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隊長のニブさに全米が泣いた


「どうしたら、そこまで宰相様を怒らせる事ができるのですか…」


「痛いよぉサーシャさん…毛ぇ引っこ抜かれるかと思った」


 面談を終え、サーシャさんと客間まで戻る。帰り際に宰相をオッサン呼ばわりして、またアホ毛を引っ張られた。私の軽口。


「普段は『氷の宰相』と言われる程、無表情で冷静な方なのですが…あなたを相手するとそうはいかないのでしょうね」


「ぷぷっ!何そのあだ名ウケる…おっと、もういないよね」


 慌てて振り返る。聞かれていたらまたオイタされる所だった。


「それよりニア様、この本は何ですか?」


 と、サーシャは仁亜の為に持ってあげていた数冊の本を顎で指す。

 執務室から出てきた仁亜はリュックを背負い、右手に本・左手に焼酎のボトルを持っていて大荷物だったのだ。


「ごめんねー持ってもらっちゃって。この国の簡単な歴史書だって。

 宰相に色々聞こうとしたら『そんな時間はない、これでも読んでろ』って渡されて。

 ひどいよ私字が読めないのに。ねぇサーシャさん、もしこの後時間があったら少し読んでもらえない?」


「いいですよ。夕食の時間まで護衛する予定でしたし。その抱えているものは何ですか?」


「ああこれは焼酎…私がいた国のお酒だよ。そうだ、よかったら一緒に飲まない?」


 そう聞くとサーシャさんはうっ、と呻いた。


「酒ですか…私は遠慮しておきます」


「あ、お酒は苦手?」


「いえ、そうではないのですが…酔いやすい体質らしくて。昔近衛隊の連中と飲んだ時に…その…」


 そう言って顔を少しだけ赤らめるサーシャさん。かわいい。


「酔っぱらって誰かに甘えちゃったとか?

 クールなサーシャさんだとギャップすごそう」


「周辺の隊士ひとりひとりに絡んで寝技をかけていたそうです」


「 寝 技 」


「ある者は脱臼し、ある者は骨折し、ある者は嬉しそうに首を絞められて気絶したそうです。全く記憶にないのですが」


「…最後に変態いましたけど」



 じゃあサシ飲みはご遠慮させていただこう。たぶん私じゃ死ぬ。





・・・・・・・





 夕食の時間まで、歴史書を読んでもらいながら勉強した。


 今いる国はアイシス王国というが、西にタナノフ、東にマルロワという国があるそうだ。

 北には何があるの?と聞くと、魔獣が住む大きな山があり近づけないらしい。魔獣なんているのか。ファンタジーだね(現実逃避)


 その三つの国があるこの大陸をマルタナアイ大陸と呼び、言語も一緒だという。

 なんとも単純すぎるネーミングセンスと思ったが、かつてこの三国は仲が悪く、大陸の名前をつける際もそれぞれの国が候補を主張し戦争になったそうだ。


 戦争は激化し各々が疲弊したため停戦協定を結び、それぞれの国の名を入れた大陸名となったそうな…まじか。


 アイシス王国はこの大陸の南部に位置する。

 大陸の中央部には最高峰の山があり、この大陸を作ったという神様がいるとかいないとか。そのため信仰者の聖地となっている。

 魔獣は野生動物が多いタナノフや魚が豊富に取れるマルロワにやってくるらしく、比較的被害が少ないアイシスは農耕が盛ん。


 アイシス人は手先が器用な人が多く、他の国から物資を輸入し加工して売ることが多い。

 銀・青系の髪色、茶・黒の目が多いのも特徴だ…と。


 仁亜は話を聞きながらメモしていくが、手が痛くなってきた。


「そろそろ夕食の時間ですね。今日はこのくらいにしておきましょう」


「そうだね。読んでくれてありがとう!すっごく勉強になったよ~」


 大きく伸びをする。仁亜は完全にオフモードになった。



「じゃあさ、夕食まで恋バナしようよー」


「ええっ…」


「せっかく同じくらいの年齢の女の子と一緒なんだもん。ていうかサーシャさんいくつ?」


「私は24です」


「なら色々経験豊富じゃないですか!師匠!恋愛初心者の自分めに是非ご教授を!」


 仁亜は手を合わせてお願いする。


「とは言っても私も恋人などいた事がなくて…」


「そうなの?美人なのに。じゃあ同じ近衛隊でいい人いないの?」



「………」



 目線をそらした。あ、これはいるな。深堀り深堀り。



「でも今の所私が知ってるのはソルトさんと失礼セルゲイと…アイザック隊長か」


「!」


 隊長の名前でピクッとしている。ビンゴか。


「そっかあ!隊長か。頼りがいありそうだもんね」


「隊長は…以前思いを伝えたが駄目だった」


「えっ」


 苦笑いするサーシャさん…急に部屋が寒くなった気がする。気まずい。


「隊長さん、恋人でもいたの?」


「いや、浮いた話一つ聞いたことがない。だからチャンスだと思って。

 ある日二人での勤務中に、魔獣に遭遇した事があったんだ。その際戦う前に『隊長、お慕いしております』と伝えたけれど…」


「…もうちょっと別のタイミングじゃ駄目だった?」


 サーシャさん、魔獣が来てテンパっちゃったのかな。吊り橋効果的な。

 何気に敬語も使わなくなっている。


「隊長は『ありがとう、私も君のような優秀な部下を持てて幸せだ。これからも国の為にお互い頑張ろう』と言ってくれた」


「隊長ニブっ!!ニブすぎる!!!」


「そのあと魔獣を一刀両断さ。私の思いも一緒にスパッと切ってくれた気がするよ。

 おかげであと腐れなく今も部下としていられるのだけど」


「サーシャさああああん!!次はニブくない人を見つけようねええええ」


 なぜか仁亜のほうがダメージを受けていて、思わずサーシャに抱きついたのだった。


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