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終わるアリスの刻 -Mystic Princess  作者: 真代あと
第七話 二重へと至る道

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7-2 華やかな一日

 ――次の日。日曜日のお昼前。

 休みの日なんだけど、私は今、ちょいと小洒落た服(と思っている)を着て佐倉家の玄関の前に居る。

 その玄関の向こう側からは、賑やかそうな、ここからは小さな声が色々と聞こえて来ていた。

 ……なんだか緊張するなあ。私なんかが、本当にその中に入っていいんだろうか。身分がどうとか、年齢がどうとか、緊張要素はいっぱいある訳だけど。

 まあ、ここで悩んでても仕方ないか。行くって約束してる訳だし。

 ぴんぽーん、と、玄関の呼び鈴を鳴らす。

 あとは勢いだ。どうにかなるさ。

『――はーい』

 と、呼び鈴のスピーカーからとばりのお母さんの声が。

「あの、浅木時子です」

『あら、いらっしゃいー』

 おばさんの、いつもののんきな声が響いて来た。

『どうぞどうぞ、入って下さいなー』

 入る許可を頂いた。

 ……昨日は思っていたのと違う話だったから、ちょいと混乱して二つ返事でパーティーの参加を了承したけど。よくよく考えたら何かのパーティーに参加するなんて事、初めてじゃないか。しかもお金持ちの。どんな人が集まるのか、何かマナー的な粗相をしたりしないか、今深く考えるとなんだか不安な気持ちにもなってしまう。

 まあ、ホームパーティーという事でイメージするのは、親しい人やらご近所さんやらが集まって、談笑していたり、食べたり飲んだりするって事くらいだけど。

 まあいいか。今更あとには引けないんだし。意を決して門を開けて、くぐる。


 ――門の向こうは別世界――とは誰が言った言葉だったか。門はこちらとあちらの世界を仕切る、特別な意味を持つものってな話を聞いた事がある。

 広々とした庭、門から左、開けた方には、老若男女、何人もの人が集まって見えて、集められた、大きなテーブル。その上にはたくさんの食べ物飲み物が並んで見えた。

 まあ、門をくぐると、外とはまるで違う、賑やかな場になっていた、という事だ。

「ようこそいらっしゃいましたー時子さん」

 とばりのお母さんが、家の方から私の所にやって来る。やっぱりパーティーだからか、昨日とは違っておめかし度がアップしてそうな服装だった。綺麗なドレスみたいな恰好。うん、やっぱりお金持ちにはそういった服が似合うんだろう。

 対する私は、貧乏学生に相応している、ロングのパーカーとジーンズだった。まあホームパーティーって事だから、別におめかしする必要もないかと思っていたんだけどな。自分の中では洒落た服装な方だと思ってるんだけど。

「こんにちは。今日はお招き頂きありがとうございます」

「まあまあそんな堅苦しくならないで。楽しんでいって下さいな」

 そう言ってくれるお母さん。だけどどうかな、楽しめるものかなあ。だって知らない人もいっぱい居るし、多分佐倉家のご近所さんなんだろうけれど。私は意外と人見知りするたちなんだから。

 ……と、思い至ったけど。ここに集まってる中――知らない人が多い中で、私のよく知るとばりの姿が見えない。どこに居るのかな。あの子も私以上に人見知りをする癖があるからなあ。

「あの、とばりはどこに居るんでしょうか」

 そうお母さんに訊いてみる。

「あら、さっきまでそこに居たんだけど……」

 きょろきょろと、辺りを見回すお母さん。

「まあ、お手洗いにでも行ってるんでしょう」

 そう言って私の方に向き直る。

 そうなのかなあ。私的な予想としては、知らない大人が多いからどっかに隠れて様子を窺ってるんじゃないか? って。

 そう思って家の方を見回してみると、居間に通じる大きなガラス戸のある所から、顔だけ半分くらい出していた少女の姿を発見。

 目線が合うと、ひょいと顔を引っ込めてしまったけど。あれはとばりだな、間違いない。

「ちょっと、中に入らせて貰ってもいいですか?」

 家の方を指差して、お母さんにそう訊く。

「え? はい。いいですよー」

 了解は貰ったので、ガラス戸の方に向かう。開けっ放しの戸の直前で靴を脱いで、ゆっくりと居間に上がる。すると、その戸の真横に寄り添うように、陰になって溶け込んでいるように床に座り込んでいるとばりの姿があった。

「こんにちは、とばり」

 そっちの方に向かって、挨拶する。とばりは両手で本を持っていて、それで口元を伏せるような格好をしていた。

「……こんにちは時子」

 とばりの方も、しっかりと私の方に向かって挨拶した。腰まで届く長い黒髪の、白いワンピースを着た少女。その格好は日曜日でも変わってないらしい。お洒落をするっていうのは、あんまり興味がないんだろう。

「どうしたのとばり。パーティーには参加しないの?」

「……私は、そういうのは苦手です」

 よく見ると、とばりの手だけじゃなく、その傍には何冊かの本があった。これは外の様子を窺いつつ、溜め込んでいた本を読んでいたって所か。

「知ってる人とか、居ないのかな?」

「居ますよ、一応。只、進んで交流をした事はないです」

「ああ、そうなんだ……」

 人見知りにも程がある感じだよな。かく言う私もあんまり人の事は言えないんだけど、交流しようと思えば出来るからな。

「私はお腹がすいたよー。だから取り敢えず食べさせて貰いに行くよ」

「はい。私はここで、本を読んでいますから」

 そう言って、とばりは本の方に目を落としてしまった。もう本を読む以外に興味はなくなったらしい。

「じゃあ、私は行って来るわ」

 とばりをこの場に残して、私はまた庭に出る。とばりは手元の本に目線を落としたまま、何も言わなかった。没頭しちゃってるんだ。こんな時には何を言っても動きやしないと、私はよく解ってる。


 居間の方から広い庭へ。そこではとばりのお母さんが人々の中心に居て、他の人達と談笑していた。

「あ、お帰りなさい。とばりは居ましたか?」

 お母さんが、私に気付いて話し掛けて来る。

「はい。でも読みたい本があるみたいで」

「そうですか……」

 ちょっと残念そうなお母さん。私もそうだ。とばりと一緒にご飯食べたりしたかったんだけどなあ。

「まあとにかく、料理も飲み物も充分にありますので。気を遣わずにどうぞ」

 そうだな。折角の機会なんだ。ご飯食べたりお酒飲んだり、迷惑掛けない程度に楽しませて貰いましょう。

 という訳で、酒池肉林の場に突入。

 すると横の方から、「わんっ」っていう犬の鳴き声が聞こえた。

 庭の左、みんなが集まってる方だ。見ると、今まで知っていたよりもちょっと活発になってるレトリバー、どるまん(仮名)の姿があった。

 どうやら人がいっぱい集まっていてどるまんも大喜びらしく、いろんな人の所を回っては餌をねだったりはしゃぎ回ったりしていた。

 それでいいのか飼い犬よ。ドーベルマンのようにたくましくなって欲しいと、どるまんと勝手に名付けた私の立つ瀬がないじゃないかよ。

 ……まあ、楽しんでいそうだからいいか。

 私も早速、色々食させて貰おう。人の集まってる所に行って、いろんな(知らない)人に挨拶をしながら空のお皿を取って、そこに次々食べ物を乗せていく。タダで豪華な料理を食べられるんだ。目一杯食い溜めさせて貰おう。

 お酒も高級そうなのが揃ってるっぽいけど、まずはしっかり食べてからだ。そうすると胃腸の負担が少なくて済むからな。

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