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終わるアリスの刻 -Mystic Princess  作者: 真代あと
第七話 二重へと至る道

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7-7 或る彼の終わりからの始まり

 ……わたくしは、あの子に救いを与える事が出来ませんでした。

 全てをなくしてはいない。それこそがあの子の生き続ける糧になった筈。

 だけどわたくしは、それを指摘する事が出来なかった。

 救いへの道、そこに誘導する事が出来なかった。

 ……この、空っぽの右目。これこそがわたくしの罪、そのものであると思いますわ。

 永遠に消えない傷。

 永遠に消えない罪。

 そして永遠に変えられない結末。

 わたくしに課せられた、全くに相応しい、これ以上のない罰であると。

 ……そう思って、今もわたくしは生きていますわ。今はもう居ない、あの子達の事を思いながら――。




 ――次に意識がはっきりした時には、私は冷たい木の板の床にうつ伏せになって倒れていた。

 ……身を起こす。ここはどこなんだろう。なんだか明るい所。日のあったかい所。立ち上がりながら、辺りを見回してみるけど。

 目に付くのは、赤い柱。それが何本も立ち並ぶお寺みたいな廊下に居た。どうやらどこかの建物の中らしい。左側を見れば外。日が真上から差していた。

 今は昼間。勿論、私達が居た“今”とは違う。“今”は、パーティーもたけなわな夕方近くの筈だったんだ。

 ……まあ、そんなの今更な事だけど。“今”とここの時間が違うなんて事は。

 問題は本当、ここがどこなのか。それととばりがどこに居るのかだ。

 取り敢えず、穴の確認をする。私達が帰るべき穴。私達にしか見えない、入口であり出口。それがない事には――。

 ……あれ?

 振り返って、左右、上下、前後ろ、

 全部を見回してみても、目当ての黒い穴らしきものがない。

 え、え、ちょっと待て。

 それがない事には元の世界に帰れないんだけど。そんな事今までなかったのに。

 まずい。本当にない。どこにもない。これじゃ帰れない。どうすりゃいいんだ。いや落ち着けー落ち着けー。

 パニックを起こし掛けていると、廊下の向こうから二人、女の子がやって来るのが見えた。……女の子だけど、二人共着ている服が和服っぽかった。イメージとしては、明治辺り? の女性の服装。羽織る感じの振袖と袴。

 はてここは一体どういう時代でどういう文明の所なんだろうな。見た通りなら、過去の日本?

「ちょっと、貴方、大丈夫ですか?」

 その女の子の一人に見付かって、声を掛けられる。他人から見れば、これは一人で右往左往してる、変な女が居るってだけだ。普通は声を掛けられるか、或いは引かれて逃げられるかの対応がなされる事だろう。

「あ、いえ、大丈夫です」

 本当は全然大丈夫じゃないんだけど、ここで現地人に不信感を持たれるのはいい事じゃない。

「そう? その割には、何か汗を掻いてるようだけど……」

 それは間違いなく冷や汗です、はい。

「誰か、先生、呼んで来た方がいいかな」

 いや、これ以上面倒事になるのは避けたい所。

「あの、本当気を遣わなくて」「あ、先生ー」

 うああ早速面倒事に!

 後ろを向いて手を振る女の子。その方向に目をやると、そこに現れたのは、女の人。

 綺麗な人だった。妙齢の女性で、腰まで届く長い赤髪、端麗な顔立ち。すらりと背の高い人。この人も女の子達と同じような和服姿で、手には何かの書物を持っていた。

 だけど、全体を見てもとても目を引く所が一つある。

 目の所。その右目には黒い眼帯が掛けられていた。

 どんな先生だよ。と突っ込みを入れそうになったけど。……先生? そう言ってたよな。じゃあここって学校か何かなのかな。

「あら、何かしら」

 先生と呼ばれた人がこっちに気付く。どうしよう、今逃げたら完全に不審者だし。観念して誤魔化すしかないな。

「あの、この人がちょっと、気分が悪そうなんですけど」

 私の方を指差しながら、もう一人の女の子が言う。

「あらあら、それはいけませんわね」

 先生が、私の所にまでやって来て、顔を覗き込むようにした。

「大丈夫かしら、貴方」

「あ、はい……大丈夫ですけど」

 内心は全然大丈夫じゃないんだけどな。なんたって帰り道がない。違う世界で一人っきり。そりゃあ気落ちもするって。

「ふうん……」

 なんだかいぶかしむみたいな顔をして、こっちを見る先生。

「――まあ、いいですわ。とにかくこの子はわたくしが預かります。貴方達はお戻りなさいな」

「あ、はい。解りました」

 そう言って、この場を離れていく生徒? 達。

「さて」

 先生が、生徒を見送って、そしてまた私に向かう。

「取り敢えず、落ち着ける場所に行きませんこと? わたくしの工房へといらっしゃいな」

 そうして、先生が手を差し出す。

「あ、はい……」

 私はなんだか夢現な気分だった。この先に対する不安。そのせいで頭がぼーっとして、オーバーヒートしてしまってるんだ。

 帰り道がない。それだけで、なんだか絶望的な感じになってしまっている。これから一体どうすればいいんだろう。せめてとばりが見付かれば――。

「ここでぼーっとしていてもなんにもなりませんわ。とにかく付いていらっしゃい。話は工房で聞きますわ」

 先生が、私の手を掴み、歩くように促した。

 帰りの穴がない以上、この場所――始点を憶えている必要もないな。とにかくとばりを探す事に専念するしかない。その下地の為にも、この世界の事をある程度知っておく必要はあるだろう。

 学校(?)の中を、私と先生とで歩いていく。なんだかこの中、古めかしいとでも言うのか、ずっと前にテレビか何かで見た古代日本の神殿みたいだなって思ったり。

 ――もしかして、ここは日本と何か関わりがあったりする? いやまさかな。どのみちここは私達の本来居た場所と違う、異世界なんだ。


 先生に案内されて、学校の中の奥、とある一室に連れて来られた。

 ……途中、何人かの人(みんな和服だった)とすれ違ったけど、みんな私を変な目で見て来るんだ。失礼な話だよな。服装がちょっと違うってだけじゃないか。中身まではそう変わらんと思うぞ。

 そうして、部屋の前、引き戸になっている木製のそれを、先生ががらがらと開ける。

「お入りなさい」

 先生が先に戸の向こうに入って、続けてそう言われたので、「はい」と返事しつつ、先生のあとを付いて行って入る。

 その中は――どう表現すればいいのか。一人で居るにはちょっと広い(多分私の部屋より広い)所で、部屋の奥側、半分くらいが大量の謎の荷物でごっちゃになってる。反対に部屋の手前側、もう半分くらいは綺麗な部屋で、机とか、その両脇にソファみたいなのとかがあって、くつろげそうな所になっていた。

 確か、先生は“工房”って言ってたよな。職員室とかでなく。ここがそうだとして、一体何をする場所なんだろう。只の部屋じゃない事は間違いないだろうけど。

「さて――」

 先生が、机に書物を置いていって、それから部屋の奥に行く。綺麗とごっちゃの中間辺りの所で、何やら作業をしだす。

「貴方は取り敢えずそちらにお座りなさいな。そこに椅子があるでしょう?」

「あ、はい……」

 椅子……このソファの事かな。まあ、言われたからには座らせて貰うけど。

 あの先生は一体何をしてるんだろう。なんだか湯気の立ってるみたいな入れ物を持ってるけど、もしかしてあそこは台所、なのかな。

「今、お茶を淹れて差し上げますわね」

 やっぱり、先生は台所に向かっていたらしい。

「あ、お構いなく」

「お話をするなら落ち着いた方がいいでしょう? 少しだけお待ちなさいな」

 そう諭された。まあ確かに、これはここの情報を知るいい機会だけどさ。

 という訳で待つ。数分もしないうちに、先生は湯気の立つ湯呑を二つ、持って来る。

「どうぞ、お茶が出来ましたわ」

 私の目の前、机に湯呑を一つ置いて、先生はもう一つを持ったまま、私の向かい側のソファに座った。どうやらこの中身、緑茶らしい。ますますここが日本っぽい所だと思えた。

「頂きます」

 湯気の立つお茶を、ぐいっと飲む。熱いのが喉を通っていく、なんとも言えない感覚、これは結構好きだったり。

「うん。美味しいです」

 素直な感想を、一つ述べる。

「それは良かったですわ。このお茶は特別製なんですの」

 先生も、お茶を一口すする。優雅な人――その言葉がそのまんま当てはまるようで。

 そして飲んだあと、先生は大きく息を吐いた。

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