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恋と聖水(度数25)


 その後に行われた訓練で、セルゲイは散々だった。何もない所で転んだり、投げナイフの練習であさっての方向に投げたり。

 動揺しすぎでしょ。


 サーシャさんはというと、一見普通に見えたが、投げナイフ訓練用の藁人形に向かって「ニア様、御髪が乱れていますよ」と頭を撫でていた。

 それは私じゃない。まさに草wwwだった。



 やがて訓練は終わり、二人が戻ってくる。


「おつかれさま!当たり前だけど皆ちゃんと鍛えてるんだね。私じゃあんなに動けないよ」


 と仁亜が言うと、セルゲイとサーシャはそれぞれ


「あ、ああ…そりゃあな…」

「今日は不調でした…いつもはもっと動けるのですが…」


 と言いながらお互いをチラチラ見て赤くなっていた。何これ甘酸っぱい。


「いいなあ…私も恋がしたいなぁ…」


 と、思わずつぶやいていた。すかさず二人が食いつく。


「なんだお前独り身なのか。仕方ない、オレが一つ手伝ってやろう」


「私で良ければお力添え致しましょう。どんな殿方がお好みなのですか?」


 と言われた。二人ともお互いイイ感じになってからの、この上から目線である。リア充め。


「そうだなあ…うーん…普通に仕事してて健康的で優しい人…かなあ…?」


 仁亜は悩んだ末に答えた。



「は?なんだそりゃ。そんなヤツごまんといるだろ」


「大多数が当てはまるので候補が多すぎますね」


「そうなんだよねーでもなぜか出会いがなかったんだよねー…トホホ…」


 仁亜は嘆いた。






・・・・・・・






 午後は客間に戻り、引き続きこの国の勉強をした。

 側にいるセルゲイは「喫茶店か雑貨屋か…いや歌劇ってのもいいな恋愛物の」と、早速デートプランを考えブツブツ言っている。うざい。無視して黙々と勉強した。


 セルゲイは夕食の時間になっても「女の子でも男の子でも、将来は騎士になってオレ達みたいにイイ出会いをして欲しいなぁ」と独り言を言っていた。

 もう結婚し、彼女は妊娠中のようだ。妄想の時の流れは早い。


 時間になったのでセルゲイが退室し、夕食を部屋でとる。そして入浴を済ませる所までは昨日と同じだ。しかし、今日は違う。


「ふっふっふ」


 仁亜がそう言って出した物、それは焼酎のボトルだった。今日はお酒を飲もうと決めていたのである。

 元々は女将さんと飲む予定だったが仕方ない。日本に帰れるかもわからないし、昨日はなかなか寝付けなかったのだ。

 そこで、仁亜はお酒を飲みその勢いで寝てしまおうと考えたのである。


 グラスに焼酎を入れ、事前にシータさんに用意してもらったジュースを入れ混ぜていく。グレープフルーツに近い味のジュースだ。


「いざ…乾杯!」


 と、グラスを上に掲げて一口飲んだ。


「く〜っ!これが大人の味…!でもちょっとお酒入れ過ぎたな」


 濃いのでもう少しだけ飲んで、そこにジュースを入れ薄めるようにしてまた飲む。


「あ、コレでちょうどいいや!美味しい!」


 そう言いながらゆっくり飲んだ。



 …お気づきだろうか。



 お酒が濃かったのでジュースで薄めたのはいいが、それを全部飲んでしまったら意味がないのだ。

 するとどうでしょう。数十分後には、既に目元を少し赤くした仁亜が出来上がっていた。このまま寝てしまうかもしれないので、ベッドへ向かう。


「ああー、体がフワフワするー。このまま飛んで日本に帰れないかなー、なんてさ」


 そう自分で言ってむなしくなり、仁亜は泣き出した。






・・・・・・・






 アイザックは夜遅く城に戻った。日没までには帰る予定が大分遅くなってしまった。


 入浴を済ませて客間の寝室に行く。隣の部屋にはニアがいるはずだが、さすがに起きてはいないだろう。自分も寝ようとしたその時。

 隣へ続くドアが半開きになっていて、すすり泣く声が聞こえてきた。アイザックは慌ててドアを開ける。


「ど、どうしたニア?!」


「うっ…うっ、う〜っ…ひっく…」


 ニアはベッドの上で泣いていた。近づくとお酒の匂いがする…飲んだのか。

 グラスの数や他に誰もいないのを見ると、飲まされた訳ではなさそうだ。急いでタオルを持ってくる。


「…驚いたぞ。どうしてそんなに飲んだ?」


「いやじゃ〜!旅館に帰るんじゃ〜!」


 会話が噛み合っていないし、口調も変だ。完全に酔っ払っている。アイザックはタオルで目元を拭ってあげながらため息をついた。

 泣いている子供は好きじゃなかった。…昔の自分を思い出すから。


「ううう〜お酒は美味しいけど一人じゃ楽しくないんじゃあああ!一人はいやじゃああああ」


「ニア、今は俺が側にいるだろう。いい加減落ち着け」


 そう言ってニアの頭をゆっくり撫でる。


「う〜!女将と飲みたいよー!大将の賄い食べたいよー!たまちゃーん、私がいなくてシフト増えてると思うーごめんー!ひっく…」


 ニアが呼んでいるのは、日本にいた時の大切な人達だろう。そして自分の名前が呼ばれない事に、何故か少し寂しくなった。


 グズグズ言いながら頭を撫でられていたニアだったが、泣き疲れたのかだんだん口数が減っていった。

 そのまま眠りそうなので抱きかかえてベッドに寝かせ直す。


「やれやれ…やっと寝たか」


 俺も寝よう、と隣の部屋へ行こうとしたアイザックだが、動きが止まる。彼が着ているガウンの一部を、ニアがキュッと掴んでいたからだ。


「…ニア?」


「すぴー…」


 ニアは無意識につかんでいるようだ。無理に引っ張って離そうとして、また起きたら面倒だな。

 仕方ない、と言い苦笑しながらアイザックは布団をめくったのだった。


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