しっかり90度
色々あった後に渡された服は、ワンピースだった。下着はやっぱりコルセットだったが、昨晩と違い伸縮性のある素材で着心地も良かった。
昨晩もそれで良かったのではと仁亜は思うが、この国では、普段は柔らかくて動きやすいコルセットで、晩餐会や夜会などのフォーマルの場ではしっかり寄せてあげる硬いものを着用するそうだ。もう毎日普段着でいいや。
支度が終わりシータさんが出ていくと、誰かが入室許可を求めてきた。承諾すると、軍服を着た女性が入って来た。
「サーシャと申します。本日はニア様の護衛を務めさせて頂きます」
そう言って挨拶したのは見事な銀髪の長身女性だった。さらっさらの髪をポニーテールにし、手足も長くスタイルが良い。
「はじめまして。ニアと申します。あれ、アイザックさんは…」
「隊長は急な用事があり帰省されました。しばらくは戻らないかと」
「そうですか…」
朝早くから王に呼ばれたと聞いていたが、そのまま帰省するなんて、何かあったのだろうか。
思わず心配顔になった仁亜だったが、サーシャはその様子を誤解した。
「…ニア様。隊長ではなく私が来た事にご不満ですか」
「えっ?いえそんな事は…」
「…失礼ですが、隊長はお忙しい立場です。にもかかわらず、ニア様の護衛という任務も加わりお疲れのご様子。少しはお呼びするのをご遠慮頂けないでしょうか」
「は?私が事あるごとに隊長さんを指名して呼び出していると言いたいのですか?」
「そうではないのですか?隊長は何かとニア様が、ニア様が、と言って業務を中断されます。
普段は隊長専用の仮眠室でお休みになるのに、昨日の夜はそこにいなかったご様子。
夜はベッドで休む事もできず、中断した業務の処理に追われているのかと」
「えっ」
サーシャに睨まれ売られたケンカは…となった仁亜だが、隊長が夜いなくなったと聞いて疑問を抱く。
隊長は私の寝室の隣部屋で寝ていたのだが、部下には伝えていないのだろうか?
私から説明してもいいが、隊長が信頼する部下に言っていないのだから極秘なのかもしれない。うーん、どうしよう。とりあえず…
「最初に誤解を解いておきたいので言いますが、私自身はアイザックさんを呼びつけたりしていません。普段から自分の身は自分で守ろうと思ってます。
だけど、異世界から来たので周囲が珍しがって誰でも寄ってくるから、彼が人一倍心配してくれているのもわかってます。
それについては…他の近衛隊の皆様にも迷惑をかけて、ごめんなさい」
そう言って、深々と頭を下げた。
「!あっ、頭を上げてくださいニア様!こちらこそ無礼をお許しください!
…こういった、すぐ遠慮なく言う癖を直せと周りから言われているのに…」
お互いに頭を90度に下げ続けている。なんかシュールだ。
この光景どこかで…そうだテレビで見たんだ。北九州市の港町にある、はね橋だ。
左右の橋が下りていき、ピッタリくっついたあとに渡ったカップルは一生結ばれるという有名な。いや、私達は結ばれちゃダメだろ。
「ニア様はとても綺麗な姿勢で謝罪されますね。慣れているといいますか。
…って私、また失礼な事を」
「いえ、褒め言葉ですよ。私、元の世界で接客業してましたから。感謝でペコリ謝罪でペコリ、って何百回もしてますよ。
でもそろそろやめましょうか。首が痛くなってきましたし」
「そうですね」
そう言って、お互い笑いあった。
・・・・・・・
今日は宰相が仁亜との面談を求めているとの事で、サーシャさんと執務室へ向かう。
すると途中でギリアムと出くわした。
「やあ!ニアちゃんこんにちは〜。おっ、サーシャちゃんもいるじゃない。可愛いお花が二輪か〜。これは今日一日、イイ日になりそうだなぁ」
「おはようございます」
「おはようございます」
仁亜とサーシャは同時に、淡々と挨拶した。
「ぷっ、同時に挨拶するなんて。女の子同士もう仲良くなったの〜?イイなあオレも混ぜてよ〜」
「謹んでお断り申し上げます」
「急いでいるので失礼します」
またしても二人で拒否反応を示し、早足でその場から離れた。ギリアムはその場にポツンと残り、「本当、仲良いのね…シクシク」と言いながらトボトボ歩いていった。
「私はああいう軽い人が苦手で」とサーシャが言い、
「ふふっ!王太子に対して不敬〜。でもわかる。マジああいうの無理」と仁亜が答える。
最初のギスギスした様子はどこへ行ったのか、意外と気の合う二人なのだった。




