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WOLF  作者: cou
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平野 鉄平

大変遅くなりました。申し訳ありません。

「ずっと聞きたかったんだけど、その目ってことは、家の一族の直系ってことかい?でも僕は今まで君みたいな子本家で見た覚えないんだよなぁ…そういえば水色ってことは儀式を受けたのかい?その若さで?いや、君が何歳かなんて僕は知らないんだけどさ。」


そうか、そうだよな。この目は血の濃さも関わってくるんだから自分の両親とか俺の場合はほぼ決まってくる。個人情報が目からバレるのはやっかいだな…ここで儀式について出てくるのか。ここで聞いたら長くなりそうだし、そもそも機密扱いだろう。下手に聞いて消されたくないし、ここはとりあえず曖昧にぼかすか。


「ああ、それは私もよくわかっていなくて。突然一族の屋敷に連れてこられたと思ったら見学に行ってきなさいなんて言われたものですから。儀式の内容すら知りませんよ。」


「そう、なのか。それは、だれに?」


深追いしてくんなよ。わざとぼかしまくってるんだよ。わかってるだろ?この調子だとこの人こそいつか消されるんじゃないか。


「そこの真名夏が総帥付きなので、私は一族の人間は総帥のことしか知りません。今はそこにあなた方も入りましたね。」


これ以上は何も知らないんだから聞いてくれるなよ、という思いを多分に含めて伝えると、平野さんは隊のまとめ役なだけあるのか少しうなずいてみせた。


どちらも何も言わないわずかな時間。そして向こうが何かを言いかけ、息を吸ったタイミングでバスなのだろう車がこちらにやってきているのに気づき、そちらに目を向ける。自然と、その場にいる全員が同じ方向を見つめる。真名夏はまだなにを見ているのかわからず、必死で目を凝らしているがやはりわからないようでこちらに聞きたそうにしていたが周りの空気を読んだのか見えるまで待つことにしたらしい。


「あれは、そちらの迎えのバスですか?」


「そうだね。そういえば、槇くんたちは僕たちと一緒に帰るのかな?」


ゆっくりとした動きでこちらを向いた平野さんの顔からは、疲労の色が色濃く出ている。それはそうか。戦いの苦戦に片腕の怪我、その上突然出てきた俺たちは謎に包まれすぎているし総帥がらみだ。今日だけでも、体疲れ以上に頭を使いすぎて正直今すぐにでも倒れ込みたい気持ちでいっぱいだろう。そう考えると、立たせっぱなしなのは悪いことをしたな。あちらにまで頭を回す余裕がなかったというのはいいわけにしかならない。


「すみません。今まで気がつけなくて。バスが来るまでですが座りましょうか。」


「いや、いいよ。そう言ってくれるのはありがたいんだが、今座ったら立てなくなりそうだ。気持ちだけ受け取っておくよ。君たちこそ疲れているだろう。俺に気を使わないでいいよ。」


なんだろう。俺たちにちゃんと気を使ってくれる大人に初めて会った気がする。

もちろん、祖父母は優しいししっかりとした大人なんだけど、外で、教師とかの仕事で心配するんじゃなく素で心配してくれる人が実在することに感動した。しかも何も知らないなんてこの間まで部外者だったこともわかっているだろうに。


「どうした?」


「…いえ。ご心配ありがとうございます。本当に。でも二人ともまだ若いですし、かすり傷一つ負っていないので大丈夫です。」


そう言うと平野さんは羨ましそうな目をして、


「そうか。若いっていいなぁ。若いのを抜きにしても、僕もそこまで強ければ傷を負うことも仲間を守ることも出来たのだろうな。強くなるための秘訣とかないのかい?それか、どうやってそこまで強くなったのか教えてくれないかな。もう遅いかもしれないけれどできるだけ隊員の傷ついた姿は見たくないんだ。」


自重気味に呟き、こちらにわずかな期待を滲ませる視線に応えたいと思うのは間違った気持ちではないだろう。だけどその期待に応えるための答えを俺は何一つ持たないことに心が痛む。だってこの人はただただ立派な人だ。きっと裏も何もない、仲間を守りたいその一心だけで動いている。もちろん立場上清廉潔白ということはないだろうけれど。


「すみませんが私は本当に何もわからなくて。運動能力が上がったのも最近ですし、ここまで力を持っている理由も、この目だって気付いたら現れているし。俺の方こそ教えてもらいたいですよ。この前までただの高校生だったのに、どうしてこんなことになったんでしょうねぇ…なにか前世で悪いことでもしたんでしょうか。」


後半は半分愚痴のようなものだ。疲れと初めて会う大人にきが緩んでしまったのだろう。軽い冗談まで言ってしまった。つい苦笑がもれる。

少し同情するような目線向けながらも、落胆を隠しきれずに肩を落とし軽いため息をついた彼は、はっと自分の行動に気づいたのか、


「すまない。その、君はなにも悪くないんだ。ただ、やっぱり生まれた時からの才能が物をいうのかなと思ってね。羨ましいよ。君にとってはいい迷惑だろうけどね。」


まあ、そうだろうな。別に怒ることでもない。俺はただ、首を横にふる。

その時真名夏が喜色満面の笑みでこちらを向いて、バスを見るためかぴょこぴょこ跳ねるから、彼女の一つに束ねてある髪が跳ねている。


「槇、槇!見えたわ!あれね?あれでしょ?あのバス!やっと見えたわ。」


はぁ…こいつ、さっきまで空気読めてたのにな。平野さんの方を見ると微笑しげにこちらを見ている。

周りの反応で今の状況を思い出した真名夏は熱くなった顔を両手で覆って隠した。

それを見て正面の彼はくすくすと笑って


「彼女をみていると、君たちが本当に高校生なんだってことがわかるよ。槇くんは少し大人びているからね。確かに、喋っている間に、随分と近づいてきていたようだ。そういえばさっき答えを聞きそびれていたけど、君たちはどうやって帰るんだい?」


ああ、まだ答えていなかったか。


「私たちは来た時に乗ってきた車があるので、それに乗って帰ります。」


そうか。と目を細め、優しい笑顔を浮かべた彼は後ろの部下達に一瞬目線をやって、姿勢を正した。両目はこちらをまっすぐ見つめている。


「お礼がまだだったな。素性がどうであれ、助けてもらったのは事実だ。なのに、我々はあなたがたに対して失礼な態度をとってしまった。申し訳ない。遅くなってしまったが、我々が今生き延びているのはあなたがたのおかげだ。本当に、ありがとう。助かった。こんな僕に何ができるかわからないが、いつでも力を貸すよ。命を助けてもらったお礼にもならないのが心苦しいんだけど。」


平野さんが頭を下げる。と同時に、彼の後ろにいた部下たちもできる者だけだが、頭をさげている。いつの間にか、警戒されていたはずなのにそれは解かれ、頭を下げられない横になっている者の目にも感謝の念が篭っていた。


突然で、驚いた。隣にいる真名夏も驚きに固まっている。ここまでしてくれると思ってなかったのもそうだが、この少しの会話で警戒を解き、完全に気を許したわけでもないだろうに命を救ってもらっただけでここまで感謝できるのか、と。

平野さんに至ってはうすうすこれが景子さんによるものだとわかっているだろうに、俺たちに力を貸してくれると言う。社交辞令かとも思ったが、あの目を見る限りその可能性は薄そうだ。

衝撃がなかなか抜けずなにも反応を返せないでいる俺たちに痺れを切らしたのか、顔をあげた平野さんは微苦笑を浮かべている。


「そんなに、僕たちは恩も義理も知らない人間に見えたかな?」


「あ、違うんです。いえ。そうですね、ここまでちゃんと感謝されるとは思っていませんでした。こんな身元のわからないような突然出てきた奴を警戒するのも当然だと思いますし。ですが、ありがとうございます。」


「私は本当になにもしていないのにむしろ邪魔しかしてないんですけど…感謝を受け取ってもいいんでしょうか。」


微笑みを湛えた顔で彼は、


「いいんだよ。君も力になろうとしてくれたし、何より僕らの心が君に癒された。ぜひ受け取ってくれ。むしろ受け取ってくれないと困るな。」


と言った。

それを聞いた真名夏は少し照れたような顔になっている。


「それじゃあ、本当に別れる時間が来たようだ。」


平野さんが目を向けた先にはバスが止まっていた。

さっきバスを遠くからみたときに気づいたのだが、戦っていた場所はそこそこの大きさの街の目と鼻の先だった。これだけ騒々しくしていたのに人一人出てこないのは、やはり結界が関係しているのだろう。


開かれたバスのドアは横ではなく後ろだった。車内は二階があり、一階は救急車のようになっていた。横になれるベッドのようなものが何個か置いてある。

そこに続々と重傷者から順に乗車していく。


最後まで残っていた平野さんは俺に手招きをしたかと思うと、真名夏から少し距離を取った物陰に連れてこられた。


「ごめんね、急に。槇君だけと少し話したくてね。僕は、君と会うのはこれが最後だとは思っていないよ。君は一人で大抵はなんでもできるだろうから、なかなか頼ってくれなさそうだ。でも、これからきっと大人の力が必要になる時がくるだろう。そのときは、遠慮なく僕に頼ってくれ。どうやら君の周りには、心を許せる人が少なそうだからね。…これを渡しておくよ。僕のエネルギーを結晶化したものだ。それは個人情報の塊のようなものでね。取り込むことで、必要な時に僕と連絡が取れたり、僕の居場所がわかったりする。取り込んだ後は消えるから、誰かにバレる必要もない。便利だろ?」


そうウィンクした彼には、さっきから驚かされてばかりだ。

もらった結晶は、手のひらに納まるほどの大きさをしていて、深い緑色に淡く光っている。心の落ち着く色だ。


「それから、あの少女のことなんだけど。」


目線を彼に戻すと、真剣な顔でこちらを見ていた。


「本人は気付いているのかわからないが、あの子からは総帥の気配を強く感じる。きっと彼女が報告しようとしなかろうと、彼女の目や耳を通して君を監視しているはずだ。今は僕が遮音しているから、内容まではわからないだろうけど警戒されているだろうね。だからこそのそれだよ。それなら、取り込んでしまえば誰にも気づかれない。まぁ、君が力を使いこなせるようになれば、なにも怖がる必要なんてないんだけどね。」


真名夏のことに関しては、薄々気がついていたが、確信には至っていなかった。ここで教えてくれたのは大きい。なぜ、ここまでしてくれるのだろうか。最後に、聞いてみようか。


「本当に、ありがとうございます。あの、なんでここまでしてくれるんですか?」


それを聞いた平野さんは軽く肩を竦めて、


「いや、特にどうというわけでもないんだけど。そうだね、僕には槇君と同い年の息子がいるんだ。だからかな。ああ、それとその結晶は今取り込んでしまおう。今なら、僕が彼女の目を誤魔化せる。少しだけだけどね。」


照れ隠しのように話を変えてきたな。そうか、父親なのか。少しこの人の子供が羨ましい。俺が、家族に対して羨ましいなんて思うなんてな。

しかし、短い間とはいえ、景子さんの目から逃れられるなんて実はこの人すごい実力者だったりするのか?いや、β隊の隊長を度々任されている雰囲気ではあるからたしかに強い人なのだろうが。誤魔化せると聞いて目を見開いてジッと見つめていると、目をそらされて、手で早くしろと促される。


手の中にある結晶を握りしめ、目を閉じて掌を意識する。

結晶の中にあるエネルギー体からはどこか暖かく、安心するような感覚が伝わってくる。それを徐々に吸収していく。目を開いた時には手はなにも握りしめられていなかった。

試しに、脳内で語りかけてみる。


『あの、聞こえますか?』


『ああ、聞こえるよ。この連絡方法は機械のようなジャミングなどはできない。でも、さっきも言った通り結晶は個人情報の塊だ。だから、表立って渡すことは忌避されている。君はそこら辺大丈夫だろうけれど一応言っておくよ。あとは、僕は君のエネルギーを取り込んでいないから僕からは連絡が取れないようになっている。なにか情報が欲しかったらいつでも連絡してくれ。別に、恋愛相談でもいいんだよ?』


「それは余計なお世話です。そもそもさすがに迷惑でしょう。」


茶化された。結構お茶目な人なんだな。でも、半分は本気で言っている気がする。


「迷惑なんて考えなくていい。子供は大人に迷惑をかけて大きくなるもんなんだから。ん?ああ、もう出発するそうだ。それじゃあ、またね。色々大変だろうけど、頑張ってね。」


「ええ。また会える日を楽しみにしています。」


仲間から呼ばれた彼はそう言った俺の顔を見て驚いた後に、顔を綻ばせた。

そして後ろ手に手を振りながら、部下たちと共にバスに乗って去っていった。


その後バスを見送った俺たちは歩きながら車へと向かっている。

すると隣の真名夏が俺の顔を下から覗きこんできた。


「ねぇ、槇。さっき隊長さんと何話してたの?」


「平野さんな。狼化についてとかいろいろだよ。真名夏にはまだ早い内容とかね。」


「なんてこと話してるのよ!」


「あれ、俺、内容いってないのに何想像して顔赤くしてんの?今日は真っ赤になるのに忙しいなあ。真名夏?」


まあこんな感じに言っておけばこれ以上追求はしてこないだろう。平野さん、ごめん。

そんなこんなで俺たちは結界が消えたことによってこちらに迎えにきてくれた落合さんに拾われ、屋敷へと帰ったのだった。

ここまで読んでいただき本当に!ありがとうございます。

誤字脱字報告、感想お待ちしております。


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