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WOLF  作者: cou
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5.むちゃぶり


さて、あれから現場へと半ば無理やり向かわされた俺たちは車に揺られていた。しかも浴衣…これは浴衣じゃなくて普段着の着物らしいが。正直どっちでもいい。せめて着替えさせろよ‼なにか理由はありそうだけどな。


「はぁ。真名夏。お前いつまで落ち込んでるんだよ。隣でいつまでもじめじめされると流石にうざい。」


あれから真名夏はずっと俯いたままだ。時折鼻をすする音がするのは聞き間違いなんかじゃないだろう。一応声はかけたし、まあこれ以上慰める理由もなし、ほっとくことにする。それよりも情報収集をすべきだろう。


出会ったときに落合おちあい かいと名乗ったその男はなかなかの体躯で、180近い身長の俺でも見上げなければならないほどだった。その大きさから運転をしている後ろ姿に圧を感じる。


「あの、少しお話を聞いてもいいですか?」


「ええ。一介の部下である私に答えられる範囲であれば。」


「これは、どこに向かっているのでしょうか。」


「景子様からはβの方たちが戦っている場所に迎えとの命を受けております。」


「βとはなんでしょうか。βということはαやΩなども存在するのでしょうか。」


また新しい単語か。今日だけでどれだけのことを頭に詰め込んだらいいんだ?


「そうです。戦う際に強さの同じもの同士でいくつかのパックと呼ばれる隊を組むのですが、上から力の強い順にパックの名前がα、β、Ωとつけられているのです。ただβパックはαとΩパックの間のすべてのパックの事を言うので複数存在します。といっても、ただメンバーが固定されていないだけですが。」


なるほど。


「Ωパック?に合流するのではないのですね。俺たちは見学に行くのに。一番安全なのではないのですか?」


「Ωパックとは、パックとは名ばかりの落ちこぼれ集団です。基本的には狼化できないので、戦うことはありません。主に見回りなどでしょうか。はっきり言ってしまうと、ただ血をつなぐための存在です。しかし彼らに流れる血は薄いので、別に子孫を残す強要はされませんし、別に寿命も削っていないので長生きはできますね。」


それ要は必要のない存在って言っていないか?さすがに頬がひきつる。


「それじゃあ彼らは、力を手にしようとするんじゃないんですか?」


「しますよ。しかし、器がないと判断された以上無理に力を得ようとしても待つのは苦しみの末の死か、完全な狼となり暴走することによっての討伐です。ほとんどの人はあきらめます。」


えぐいな。どちらにしろ死しかないんじゃないか。


「もうすぐ到着です。前に狼の群れがいるのがわかりますか?」


確かに、遠くの方に狼が集まっているのが見える。ここからじゃあまりはっきりとは見えないが…七匹ぐらい、か?あれ?そういえば俺、ここまで目が良かったか?一瞬脳裏をよぎった可能性に、背筋が冷える。これが本当なら、とうとう逃げることは叶わなくなる。確実に今までの生活はできなくなるだろう。学校でのことも考える必要が出てくる…最悪だ。頭が痛くなってきた。


「着きました。十分距離をとっていますが、お気を付けください。」


わざわざ外に出なくちゃなんないのか?もうこのままでよくないか。普通に見えるし。


「このまま車から見ていたらダメなんですか?」


「ここからでは詳細は見えませんし、車では結界があるためこれ以上近づくことは出来ません。」


結界?そんなものまで使えるのかよ。

あと見えないって言ってるがはっきり見えてるのは…もしかして、俺だけか?


「真名夏、お前、前の狼たちがどう見える。」


「なによ急に。ずっ…ぼやけてしか見えないわよ。よく狼たちって断言出来たわね?」


これではっきりした。俺は格段に視力が上がっている。真名夏の視力は確か1.8だった。それ以上あるということだ。原因は多分狼化だろう。他の五感も変わっている可能性がある。部屋の中からでも人の気配を感じ取れたのもこのせいだろう。ちょくちょく調べないとな。

そういえばようやっと顔をあげた真名夏だが…ひどい顔だな。汚いので車内にあったティッシュを渡してやる。


「……ありがと。」


こいつ絶対意外と優しい所もあるとか思ってるんだろうなーーー。やめろ。


車に残る選択肢が消えたので、さっさと出ることにする。


「落合さん。ここまでありがとうございました。」


「ありがとうございました!」


「いえいえ、仕事ですので。どうかお気をつけください。」


「あ、最後にこれだけ。結界には入れますか?」


「ええ。真名夏様は景子様についておられますし、槇様は一族の血が流れておいでですので。」


「わかりました。ありがとうございます。」


ふう。最後まで表情変わらなかったな。あの人。それより、ここからは引率なしかよ。目先にある目的地を見る。おいおい、もう戦い始めてるんだが!


「おい真名夏!もう戦いが始まってる。見逃したら来た意味がない。急ぐぞ!」


「ちょ、なんでそんなに見えてんのよ!いきなり走りださないでよね!もうちょっと女の子に優しくしてくれてもいいんじゃない⁈さっきまで泣いてたでしょ!てかあんた、足速くなってない?私と同じくらいじゃない。」


急にごちゃごちゃとうるさいやつだな。まあ腹の底がわからないやつよりよっぽどましだな。


「なにため息ついてんのよ!」


おっと。ついため息がもれていたらしい。


「足速くなったのは狼化したせいだろ!つーか大声出さないと会話できないんだ。大量温存のためにも少しは黙ったらどうだ?」


「ぐぬぬ……。」


ぐぬぬとか実際に言うやついるんだな。そういえば足は真名夏と同じくらいか。景色がまるで自転車に乗っているときのように流れていく。これでも意識がなかった時よりは遅い…と。


「なに考えこんでんのよ!もうだいぶ近づいたけどどうするの⁈」


確かに近いな。もう目と鼻の先だ。巻き起こされた風が肌に当たる。はぁ。さっきからやけに腹の空くいい匂いがするんだよなー。これはもう確定だろ。だが意識はまだ失っていない。


「ちょっと急に止まらないでよ槇!ていうか、あの人たち?人って言っていいのかわかんないけど、なんか苦戦してない?」


そう。目の前では戦いが繰り広げられているが、若干押されているようだ。よりによって向かわされた先が苦戦しているだと?あのくそババァ、絶対()()()やりやがったな。


「はぁ。しょうがない。これは狼になれってことだろうな。真名夏。一応目をつぶってろ。別に、俺の裸が見たいなら開けててもいいけど?」


「っはぁ?何言ってんのよ!人を変態みたいに言わないでくれる?」


コイツからかいがいありすぎだろ。馬鹿なやつもこういうところは面白いな。

赤くなっているのに気づいていないらしいから教えてやろう。


「顔赤くなってるけど?」


ぼぼぼっと更に熱くなった顔からは完全にあの人形のような冷たい皮の面影が消えている。

こっちのほうがよっぽどいいな。わかりやすくて。


まだわーわーと何か言っている真名夏を尻目に目を閉じて集中する。

きっと景子さんはわかっていたんだろうな…次は気を失わずに変化できると。あの人の頭はどうなっているんだ。

さっきあの匂いが鼻をかすめた時から、体の中に流れるエネルギーのようなものに気づいていた。

これは新しく生まれたわけではなく、俺が今まで気づかなかっただけで生まれた時からそこにあったような感覚がする。匂いによって活発化したことで俺が認識できるようになったのだろう。


俺が急激な身体能力の向上に何の違和感もなかったのは、元から体になじんでいたこともあるがもう一つ、活発化によって使えるようになったエネルギーによるサポートがあり、いつもと変わらない出力でのあの速さにつながったのだろう。…初めて走るのが長い直線でよかった。下手したら壁に強打していた。


このエネルギーは体中の血管よりも細かく隅々まで流れている。体の中から生まれているものは少量で、ほとんどは地面から取り込んでいるようだ。完全にものにするには相当な時間が必要だろう。だが今必要なのは繊細な操作じゃない。正直ほぼ本能的にわかる。

それを言語化すると、変化に必要なのは狼になるイメージ。さっき少し試してみたところ、頭の中の想像とともにエネルギー回路が変化していくのが分かった。人間の体がどうなるのかが不明だが、大丈夫という謎の自信がある。しかし人間じゃなくなる以上憂鬱な気分はぬぐえない。


思考がそれた。集中を深くしていき、自分が狼になるイメージを固めていく。

自分の体が獣のそれへと変っていくのがわかる。痛みなどは感じないが、何とも言えない気持ちになる。ていうか明らかに人間の時の質量とみあっていないがどうなっているんだ。

しばらく、といっても実際には1、2分程度たった頃に体が完全に変わっていることを確認して、目を開ける。

初めに目に入ってきたのはそろそろと目を開け、次第に大きく目を開けていく真名夏の姿。

目線を落とすと、犬のような、まぁ狼なのだが、毛に包まれた足が見えた。毛艶はよく、光加減で所々にある白や灰色にある毛がきらきらと光って見える。

本当に俺の髪の毛そのままなんだな。俺の母親が灰色ベースにプラチナのような白が混じっている髪だったからか、俺の髪は三色混ざっている。普段はわからないが、時々光を反射したときなんかは、よく綺麗と言われる。


次に、軽く歩いてみる。不思議なことに、まるで最初からこの体だったかのように自由に、そして自然に動ける。時折首を振るなどの本能的な動きもしてしまうが。

これなら戦える。というか狩りの仕方が体にしみこんでいる。さっさと行こう。さっきからあのイミテーションからいい匂いがしてきて、腹が早く食えと訴えてくる。口から出てくるよだれを止めることができない。


呆けている真名夏に行くぞと言おうとしたが、当たり前のように出たのは


「Gau!」


という声だけだった。

会話は今後の課題か。まあ謎の力を使う一族だ。もうすでに会話する方法は確立されていそうだけどな。

とりあえずここに真名夏は放っていこう。どうせ一人でも何とかするだろ。


最後に真名夏を一瞥して、俺は餌場へと駆け出した。

面白い!続きが気になる!


と思ったら、下の☆☆☆☆☆から評価お願いしますm(_ _)m

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