表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わるアリスの刻 -Mystic Princess  作者: 真代あと
第五話 封印図書館

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/108

5-4 本本本

 本。

 本。本。本。本――。

 暗い場所の中、周囲は本棚と、そこに詰められた本だらけだった。

 自分の背丈以上の、高くて長い本棚。

 ゆっくりと、絨毯敷きの通路を歩いていても、それ以外のものが全く見当たらない。通路の角が見えたかと思ったら、そこに行くと更にたくさんの本棚がずらりと並んでいた。

 図書館――と言うにはあまりに広い。

 そして人らしき気配が全くない。

 暗い。

 不安になって来る。

「誰か居ませんかー……」

 小さく声を上げてみる。

 その声は、周囲を覆う暗闇に吸い込まれていっただけだった。

 なんでこんな小さな声になったか。それは唐突に、“図書館では静かに”という言葉を思い出したからだった。いやここが本当に図書館なのかどうかは解らないけど。

 ……勿論、そんな声を聞いてくれる存在などここに居る筈もなく。他に人が居なければ、

“図書館では静かに”なんてルールを守る必要もないんだろうけどな。

 空を見上げてみると、それは夜空。たくさんの星々と、一つの大きな月がそこに輝いている。

 夜空の下の、妙な建物。

 勿論おかしい。穴に入って来たのはまだ日が照っていた頃だったんだ。時間が元の世界とは違う、おかしな事になっている。

 いやそれ以前に、ここは一体どういう所なんだろう。

 本がたくさんあるから、つまりはやっぱり図書館? でいいんだろうか。

 ……図書館。

 不意に、ある衝動が湧いて出て来るのを感じた。

 してはいけない――故にこそ、やってみたいという考え方もある!

「うにゃああーーーーっ!!」

 猫の鳴き真似、プラス大声。

 誰も居ないと解るとなると、気も大きくなるというもの。勿論、ここにとばりが居たなら、そしてこの声を聞いてここに来てくれるとかになったら、一気に今回の問題も解決するってものだ。

「うおーい、とーばーりーっ!」

 本来の目的を思い出して、大声を若干修正。

「――あらあら。またお客さんですか」

 そうすると、突然に声が。

「うおっ」

 自分で呼んでおいて、ちょっとびっくりする。

「今度は誰?」

 さっきまでのとは違う声。それが女だというのは解ったけど、とばりとは違う声なのは確かだった。

「怪しい者じゃあありませんよ」

 ――足音が。そのつかつかと鳴る方向に目を向けると、暗闇の奥から人影が。

 そして暗闇から顔を覗かせるは、とばりじゃない、一人の小さな女の子だった。

「こんにちは、お客さん」

 その子は微笑みながら、儚げな声でそう言った。

 ……こんにちはって言われても。

「こんばんは、お嬢さん」

 こっちの方が適当に思える。なにせ日が照ってないんだもの。空に見えるのは完全な星空。真っ黒い所にある幾つもの光点。

 それよりも、

 その子もまたおかしい。主にそのいでたちからして。

 床に届く程の長さの、質素ながら白いドレス。そして頭に掛かる、同じく白の薄いベール。

 まるで花嫁衣裳みたいな――それが率直な感想だった。だけどその割には幼く見える背格好なんだけど。

 ……その子は微笑みながらこっちを見ていて、

「貴方は、どうやってここに来たんでしょう」

 そう訊いて来る。

「どうやって、って訊かれても……」

 私にも解らない。穴に落ちて、気付いたらここに居たんだ。そのプロセスは不明。

「普通には、人はここには来られない筈です。ここには普通の入口などはないんですから」

 普通の入口はない――。

 つまりはあの穴は、やっぱり普通に出来るものじゃないという事か。いや薄々感付いてはいたけども。

「貴方は、アリス症候群……って知ってます?」

「アリス、症候群?」

 首を傾げる彼女。

「正式には、不思議の国のアリス症候群って言うんだけど」

 微妙に長ったらしく語呂の悪い名前で尋ねる。

「……ああ」

 彼女の首が戻る。

「その症状は読んだ事があります。そう、という事は、貴方は“地球”の方ですね」

 そんな事も解ったりするのかい。確かに不思議の国のアリスは地球生まれのお話だけども。

 ――だけど、今聞いた台詞。

「読んだ?」

 なったとか、見たとかでなく、読んだ。

 ちょっと解らない。地球の事が書かれた本でもあるのか? 確かにここには本はたくさんあるけども。

「ええ、読みました。地球について書かれた本は殆ど」

 ……やっぱり解らない。地球の事について書かれた本を殆どって、仮にあったとしてどれだけの量になるんだ?

 そして、ここに地球以外の事が書かれた本があるとしたら――。

「貴方が居たのは、西暦にして何年でしょう?」

 西暦、という概念まで解るらしい。地球の本があるっていうのも、あながち冗談とかじゃないのかも。

「私が居たのは西暦二〇〇二年よ」

 そう私が答えると、

「そうですか……西暦二〇〇二年……」

 なぜか、渋い顔をして口元に手を当て考え込む女の子。

「な、何か?」

「いえ、お気になさらずに。こちらの事ですから」

 考え込みを解除して、こっちに向き直る女の子。

「いや気になるわそんな思わせぶりな事されたら」

 二〇〇二年に何があるのか? 何かある事を知ってるのか?

 っていうか、この子は一体何者なんだ? こんな広くて暗い所に、一人で居るのか? 他の人が居そうな気配がまるでしないんだけど。あの最初の声の主も、どこに行ったのやら解らないし。

「……それよりも、貴方はどうしてここに?」

 女の子から、そう疑問を投げ掛けられる。

 それは私が訊きたい所だ。穴に落ちて気が付いたら宇宙空間に居て、次に気が付いたらこんな謎空間に居るんだから。

 だけど、私にはやるべき事があるんだ。例えどこに行ったとしても、忘れてはいけない事。

「私は先にこっちに来ちゃった女の子を探しに来たの。佐倉とばりって言うんだけど」

「……サクラ トバリさん……」

 少し、考え込む女の子。

「ここに誰かが入って来たら、大体は解ります。そもそもここに誰かが来る事自体、あまりない事ですから」

「さっき、またお客さんって言ってたけど、もしかしてその前に小さな女の子が来なかった?」

 女の子は、少し考え込んで、

「ああ……確かに来ましたね」

 そう答えた。

 とばりの事だ。間違いない。

「どこに行ったの?」

「……さあどこに行ったんでしょう。少なくとも、この真ん中より外に出たとは思えないですけれど」

 そうか。また好奇心に触発されてどっかに行っちゃったんだな。

 だけどこの図書館? みたいな所、本と本棚だらけで一体どこを探せばいいのやら。どこまで行っても、景色としては殆ど変わらない所なんだもの。

 それに、さっきこの子はここを真ん中って言ってたけど、するとここには真ん中以外の場所があるって事か。そんなの探すってなったら、広過ぎてすぐに遭難しそうだよ。

「っていうか、ここはなんなの? なんだか本しかない場所みたいだけど」

 女の子は、少し考えを巡らせるように、口元に手をやってから、

「ここは、世界の英知を集めた所。封印図書館と呼ばれています」

 そう答えを返した。やっぱり、ここは図書館らしいけど――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ