8/砂糖とミルク
●コンビニ/駐車場(夜)
知り合った当初。俣野縁は、蒼天寺宮子が苦手だった。
見知った誰よりもガサツで、とてもマイペース。肉食系といえば差別的だが、誰かを引っ張っていく事に関しては優秀だ。その果敢な行動力には、いつも感心する。
年齢も従姉さんに近い上、年代よりも性格なのだろう。昔の呼び方でいうならば、女ガキ大将といったところか。その強引さに嫌気が差した事もある。
彼女と知り合ったキッカケは、バイト先”ごくらく”だった。いつものように客として仕事終わり――職は転々としているらしい――に酒を流し込む。酒乱の女性客と、若い男の店員。世間話などをするには時間がかからなかった。
唯一、趣味にバイクという共通点があった。当然、宮子の強引さに従って、夜な夜なツーリングをする仲になった。その頃は、よく幼馴染の十六夜商子に心配されたものだ。
夜遊びで視界が広がり、縁の世界は少し色を帯びる。月に1度は海道岬の展望台で、缶コーヒー片手に愚痴を漏らした。
その最中、互いの恋愛事情を相談する時も多々あった。喧嘩ばかりする宮子の彼氏。密かに想っている縁の片思いの女性。
星空が見守る、月夜の開放感も手伝って口を滑らせてしまう。だが、いつしかそうした空間や時間が心の整理する時間になるのだと。必要な事なのだと、後々、縁は気づく。それから間もなく彼女への苦手意識は薄れていく。
「よ、お待たせ」
宮子、缶コーヒーを差し出す。展望台で飲んだ銘柄と同じ。スチール缶の甘ったるいそれ。でも、その温かさをカイロ代わりについつい両手で包んでしまう。
「いただきます……てか、まだあるんですか?」
「まぁいいから」
コンビニの店先に停めたバイクで待っていた縁。コーヒーを口に運びながら宮子の言葉を待つ。
相談にのって欲しい時、相手に缶コーヒーを奢る。それが彼らの暗黙のルール。今夜はこれで2度目だ。ちなみに1度目は、謝罪を込めた展望台。次は何が漏れるのか。
「……さっきの、願い事3つまでってのはマジだからな?」
「はぁ……ありがとうございます……?」
「昔さ、ランプの魔人って『なんで願い事が3つなの?』って思った事があるんだ」
まだ物心ついたばかりの宮子。物語を読んでいくうち、ふと疑問に頭を傾げたそうだ。
願い事が1つでもいいのではないか。もしくは回数制限を設けなくてもいいのではないか。困りに困って、両親に尋ねた事があった。
「そしたらママが『魔人さんも、ずっとランプに閉じ込められて寂しかったんじゃない?』っていうんだよ」
幾星霜、ランプの中にいた魔人。本来ならば願い事は1つだったのではないか。しかし、それだと1つ叶えた後にまたランプへ戻ってしまう。自分はお払い箱、そう思った魔人。
「『寂しがり屋な魔人はきっと自分自身で願い事をしたのよ。願い事を3つにしたいって』……はは、皮肉だよな。自分で願い事叶えてるんだぜ?」
「……そうですね、確かに皮肉でロマンチックですね」
「だろ? それをさっき思い出してさ……アタシも同じじゃねぇかよって」
「同じですか?」
ああ、と頷く宮子。
「カレシに振られて自暴自棄になって、そんで気分転換にオマエを誘って……ツーリングは楽しかったけど、やっぱり寂しいんだわ、正直」
「それって男の人肌が欲しいっていってるみたいですよ」
「……まぁそれも否定しないつーか……?」
<いや、襲われた身としては否定して欲しいよ>
「――だよな」
「んまぁあれだ。結局、何がいいたいかっていうとだな!」
咳払いをして、神妙な雰囲気を誤魔化す。
「オマエの恋愛も、後悔しないで欲しいんだよ。その、アタシのは失敗したけど……何もしないで失恋するよりはマシだろ? まぁアタシなんかでなんの助けになるかわからないけどな」
<うん、やっぱり優しいね。宮子さんは>
「――ああ、全くだ」
「なんかいったか?」
「いえ『ありがとうございます』っていったんです」
突然だが、俣野縁には2つの人格がある。
”オレ”と”ボク”。
現在の彼と、かつての彼。
5年後の人格と、5年前の人格。
ブラックコーヒーのような苦手意識。砂糖とミルクのような2人の意識。それは入り混じり、そしてそれは好意に近い感情となる。
つまり蒼天寺宮子に対して”友人”として甘い好意を抱いている。といっても過言ではないのだろう。
読了ありがとうございます!
じっくりと、作風の味を出せていけたらいいと思ってます。
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上がったテンションを、作品にぶつけていきますので(笑)