6-3 エターナル、ストーリー
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“私”は色々なものを持っていた筈。だけど今の私には何もない。
私は何をしているんだろう。あの“私”を知っている者はみんな居なくなってしまったというのに。
だから自分で探すしかない。決して見付かる事のない、本当の“私”を探す為に。
私は、優しかった“あの”××××××ではないのだ。
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――気が付いた時、そこは青色の廃墟みたいな所だった。
私はそこに立ったまま、違う世界へと来ていた。そしてこの廃墟だ。
いや、廃墟というか。そこは暗くて、所々水が滴っている。何か青っぽい石で出来た遺跡なんじゃないかと思う。
今度は遺跡か。ここからだと、一体ここがどれだけの文明がある世界なのか、判断が出来ないな。……そういえば、今度はどんな切っ掛けでこの世界に来たんだっけ。
……、あれ?
思い出せない。一瞬なんとなくなイメージが浮かんだんだけど、それはまるで夢の内容を思い出そうとするような、とても曖昧なもので、全然はっきりとは浮かんで来なくなった。なんでだ。度忘れか? そんな馬鹿な。
……解るのは、とばりがまた穴に落ちたんだ、という事。過程は解らないけど、そのあとを私も追い掛けていった、筈。だからこんな所に居る。
天井を見上げる。そこは石で塞がっているけど、所々ひびが入ってるみたいで、そこからうっすらと外の光が入って来ている。外は昼間なんだろうか。お陰で周囲を観察するのには困らないんだけど。
……ここに、人は居るんだろうか。
居なさそうだなあ……。
取り敢えず、穴を確認。私がこっちに来る際に通って来た、向こうとこっちを繋ぐ直径二メートルくらいの黒い穴だ。それはやっぱり私の立っていた後ろにあって、ここに飛び込むと元の世界に戻れる、筈だ。
そのあと、この穴のある部屋の近辺を歩き回ってみる。
……予想はしていたけども、人っ子一人居ない。という事はとばりの姿も見当たらないという訳で。
またどこかを探険してたりするんだろうか。――それとも今更思ったりするんだけど、私の出て来る出口ととばりの出口は違う場所に出来ているとか? 以前、私は穴に落ちて、一瞬宇宙空間に放り出された(らしい)事があるけど、とばりはそんな覚えはないって言ってた事もあるし。
それなら、私が違う世界に行った時、とばりの姿が見当たらないって事も解る話だったりして。
……まっさか、ねえ。
って完全に否定する事が出来ないんだよなあ。
以前行った世界でとある人に言われたんだ。とばりの症状は、何かからの干渉があるって。
そこと同じ世界で最初に出会った、謎の人物(声だけ)の事が頭に浮かぶ。今の所、あの声の主が一番怪しい。こうした事象に干渉している、或いは出来そうだと思われる奴は“あいつ”だけだ。
“あいつ”が、とばりに何かしようとしている。それは絶対にろくでもない事と思う。なにせこんな症状、普通にはあり得ない事なんだろうから。
アリス症候群プラス。
とばりが今患っているだろう症状の事だ。
不思議の国のアリス症候群っていうのは実際にある症例なんだけど、それとは違う、更に踏み込んだかのような症状を、私は勝手にプラスと付けた。
不思議の国のアリス症候群――。
その症状は、実はあまり珍しいものじゃない。元となったお話の中には、アリスがある飲み物を飲むと体が小さくなり、ある食べ物を食べると体が大きくなる、という描写がある。
この症候群はそんな描写になぞらえたもので、自分の周囲のものが実際よりも大きく見えたり、或いは小さく見えたりと、まるでアリスが体験したような事と同じような感覚に陥るという症候群らしい。体感するのは幼少期に多いという。
佐倉とばりはアリス症候群だ。但し、その症状の重さがまるで違う。
彼女は、本当に違う世界に行ってしまう。しかもそれは、私達の常識と異なる世界だ。それはまるで、アリスが不思議の国に行ってしまうみたいに。
“あいつ”なら、この症状の正体も解っているのかも。
……どうにかして、“あいつ”とまたコンタクトが取れないものか。
少し考えた結果、
「こらーっ!! 誰か居るなら出て来なさい!!」
大声を出してみる。
――来なさい――さい――さい……。
声が遺跡に反響しただけだった。
“あいつ”は出て来る気配がない。どうやら今回は、“あいつ”は私達に関わる気はないらしい。
……まあいいけどさ。
それより問題は、とばりがどこに居るのか、それだけだ。
だけど、さっきの大声にも反応はなかった。とばりが近くに居れば、なにかしらのリアクションがあってもいい筈だ。返事を返すとか、この部屋にやって来るとか。
つまりはこの辺りには、とばりは居ない、と。
さてどうしたものか。とばりを探さないと。それは勿論なんだけど、今あんまり出口の穴から離れるのは良くないだろう。こんな暗い迷路みたいな遺跡、迷って出口の穴の場所が解らなくなるなんて、洒落にならない。
じゃあどうしたものか……何か、目印になるものを――と思って周囲を見てみると、おあつらえ向きなものが目に入った。
壁画だ。とても大きな。見たまんまを記すなら、上には鳥の羽を背に持つ幾つもの白い何かが、その下には悪魔みたいな羽を背に生やした黒い大きな何かが、互いに向き合っているというもの。
どちらとも、大きな一つ――或いは一人の周囲に、幾つかの小さな同じものが描かれている。
……軍勢の衝突? イメージとしては、天使と悪魔の戦い、みたいな感じの絵。
はてこれはなんだろう。よく見ると、所々塗装が若干剥げていて、察するに相当古そうなものなんだろうっていう事は解る。ここが、思った通りに遺跡なんだとしたら、これは歴史的な何かだったりするんだろうか。宗教的なものの絡む絵なのかも知れない。
興味深いな。と周りを見てみると、他にも幾つか、これよりも小さな壁画が描かれていた。もしかしたら、ここは大昔の記録室みたいな所なのかも知れない。
――ともかく、この目印のある部屋を、取り敢えず始まりの場所としよう。ここを中心に、色々と回って見てみるのがいい。こんな大きな目印があるんだ、そうはこの場所を見失いはしまい。
という訳で、早速探索開始。部屋の外へ向かって、歩き出す。




