ーマナの影ー
「そうか・・・・
それなら、
マナに、
別の村に兄弟や、両親がいた可能性はないのか?
・・・さすがに、あれだけの呪具の影響があった村で
生き残りがいたって事は無いだろうしな。」
アカズサさんは、当時を思い出しているのだろう、
その眉間には皺が寄っている。
「・・・・マナは、
村長の娘だ。
元々、
あの村で生まれ、
あの村の為に生きて、
あの村の為に死ぬ運命だった女なんだ。」
ーー・・・・・・そんな・・・・・ーー
私は、思わず声に出てしまった。
「ま、そう言う時代だったんだよ、
僕の記憶が正しければ、
巫女の役職に就いた者は、
生涯その純潔を守り、
決してやや子を成す事は叶わない。・・その代わり、
衣食住には、困らない生活を約束されていたはずだ。
神々の啓示を受ける大事な人柱だからね、
村人の中でも、恐らく村長の次位の地位はあったはず。」
ーー・・・・・やや子・・・・・ーー
私は、同じ女性として、
マナさんの事を思った。
・・・・いくら時代が違うからと言って
たとえ好きな人ができても、決して結ばれる事もなく。
普通に結婚できていればいずれは身籠って、
産まれる日を待ちわびて
再会するはずの赤ちゃんも、
一生、
その手に抱けない事実は・・・・
・・・・一体・・・いか程の思いだったのだろう・・・
私が、
あまりにも黙ったままなので、イオリくんが口を開く。
「・・・シオン、お前が、
昔の人間の苦痛まで共有する必要はないんだ。
それが当たり前だった時代なんだ、
当時あちこちにいた巫女達は、
さっきも話したように、巫女となれば一生
生活に困らない人生が約束される。
なりたがる者も多かったんだ。
お前が考えているほど深刻に捉えてるヤツは
そう居なかったよ。」
イオリくんは、そう言うと、
私の頭を不器用に叩く。
・・・少し、・・・・・痛い・・・・
「・・・お前等ニンゲンの悪い所だ。
直ぐ自分の価値観で他者を計ろうとする。
お前の価値観はあくまでお前だけのものなんだ。
感情移入するのは勝手だけど、
マナはとっくの昔に死んでいるんだ。
その行為に意味があるようには
僕は思わない。」
ーー・・・はい、・・・ごめんなさい。・・
イオリくん。ーー
私にはそれしか言えなかった。
「・・・成る程な、
じゃあ、血縁者の線は消えたわけだ。
・・・なら、<死の番人>は、
わざわざ無関係のシオンをーアチラ側ーから
拐ってきて、
シオンの本来の姿を消し、
マナのそれに似せたって事なのか。
・・・その為には、
(声)と(縁)が邪魔だったと言う事なのだろうか。」
そう考えると、辻褄は合う。
とりあえず、今ある可能性は、
私は、マナちゃんそっくりに、
<死の番人>によって、
似せて作られた。
そして、<死の番人>は、
記憶の大半を失った、マナちゃんそっくりの私を探している。
・・・何故?
このまま<死の番人>に捕らえられてしまったら、
・・・私はどうなってしまうのだろうか。
「・・・それにしても、随分と面倒な事をしてるよね。
生きた生身の女に、死んだ人間の女の影を縫い付けるなんて、
そんなの、死んだ人間でやる方がずっと簡単なのにさ。」
イオリくんは、<死の番人>のやり方に疑問を持っているみたい。
「・・・生身の人間に死者の影を縫い付ける
・・・まるで、一昔前にーコチラ側ーで話題になった
死者蘇生の実験みたいだよな。」
アカズサさんは、顎に手を置きながらそんな事を言う。
ーー死者蘇生・・・漫画か絵本の世界の話ですね。ーー
私がそう言った直後、
イオリくんが突然
ダンッ!
と
テーブルを叩いて
椅子から立ち上がった。
「!!!!!!そうか、死者蘇生だよ!!
<死の番人>からしたら、
それはまさに禁忌中の禁忌、
昔にその地位を追放されたってのも、
死者蘇生の件が絡んでいたのなら、あり得る話だ。」
イオリくんは、さらに捲し立てる。
「そこへきて、
シオン、お前だよ。
お前はマナの影を縫い付けられている。
多分それは間違いない。
さらに、(声)と(縁)は<死の番人>に奪われている。
アイツの目的は、
・・・・マナをその手で生き返らせる事だ。」
私と、アカズサさんは、
何も言えずに呆然とするしかなかった。