表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/13

11/恋心の棘

本当に申し訳ないことに、ずっと筆が止まってました。

化石になった気持ちを思い起こしつつ、続きを書いてみました。

言い回しの劣化が激しいのが否めないですが、気になった方には一読いただければと思います!!

●出版社”傑作館”/4F職員フロア(夕方)


 江崎嵐えざきらんは、頭を悩ませていた。

 理由はその右手に握られた、携帯画面。液晶に映る差出人にだ。『俣野縁またのえにし』と記された連絡者。その文面を伏し目で見下ろしながら、ずっと頬杖をついている。

 

 会社の自らのデスクで、珍しく手を止めていた嵐。そこへ後輩の佐藤が、背後から話しかけた。


「先輩、これから外出してきますね。そのまま直帰するのでお願いします」

「………………」


「……あのー……」

「………………」


「先輩? 聞いてます?」

「…………え、ああ。なに?」


 と、やっと耳元に届いた佐藤の声に戸惑い、携帯を裏返す。

 佐藤自身、携帯に視界が入ったが、差出人に思い当たる節はなかった。取引先や編集関係者でもなかったはず。一体誰だろうか。後ろ髪ひかれつつも、目の前の嵐へ視線を戻す。


「いや、だから外出してきます。こっちに戻らず、直帰するので」

「わかった。いってらっしゃい」

 

 ふい、と嵐が佐藤に背中を向ける。これで会話が終わったらしい。これ以上、話すこともないのだが、妙に冷たくあしらわれた錯覚がするのは勘違いだろうか。

 佐藤、気に留めて仕方ないと思い、カバンを片手にフロアを後にする。


「…………はぁ……」


 と、忙しない周囲を見渡し誰も近くにいないことを確認する。再度、携帯画面を表にする。

 


俣野縁またのえにし

『今日の夕方、そっちに作品を持ち込むんだ』


『それでタイミングが合えば、たまには一緒に帰らない?』


『近くのスターカフェで待ってます』



 連絡の着信は、正午ごろ。しかも現在はその夕方だ。そろそろ縁の用事が終わっていてもおかしくはない。未だ返信もしていないままの文面を見て、途方に暮れる。


 ――どうしよう。どうすれば。


 どう答えればいいのか。せめて返事だけでも送りたいが、頭の中がグルグル回って思考がめぐらない。そうこうしているうちに、着信音と振動が新しい連絡を知らせてくる。

 画面を開いたままになってので、新しい文面も既読表示になってしまった。憎たらしい機能や淡い後悔に頭が重たくなる。



>俣野縁

『終わった。まだ会社にいる?』


『忙しかったらごめん。少し時間潰してるから』



 既読無視されていると思ったのだろうか。いや、実際にしているのだが。どうにも指先が動かない。


「…………馬鹿みたい……」


 この歳になって、初心な生娘になった気分だ。仕事関係の返信ならすぐさま返すのだが、彼に対してはどうも積極的に動く気が失せてしまう。

 部下には非効率や時間浪費を詰めているくせに、今の自分はどうだ。幼馴染への返信もそうだし、さきほどから仕事が全く進んでいない。


 これではいけない――と思い切った挙句、手早く返信を打つ。



>江崎嵐

『ごめん。今、忙しいから』



 至極、単調な文面。ありがちな理由。だがそれを突き付けておけば、相手も深く立ち入ってこないだろう。

 なにより返信するや否や、嵐は携帯をバックに押し込んだ。忙しくてメールを確認できなかった事にしよう。そう思いつつ、嵐は残りの仕事に手をつけた。



××××× ××××× ×××××



 明確な目安はなかった。最後のメールから3時間ほど経った後。溜まっていた仕事も一区切り――いや、がむしゃらに明日以降の仕事もしてしった結果、夜になってしまった。

 常に時間の管理がシビアな彼女にとって、珍しい失態だった。


 ビル街の照明が、休む事なくノッポな建物を照らす。織りなす車のライトが飛び交い、同じように歩道で数多くの人が行き交う。それをフロアの窓から眺める嵐。


 ――そろそろ大丈夫だよね。


 と、甘い観測と安堵。流石に3時間も待たされて、まだ喫茶店にいる事もないだろう。きっと呆れて帰っていることだろう。


「それではお疲れ様です。お先に失礼します」


 嵐は残った周囲の同僚に挨拶をして、下のエントランスへ降りる。最中、携帯は触らない。なぜならメールを読むのが怖いからに他ならないからだ。




●出版社”傑作館”/1Fエントランスフロア


 エレベーターから下りて、受付カウンターの社員に会釈をする。小奇麗なフロアを出ると街並みの喧騒が待っていた。

 いつもの帰り際の風景。だが、どこかしら落ち着かない足取りで足早に最寄り駅へと足を運ぶ

 道中、できる限り道路の垣根側を意識して歩いていく。理由は当然、彼に見つかりたくないからだ。


 出版社から数軒先に連なるスターカフェ。普段、打ち合わせやコーヒーを楽しみたい時に活用しているが、今日ほど恨めしいと思ったことはない。

 通らざる負えないこの立地、歩行者を眺められる大きな店の窓。まだ、縁はいるのだろうか。


「………………」


 つい、スターカフェを流し見てしまう。窓際のテーブル席が5席ほど。数人背中をこちらに向けて談笑している。


 ――いた。


 店内の端、ちょうど真横から彼の姿を認識できた。嵐が避けていた人物、俣野縁その人である。


「……あー……もう……」


 思わず、言葉にならない声が漏れる。呆れを通り越したからか。このまま通り過ぎる自分に嫌悪感を抱いたからか。いや、自分への嫌悪が強いか。とにかく、つくづくこうしたやり取りが心底もどかしい。


 ――いつからこんな積極的な子になっちゃんだろ……昔はもっと臆病で聞き分けがよかったのにな……



 純粋な好意を向けられても、今は答える事はできない。

 そう、5年前にキッパリと伝えたはず。

 

 だが、彼は時たまこうして彼女の目の前に現れる。

 それも強引に、時や場所をわきまえずに。


 嬉しいのか。悲しいのか。うっとうしいのか。

 それらの感情が入り混じるが、名前をつけず、区別する事もないまま。


 加えて、人の好意も素直に受け取れない自分が腹立たしいのもある。

 それは既読になったままのメールが物語っている。


 

 かつての告白、淡い恋心。

 約束という薔薇に覆われ。

 後悔という棘が、触る者を傷つける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ