7-13 魔砲な魔法
と、突然コイコさんが一歩前に出る。
何を、するつもりなのか。
「あら、今度は君が?」
くすくすくす。
「……トキコさんを守れって言われているんです。貴方みたいな妖怪から」
「駄目だよ。君じゃあ遊び相手にもならない」
「……それでも」
コイコさんが、腰を落として地面に右手を付く。それで、何をするつもりなのか。小さく何かを呟くように聞こえた。
「……そう。君があの魔女の継ぎ、という訳ね」
ブルカニロは、なんだか理解したみたい。“あの魔女”って……? なんだか魔女って聞くと嫌な思い出があるんだけど。
コイコさんが立ち上がる。
「やるだけやらないと、先輩に顔向け出来ないんですよ!」
その、地面に付いていた右手には、光るものがくっ付いていた。
なんだろう。地面には光るものなんてなかったのに。
……もしかして。あれが法術っていうやつ?
だとしたら、あの光は――。
「行きます!」
光るものを手にした右手を、眼前にかざす。まさにそれこそ、攻撃の合図。
そして、
「砲術――フレイア!!」
光るものが、更に大きく光って、
どごう!!
大きな音。それと共に、大きな光が人形に向かって放たれた!
光は線になって、人形に光が吸い込まれていくように見えて――そして、光に覆われて見えなくなった。
初めて見た。これが法術か。凄いな。無茶苦茶強いんじゃないかこの人。
「――うん。強い。だけど凄く惜しいね」
――ブルカニロの声。
それが聞こえたと思った時には、光がやんで、ブルカニロがコイコさんの目の前に居て、前屈みになってて見上げてるような姿勢をしてて。
「な――」
コイコさんも、絶句して、驚きの顔を見せた。
嘘、いつの間に――と思ったけど。よくよく考えればあいつは時間を止められるんだった。即ち、どんな大火力を放ったとしても、それが当たる直前に時間を止めて、その場から離れれば――。
「それだけだと五十点だね」
ブルカニロが、何かを言った。
「君に言ったんだよ。アサギ トキコ」
こっちに向かう。私に、言った?
私の何かが、五十点? なんの事だ、さっき思った事がか?
「そう。正確には、私はこの場の時を止めているんじゃない。そんな事をするととても疲れるからね。その、ヤソマ コイコみたいに」
何を言っている――と思って見てみると、コイコさんが突然膝を付くように崩れ落ちた。
「コイコさん!」
寄っていって、慌てて体を支える。一体どうした? あのブルカニロに何かされたのか? 荒い息をしてるコイコさんは、傷付けられたようには見えないけど……。
「失礼な。私は何もしていないよ」
心の声に突っ込みを入れるのはやめて欲しいんだけど。じゃあ、何もしてないならどうしてコイコさんは。
「容量不足。それが君の弱点だよね」
ブルカニロは、今度はコイコさんを見下ろすようにして言う。
「フレイアとは、源素の豊富な土から術力を引き出し、指向性を持たせて放つ“魔術”。西方由来のね。だけどそれを撃つ為には自分の術力を大きく消費する。アサギ トキコ、君風に解りやすく言うと、ヤソマ コイコはMPの上限が低いって所かな」
何か、RPG的な説明をされた。
あれか。強力な魔法を使える代わりに、それ一発で魔力切れになるっていう、
一言で言うなら、一発屋って言うの。
――くすくすくす。
「ヤソマ コイコ。君はフレイアを撃てる素質はあるけれども、それ以外の適正が低い。それは一発屋と言われても仕方がないよね」
なんの事か。私は思っただけで言ってないぞ。
だけど、これはまずい。
私は先に進もうとしても戻される。コイコさんの強力な一撃も簡単にかわされる。そもそも、コイコさんは凄く消耗してしまっている。さっきの――フレイアって言ってたっけか、その二撃目を撃てるとは思えない。
……どうしよう。これは詰みか?
とばりと出会う、それを目の前にして、ずっと足止めをされるのか。
――おーほほほほほほ!!
突然の大きな笑い声がこの場に響いた。
なんだなんだ、と見回してみても、声の主が見えない。
「先輩っ!」
コイコさんの声。見るとコイコさんは、私達の後ろの方の、木々で覆われた空の方を見上げていた。
同じく見てみる。そこには、
「いいご身分ですわねそこの人形妖怪。わたくしの大切な子を玩具扱いするなんて」
一つの木の上、その太い枝の所に、右目に眼帯をした女の人――リリムラさんが居て、私達の方を見下ろしていた。右手の甲を口元にやって、高笑いみたいな事をしていた。おまけに光の糸がスポットライトみたいな役割をして、リリムラさんを照らしていた。
……わざわざ登ったの?
しかもなぜか、前には着てなかったマントみたいなのを羽織ってるし。外行き用なのかな。
「これはこれは。寺院の教師さん」
ブルカニロも、木の上の人影を見上げて言う。だけど特に大きなリアクションとかはない。殆ど意に介してない様子だった。
「わたくしを知っている妖怪とは、また珍しいですわね」
くすくすくす。
「私はなんでも知っているよ、リリムラ クグルミ。例えば――君がその右目を失った理由とかもね」
――そうブルカニロが言った瞬間、リリムラさんの顔が微妙に怒りを含んだ、みたいなものになった。
「……どうして、知っていますの」
低い声が、この場に響く。
「見たんだよ。実際に見て、そして結果もここにある。眼帯で目を塞いでいる君というね。ならその過程も正しいものと思えるんだけど」
「――そうですの」
言った途端、頭上のリリムラさんがマントを翻す。
――するとそこから、大量の何か、先の尖った小さい槍のようなものが出て来た。そしてそれらが、リリムラさんの周囲でふよふよと浮かんでいた。
「なぜやらどうしてやら、そんな問答も無粋ですわね。一つ確かなものは――貴方はわたくしの想いの中に土足で踏み込んだ」
そう言うリリムラさんの声は、とても冷たく、この身にさえ突き刺さるようで――。
「その点だけは許せませんわ」
怒気を孕んだリリムラさんの声。そして、なぜだか解るけど、周囲に浮かぶ小さい槍は戦闘行為の宣言だ。見た感じ、あの小槍は七、八個くらいはあるだろうか。あれも、法術なんだろうか。
対するブルカニロは、扇子を持って、只くすくすと笑うだけ。
……リリムラさん、あいつをどうにか出来るのか? 時を止めて、更に人の心を読めるような奴に。
リリムラさんが、ふわりと木の上から飛び降りる。それに付いていくように、周囲の小槍も一緒に降りていく。
「――舞いなさい」
そう一言。命令をした。
言った途端に、リリムラさんの周囲の小槍が、一斉にブルカニロに向かっていく。
そして、ブルカニロの周囲を回るそれら小槍の先から、光の線が一斉に発射された。
これは、まるで某ガン○ムに出て来るファンネルみたいだ。遠隔操作が出来て、周囲全てからの、オールレンジ攻撃を可能にする機動兵器。それらがブルカニロに襲い掛かっていく。
――だけど。
リリムラさんが、ふわりと地面に降り立つ。その時には、ブルカニロは全く涼しい顔をしたままで。
全周囲からの攻撃を、完全にかわしきって。
そしてまた、くすくすと笑う。
「なかなか面白い技を使うね」
余裕な顔は崩れない。なんで、全ての攻撃を、見えない方向からの攻撃さえもかわせたのか。
……決まってる。時を止めたとしか思えない。そうして、小槍の先が向いてない方向に逃げたんだろう。四方八方からの同時攻撃をかわすなんて、それくらいしか対処が思い付かない。




