目覚めるラッキースケベ
内容がシリアスだったり。でもやっぱりギャグも入っていたり。
―アイザックは夢を見ていた。自分の過去の―
アイザックは物心ついた頃には母がいなかった。元々体が弱かったという母は、彼を産んでまもなく亡くなったそうだ。
母を大切にしていた父は子供にそれほど関心がなく、元々仲が良かった実の兄(アイザックから見ると伯父である)に何かと依存するようになった。
伯父はまだ独身だったので、自身の母親と離れの屋敷に住んでいたが、父の代わりによく遊び相手になってくれた。
伯父は騎士で、武闘会で優勝するほど強かった。王族の近衛隊へ入らないかとスカウトされたが、魔獣の討伐を優先したい為断った。当時は大量発生していたのだ。
アイザックと一つ上の兄は、主に伯父と祖母に面倒を見てもらっていた。
4歳になったある日、伯父が客人を連れてきた。
見たこともない真っ黒な髪をぴっちりまとめた女性で、同じく見たことがない服を着ていた。ちょっと怖くて、思わず物陰に隠れていた。
しばらくすると、ドレスに着替えた彼女が戻ってきた。髪も下ろしていたが、とても艶々としていて綺麗だった。アイザックの存在に気づき「おや、可愛い坊やだねぇ」と、屈んで頭を撫でてくれた。
彼女はこの国の人ではない。伯父が城下町で倒れていたのを見つけ、保護したそうだ。
父は「こんな怪しい女を兄上の側に居させるなんて」と猛反対した。しかし困った人を助けたいという騎士道精神の強い伯父と、久しぶりの女性客に喜ぶ祖母の勢いに敵わず、渋々承諾した。
彼女は不思議な力を持っていた。
アイザックが玩具を無くして泣いていた際、「ほら、そこじゃないかい」と近くの木箱を指差した。玩具は果物の保存箱に間違えて入っていたのだ。
初めは偶然だと思っていたが、そのうち魔獣が現れた場所を当てて、町の騎士団員を驚かせた。
この出来事はアイシス国王の耳にも入り、後に『渡り人』と呼ばれ奇跡の力を持つと言われるようになる。
アイザックはすっかり彼女に懐いていた。兄は自由人だから一人でどこへでも行ってしまうが、アイザックは当時人見知りで中々遊び相手がいなかった。
彼女はそんな自分に良くしてくれ、時間があれば遊び相手になってくれた。
ある日、伯父と彼女と自分の似顔絵を描いて見せたら、とても喜んで抱き締めてくれた。母の顔も知らない自分にとっては、彼女はもう一人のお母さんのような存在だった。
…あの事件が起きたのは彼女が来て数日後だった。屋敷に魔獣が現れたのだ。
基本的に魔獣は一般市民を襲わないと聞いていたが、その魔獣は彼女を狙い真っ直ぐに向かってきた。伯父がすぐに倒したが、彼女は震えていた。
アイザックは危ないから屋敷の中にいろと言われていた。しかし、窓からその様子を見て彼女が心配で出てきてしまった。
すると、振り返った彼女が驚いて「来るんじゃないよ!」と叫んだ。
心配し急いで走ってきた為、彼女の後ろに黒い霧がかかっていた事に気づかなかったのだ。
霧が彼女とアイザックを覆い隠そうとする。怖くて目を閉じた瞬間、体に衝撃が走った。
…目を開けた時には、彼女が自分を突き飛ばしていた。伯父が彼女の名を呼びながら近づき、庇うように抱き締めている。
アイザックは右手を伸ばしたが遅かった。
―そのまま、二人は霧に包まれ消えてしまった―
・・・・・・・
「…………ッ!!……ハァ……ハァ…………夢、か……………」
びっしょりと汗をかいている。久しぶりにとても酷い夢を見た。いや、夢であればどんなによかっただろう。あれは現実にあった出来事なのだ。
鬱屈した表情のアイザックだったが、すぐに驚愕する。目の前にニアがいたからだ。こちらを向いて、スヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。
彼女はちゃんと眠れたのだなとホッとしたのも束の間、彼は再度驚愕する。
夢の中で伸ばした右手が、現実でも伸びていた。その右手は………ニアの左胸をガッシリと掴んでいた。
…ちなみに前回は洋服の上からだったが、今回は薄いネグリジェ越しである。
…お分かりいただけるだろうか。
…その感触に叫ばなかった自分を、心から褒めようと思う。
彼は今までの隠密行動を思い出しながら、人生で最も音を立てずにその場を離れたのだった。




