6-10 お土産2
……暗い暗い穴を落ちていって。気が付いたらそこはとばりの部屋だった。
「帰って来ましたね……」
隣には手を繋いだままのとばりが居る。
こうやって日常の世界に戻ると、本当に私達の体験が夢だったみたいに思える。
だけどそれは本当にあった事だ。二人しておんなじ夢を見てた、なんて事はないだろうから。
「どうしましょう。ちょっとお茶でも淹れてきましょうか」
とばりが、そう提案してくれる。確かに、私達は勉強中だったんだけど、ちょっと落ち着く時間も必要だな。
「お願い出来る?」
「はい。ちょっと待っていて下さい」
とばりが扉の方に向かう。そして、私はその場で腰を下ろす。
――下ろそうとしたけど。
ぐっと体勢を変えた所で、一つ違和感があるのに気が付いた。
それは、ズボンの後ろポッケから。
あ。
しまった。今の今まで失念してた。
――あの時、私達が襲われた時に、男達から取り上げた刃物の一つ。どこに隠しておくのがいいかって、ずっと持ってた訳だけど。
持って来ちゃったよ……ナイフのような短い刃物。色々あって置いて来るのを忘れていた。どうしよう。この日本には銃刀法違反という法律があってだな。
このまま持っているのはまずい。誰かに見付からなかったらいいんだけど、犯罪の証明みたいなものをここに置いたままにしておく訳にもいかない。あのごろつきが、これで何を切って来たか、解ったもんじゃないもの。
「……そのナイフは?」
とばりが部屋を出る直前に、私の持っていた刃物に気が付いた。
「……お土産?」
「はあ?」
意味が解らない、っていうみたいに首を傾げるとばり。
「って、持ってたの忘れてたんだよー、どうしよう」
「どうしようって言われても」
そりゃあ困るよなあ。こんなものを処分する方法が解らない。警察に持っていく? 多分その場で捕まっちゃう可能性が高いだろうけど。それに詳しく調べられたらもっとまずい気がする。血とか何かの成分が出て来たらどうしよう。
「……仕方ないですね」
本当、仕方ないといった感じで、とばりは首を竦めた。
「それはここに置いていって下さい」
そしてなんでかそんな事を言ってくれた。
「ちょっ、危ないでしょそんなの」
いろんな意味でな。物理的な意味でも危ないだろうし、それにもしこれがとばりのお母さんなんかに見付かった日には、お説教なんかじゃ済まない、家族会議にでもなっちゃうかも知れないぞ。
「外に持ち出す訳にもいかないでしょう。私が処分しておきます」
うー、もっともだけど。もっともだけどさ。
「それとも、時子はおまわりさんに捕まりたいんですか?」
「うー……」
それは嫌だ。私は前科者にはなりたくない。
「渡して下さい」
手を差し出すとばり。
どうしたものかな。とばりなら、これをどうにか出来るんだろうか。まさかこの金属、簡単に跡形もなく処分出来る筈もないだろうに。
「……一つ訊くよ。これどうやって処分するの?」
手に持ってる、ナイフをひらひらとさせながら訊く。
「私にしか出来ない方法で、です」
とばりにしか出来ない方法……?
……って、まさか。
「勘がいいですね」
私の、思い至ったという表情を見てか、とばりは小さく笑った。
「次に違う世界に行った時に、こっそりどこかに埋めてきます」
確かに、それはとばりにしか出来そうにない事だ。違う世界に行く事が出来るとばりなら。違う世界だったら、銃刀法違反も何もないだろうし。
――それに現状、それ以上の妙案は思い付かない。例えば同じ埋めてしまうにしても、ここの庭に埋めてしまっては、どるまんが掘り起こしてしまうという危険もあったりするかも。
この家じゃないどこかに埋めるのも、万一掘り起こされたらという観点でアウトだ。しっかり手に取っちゃってる訳だから、指紋を拭き取っておくのは勿論やるべき事だけど、それ以外のどこでどうアシが付くか解ったもんじゃない。
……だったら、違う世界に埋めてしまうのはありだ。仮に埋めたそれを誰かが見付けてしまったとしても、私達はまた同じ世界に行く事はないんだから。
よし、とばりに任せよう。
「解ったわ。これはとばりに預けよう」
ナイフの刃の部分を持って、とばりの方に手渡す。
「でも、取り扱いには充分気を付けてね」
「そんな子供じゃないんですから」
子供だと思うよ? 小学四年生の佐倉とばりちゃん。
……でも、よく考えたら、とばりはまた違う世界に行くんだろうという事を、覚悟しているって事なのか。
でなきゃこんな提案出来ないだろうしな……。
もしかしたら。とばりはこの現象を、アリスでなく、銀河鉄道の夜のように捉えているのかも知れない。
何かからの干渉があるという、この症状。
あの時聞こえた、謎の声。
くすくすくす――っていう気味の悪い笑い声。
あいつは多分、“博士”の立ち位置なんだろう。
……そう思うと、なんだか気に入らないけどな。
だけど現状、どうしようもない。只今を流されていくだけだ。
……私達は、いつかそれに逆らえるんだろうか。




