7/魔人とのツーリング
●縁の携帯画面
>蒼天寺宮子
『昨日は送ってくれてありがとう! それと変に絡んでごめん!』
『いいわけになっちゃうけど、昨日はアタシどうかしてたわ……カレシか
ら振られたからって酒に逃げて……』
『本当に……ごめん』
>俣野縁
『いいえ、気にしてませんよ。最後は少しやりすぎだと思いますけど……』
>蒼天寺宮子
『そ、そうだよね……うん、やりすぎた……キミに好きな人がいるって知ってたのにアレはないわ、流石に……』
『怒ってるよね? 反省してます』
>俣野縁
『別に怒ってませんって』
『逆に、今日は体調大丈夫ですか?』
>蒼天寺宮子
『心配してくれてありがと! おかげ様で午後には回復してきました!』
『午前中は少し2日酔いでグロッキーだったけど……?』
『あのさ、今日バイトある?』
>俣野縁
『ないですけど?』
>蒼天寺宮子
『んじゃ久々にツーリングしようよ!』
『今夜ならアタシもバイト早上がりだからさ!!』
>俣野縁
『わかりました。いつものトコでいいんですよね?』
>蒼天寺宮子
『うん! いつものところで9時集合ね!!』
●海道岬/展望台(夜)
この街には、小さな展望台がある。ひっそりと片隅に、かつ見晴らしのいい場所に。地元の住民からは、近所を通る旧海道沿い――そこから、ちなんで海道岬という愛称で呼ばれていた。
岬のヘリに、木造の足場がある。そこへの階段を上る人影。俣野縁と蒼天寺宮子だ。革製のライダージャケットに身を包んだ2人は、展望台の手すりにもたれかかる。
「やっぱりココに来ると心が洗われるよね……」
そうですね、と縁も夜の海を見入りながら答える。月光が燦然と、乱反射する青白い海。波打つごとにその輝きは、まるで宝石が沈んでいるかのように神秘的だった。
「嫌な事があった時は、特に……ですね……」
「……うん、そうだね……」
「?? どうかしました?」
「んーアタシってば逃げてばっかだなぁーって思って」
と、つい最近の出来事を思い出す宮子。
彼氏が離れていき、酒に逃げた。人肌が寂しくなって、縁の優しさに逃げた。それでもツーリング仲間と離れたくなかったから、バイクを口実にこんな小さな岬へ逃げてきた。
それに恥も外聞もない。ただただ、目の前の事を忘れたいがためにしがみついていた事に変わりはないのだから。
「……いいんじゃないですか? 別に」
「え?」
「逃げる云々はともかく、それって考えるより行動してるって事ですよね」
「はは、マセガキめ。いっちょまえにいうじゃないの」
と、乾いた笑いが零れる。どちらかといえば、空笑いに近いそれ。ツッコミとばかりに、縁の腹へ宮子の拳が入った。
××××× ××××× ×××××
どれくらい、そこにいただろうか。居心地のいい無言の時間。潮風が頬を撫でるだけの空間に、ぽつりと宮子が漏らす。
「……ごめんな、この間は……」
「いいんですよ。別に済んだ事ですし」
「いいや、ダメだ。アタシの気が収まらない。アタシなりのけじめをつけないと!」
「け、けじめって……なんですか?」
「そうだなー、アタシのカレシになるとか?」
「結構です」
と、真顔になって答えてしまう。酒臭い吐息で迫られるのはもうコリゴリだ。
宮子も、縁の反応から冗談だとその場を流した。だが、彼女のいう『けじめ』というモノは思い当たっただけの言葉だったのか。あまり良い案が出てこなかった。
「オレ自身、こうして一緒にバイクで走るだけでいいんですけど?」
「あーそうじゃねぇんだよなー」
――んじゃどうすればいいんだよ、全くこの人は。
<行動力半端ないのに考えなしというか、浅いというか……だね>
――確かに、そりゃいえてるな。流石”キョウダイ”。
「そうだ! こうしよう!」
風景を楽しみ終え、そろそろバイクに戻ろうかと話している頃。蒼天寺宮子は、両手を叩いて合わせる。
同時に、嫌な予感がした俣野縁の表情がこわばる。
「オマエの願い事を叶えてやるよ! 3つまで!」
「……願い事って……ランプの魔人でもあるまいし……」
「いいんだよ! 決めた! 困ったらアタシを頼れ! なんども助けてやるから!」
これが先ほど口にしていた『けじめ』というモノだろうか。縁自身、親切の押し売りのようにしか聞こえない。頼る場面などあるのだろうか、そちらが心配だ。
とりあえず、相槌を打っておく縁。
「はぁ……お願いします……?」
面倒な事だ、と内心、ため息をつく縁だった。
読了ありがとうございます!
じっくりと、作風の味を出せていけたらいいと思ってます。
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上がったテンションを、作品にぶつけていきますので(笑)