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5/奢りたい想い人

【この作品の主成分表】

・メインヒロイン    50%

・サブヒロイン(3名) 30%

・ヘタレ主人公成分   10%

・作者や読者の妄想   10%etc.


●大学付近の喫茶店(夕方)


 俣野縁またのえにしは、彼女の的確な意見に脱帽する。

 如月芽衣沙きさらぎめいさの口から現れる表現を、事細かくメモしていく。丁寧に、そして記憶に染みこませるようにペンをはしらせる。


「――それでね、ここのいいまわしはもう少し変えた方がいいかなって。だってこのシーンは主人公が悲しみ暮れる所よね」


 向かいに座る芽衣沙。原稿用紙の中ほど、とある1点を指す。


「『だけどこの後、王子は諦めませんでした』より『だけど王子は立ち上がる事がずっとできませんでした』の方が自然じゃないかな」


 と、平べったい、丸い鉛筆の字をトントンと叩く。気に留めず、縁は頷きながらペンを動かす。

 意見、理由、そして改善。その繰り返しになるが、芽衣沙の意見はとてもためになる。シンプルでわかりやすいのだ。聞く側も余計な感情を挟まず、耳障りもいい。


「はい、参考になります」

<……やっぱりそうだよね>


 そうして添削や内容に深みを与えていくうちに、瞬く間に1時間が経過していた。

 少し休もうか、と芽衣沙はコーヒーのおかわりを頼む。縁もそれに倣う。


「そういえば、いいの? 毎度ながら私が勝手に思った事をくっちゃべってるけど。私がメモを書いてきて、渡した方がよくない?」

「そんな事ないですよ。こうして直接聞くのが大事なんです」


「そうなの?」

「はい、そうなんですよ」


「……ふーん……でも、この童話書いてる人って俣野君じゃないんでしょ? そしたらメモ書いてる俣野君が大変じゃない」


 確か”彼の知り合い”という人。その人がこの童話を書いているらしい。面と向かって会った事はないが、文面や内容、縁を通して温厚な人なのだろうと想像できる。

 始めは、参考文献を漁っていた縁を”この童話の作者”だと勘違いしたが。正直、知り合ってからの彼と”この童話の作者”の印象が違いすぎる。


 きっと”この作者”は病弱で、あまり外に出れない。深窓の令嬢のような、線の細い少年なのではないだろうか。手書きの書体、包み込む童話の内容、それが自然と作者への偶像を構成していく。

 

 加えて、”かの作者”と芽衣沙を繋ぐモノ。それは俣野縁とこの童話しかない。彼の持ち込む童話を読み、添削や意見を述べ、彼がそれを”作者”へ伝える。なんとも奇縁な関係だと、笑いも隠せない。


「いいんです。”オレ”がここで聞いてる事に意味があるんですから」

「?? ならいいけど……?」


「如月さんのアドバイスがすっごい好評で、書き始めると筆が止まらないらしいですよ。昨日も夜更かしして、寝坊したらしくて」

「あはは、そうなんだ。嬉しい、のかな? はは」


 あまり縁は”この童話の作者”について語ろうとはしない。だが、つい先日、不意に零れた縁の言葉があった。



『童話を……自分の考えた作品を、とある人と一緒に出すのが夢、らしいんです。作品を、あの人に認めて欲しい、そうで……』


 あの人とは一体だろうか。いや、認めて欲しいという熱意がこの童話に魅力を感じさせているのか。芽衣沙としては、疑問よりも羨望が先立つ。

 

『叶うといいね、その夢』


 ――私のように、途中で諦めないで欲しいな。

 


××××× ××××× ×××××



 その後、意見交換――主に感想を述べ続けていたのは芽衣沙だが――が終わる。時間にして約2時間ほど。店内の客層も何度も回転をした。その中でお互いに満足そうな笑みで席を立つ。

 

「時間大丈夫? これからバイトっていってたよね?」

「ああ、大丈夫ですよ。すぐそこの居酒屋なんで」


 商店が多く並ぶ、目の前の車道。その大通りを跨いだ先、はす向かいの辺りに暖簾のかかった居酒屋があった。


「あ、ここは私が持つわ」

「え、いいですよ。話聞かせてもらいましたし」


 と、会計レシートを取り合う。飲み物を1人2杯、2人分で計4杯分。奢られる筋合いも見つからず、縁はレシートを離さない。逆にこちらが奢りたいくらいなのだから。


「学生が気を遣わなくていいの。もし奢るならお弁当の彼女さんにしてあげなさい」

「彼女、って……そんな間柄じゃないですよ」


「んじゃ、彼女ができたらその子に奢ってあげなさい。ほら、手を離す」

「……はい」


 気のせいだろうか。縁の表情が少し沈んでしまった。

 余計な事をいっただろうか。昼間に彼女はいないといっていたはずだ。まさか弁当を作ってくれている幼馴染の女性と何かあったのだろうか。


 だがそれも杞憂か。店内を出る頃にはいつもの微笑む顔に戻っていた縁。愛車であるバイクを引いて、芽衣沙に会釈をして別れる。


 その時、彼の漏らした言葉は車道の喧騒に紛れて、誰も聞こえていなかった。


「……従姉ねえさんに、奢れる事なんてあるのかな……」

読了ありがとうございます!


じっくりと、作風の味を出せていけたらいいと思ってます。


もし面白いと思った方、続きが気になる方、

どうぞブックマークや評価を押していただけると幸いです。


上がったテンションを、作品にぶつけていきますので(笑)

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