない。優しいあなたが好き」
「ヒルダ…。じゃあ、オレの手、握ってくれる?ヒルダになら破壊されてもいいや」
「で、でも…」
「いいから」
殿下が右手を差し出す。ヒルダ様は恐る恐る両手で彼の手を包んだ。
「…触れる、大丈夫」
そう言って安堵したヒルダ様は、ぎゅっと殿下の手を握りながら静かに涙を流した。
…そろそろ頃合いだろう。仁亜は静かに席を立った。
「楽しくて時間が経つのも忘れてました。そろそろお暇いたしますね。二人とも、お幸せに」
「ニアちゃん…ありがとう」
そういって殿下は笑った。普通にしてればイケメンなのである。
「ニア…今日は本当にありがトウ。
あの、よかったらまたお茶を…あと、と、友達、なって欲しイノ」
ヒルダ様は涙を拭いながら聞いてきた。
「…はい!喜んで」
仁亜は最近習ったカーテシーをしながら応じた。よろけそうになったのでアイザックに隠れて支えてもらいながら。
・・・・・・・
「よかったですね、仲直りできたみたいで」
「ニアが交わるとああも二人の関係が変わるとは…本当に君は不思議な力があるな」
「いえ、私はただおいしいお茶を飲んでただけですから…」
仁亜はアイザックと一緒に客間へ戻ろうと歩いていた。
「ずっと不思議に思っていたんだ。ヒルダ様は何故あんなに力があるのか。
調べた所、彼女の父はマルロワ王国の魔法師だった。きっと彼女にもその力が遺伝したのだろう。
あの細い指先で物を破壊するなんて、いくらなんでも怪力すぎだからな」
「魔法!そうだ、隣のマルロワ王国の人達って魔法を使える人が多いんですよね。勉強しました。じゃあヒルダ様の力は、自分自身への強化魔法って感じですかね」
「そうだろうな。タナノフ人としての戦闘本能にマルロワ人の魔力が加わったと。
彼女はさぞ最強の近衛隊士になれたのだろうが…残念だな」
「ヒルダ様自身は戦うのが嫌みたいですから。勧誘は諦めてくださいね。
あ、あと気付きました?ヒルダ様ってば、最後のほうは殿下と話す時、普通の話し方になってましたよ。
これぞ愛の為せる技ですねぇ」
「そうか?気が付かなかったな」
「それにしても、魔法かー。いいなー。私も使えたらな〜。時空転移!!とかできれば日本に帰れるのに」
「…時空転移……か………」
それっぽいポーズをしてみる仁亜に対し、急に黙り込んだアイザック。
「……なあ、ニア」
「はい?なんですかアイザックさん」
「今日、寝る前に少し時間をもらえるか?話がしたいんだ」
「あ、はい。いいですよー」
軽い気持ちで返事をした仁亜だったが、まさかこの後とんでもない出来事が起こるとは夢にも思わなかった…。
タイトルの元ネタ→某笑ってはいけないシリーズより




