黒乃姫奈の完璧なる計画 4
すーはーすーはー。私は彼の部屋の前の扉で10分ほど、深呼吸をしたり、人って書いて飲んだりを繰り返していた。いやいや、幼馴染とはいえ男子高生の寝ている部屋に行けって何を言っているのよ!! それって駄目じゃないかしら? 何があっても文句は言えないわよね? 私は文芸部の子が書いてくれたシナリオをみながら思う。
でも、これまでそれとなく誘惑していたがすべてが無駄に終わっていたのだ。これくらいをやらなければいけないのよね。念のため……本当に念のため今日は勝負下着を履いてきたし、万が一がおこっても大丈夫ですもの。
「一夜……起きてる?」
「うおおおおおおおおおお!!! 姫奈どうした?」
私がノックをするとすごい驚いた声が部屋から響く。まるでホラー映画のお化けに遭遇したような反応だ。ちょっとひどくないかしら? そんな反応をしなくてもいいじゃないの。
「こんな夜にごめんなさい……その、いつものぬいぐるみがないから寝れなくて……」
「ぬいぐるみ?」
「あれよ、あんたが小学校の時にとってくれたやつあったじゃない」
「ああ、あれか。ゲーセンでどうしても欲しいって言ってたやつだよね。まだもっていたのか」
「当たり前じゃないの……だって、たいせつなものだもの」
部屋に入った私があらかじめ考えていたセリフを言うと彼はうなづく。ぬいぐるみの事覚えていてくれたんだという事に胸が熱くなる。正直どのぬいぐるみでもよかったんだけど、一夜とはじめて遊園地に行った思い出が欲しかったのだ。我ながら恥ずかしいくらいに駄々をこねてしまった気がする。だけど、仕方ないなぁといってぬいぐるみをとってくれた彼の笑みは今だって脳裏にうつっているわ。『欲しいなら工場から直送しようか、いっそ工場ごと買い取るのもいいかもしれないね』とかほざいていた父は無視してよかった。
彼が覚えていてくれたことが嬉しかった私の目は余計冴えてしまった。彼がお手洗いに行っている最中に復習をする。これからデートに誘うのよ、姫奈。勇気を出さないとね。大好きな漫画の映画を一緒に観て、彼が好きなイチゴのパフェを一緒に食べるの。そこのカフェは実は父の系列の店なのでパフェを作らせてもらうことになっているのだ。幸いにも料理を練習していたので、それなりのものはできる自信がある。そして彼が食べ終わったら、彼に実は私が作ったとネタ晴らしをするのだ。私覚えているのよ。中学の時に彼女と一緒にバカでかいパフェを食べてみたい言ってたわよね。
それでね、彼が食べ終わったら私が作ったのって言うの。あなたのために私が作ったのよっていってそのときの話をするの。そうすれば、彼も気づくわよね。私の気持ちに気づいてくれるわよね。
「なんかこうしていると昔みたいね、一緒に遊んだで疲れて二人で寝ちゃったりしたわよね」
「ああ、屋敷でホラー映画を観た時の事だよね、トイレに一人で行けないって言って無理やりおこされたっけ。あの時風かなんかの変な音がして二人で怖くて適当な部屋に入ったよね」
「もう、そんなことは忘れないさいよ。でも、あの時一緒にいてくれて心強かったわ。私が不安になったり困ったりしたときはずっとそばにいてくれるわよね」
戻ってきた彼と昔の思い出話で盛り上がる。あの時はね、本当に怖かったけど、それ以上にあなたと一緒に入れて嬉しかったのよ。それに屋敷に泊まってくれるって聞いていたから前日ドキドキして寝れなかったんだから。あの時の部屋に入った時に震えている私を抱きしめて大丈夫だよって言ってくれた彼の優しい声と温もりを今でも覚えている。
「ねえ、一夜……明日暇だったらデートをしてくれないかしら? 私高校に入ってから部活くらいで家と学校の往復ばかりだったじゃない。だからデートをしてみたいのよ」
「別に構わないが、俺でいいのか?」
「当たり前でしょう、こんなことあんたじゃなきゃ頼まないんだからね」
ああ、ちょっとツンツンしてしまった。なんでもっと可愛く言えないのよ、私のバカ。自分を殴りたくなる私だったが、彼はそんな私みて優しく微笑んでくれた気がする。彼がうなづいてくれたのが嬉しくて……それと同時に彼を騙している罪悪感に襲われる。「こんなこともう最後かもしれないんだもの」私は自分に言い聞かせる。
彼は今どんな顔をしているだろうか? 私みたいにドキドキして寝れなかったりしているのかしら。そんなことを想っていると「姫奈……」という声と共にとなりの布団で寝ている彼の手が私の手にかすかに触れた。
「んんんんん!!」
とっさの事で私は頭がパニックになる。だけど、あれよね、彼が勇気を出してくれたのよ。だったら私は……
彼の手を握り返して震えて声で言う。
「その……キスくらいまでなら許してあげるわよ」
ああ、私のバカ、違うでしょ、もっと素直に甘えなさいよ!! 一夜からの反応はない。あれ? 今の生意気そうだったから嫌いになっちゃた? 違うの、嬉しいのよ。ただまだ、心の準備ができてなかっただけで……
「違うの……一夜……その……私は嬉しいのよ」
半泣きになりながら彼の顔を見ると「すーすー」という寝息を立てて眠っていた。
「……一夜のばかーーーーー!!」
そうして無駄にドキドキしたまま私は布団で悶えることになったわ。
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デートと言う事で私は彼と一緒に歩いている。映画館というのは中々行かないので緊張するものだ。特に横に歩いているのが大好きな人なのよ、仕方ないじゃない。
今日の一夜はいつもとは違い髪をあげているせいか少しワイルドな感じがしてかっこいい。これは学校では見せられないわね。だって、他の女の子の目の毒ですもの。一夜は別にモテないわけではない。以前誠ちゃんとの会話を思い出す。
「姫奈ちゃんといつも一緒にいる一夜君だっけ? 彼って僕ほどじゃないけど結構イケてるよね」
「そうなの!! 一夜ってね、かっこいいし優しいの!! お風呂あがりとかすっごいセクシーなのよ」
「あはは、本当に首ったけだね、でも……姫奈ちゃんが告白をしないなら僕がもらってしまってもいいかな?」
私は誠ちゃんの言葉に胸が沈むのがわかる。私だって外見には多少は自信がある。だけど誠ちゃんのような中世的な美しさはないし、かっこよさもない。彼が私よりも誠ちゃんを選ぶなら私は……
「ごめんごめん、軽い冗談だって!! だからそんな世界の終りのような顔をしないでよ!!」
「べ、べつにそんな顔してないわよ!!」
慌てて反論をするが誠ちゃんを含めて周囲で話を聞いていた皆がにやにやしていたのがとても恥ずかしい。
「どうしたんだ、ボーっとして」
考え事をしていた私が彼にひっぱられてすとんと胸元に引き寄せられる。その力強さと整髪料の混じった香りと、彼の顏にわたしは思わずドキッとしてしまう。こんなのずるいわよぉぉぉぉ。
私は胸をドキドキさせたまま彼と映画を観る。ヒロインと使用人を自分と一夜に入れ替えてみていたのはここだけの話よ。盛り上がってつい彼の手を握っちゃったけど変に思われなかったかしら? でも……あのキスはちょっとエッチだったわね……映画を見え終えた私達はカフェへと向かう。
カフェに座った私は店員さんに合図と共にカップルメニューをお願いする。彼が起きる前に実はこの店に行って作っておいたのだ。私お手製の特製パフェなんだから。
「姫奈さん? あのさすがにやりすぎじゃ……」
「なによ、私とじゃいやなの?」
カップルメニューという言葉に彼は意識してくれたのかしら? 顔を赤らめながらあたりをきょろきょろと見回す彼をみて思う。だったら作戦通りね。あの映画も効果があったのかもしれないわ。
「いや、嬉しいけど……それでさ、今日デートをしようって言ったのは姫奈が家出をしたのと関係があるのかな?」
「そうね……そろそろあんたにも説明するべきよね……」
普段と違い積極的な私に疑問を感じたのだろう、ついに彼が質問をしてきた。ごめん、一夜……私はいまからあなたに嘘をつくわ。